【コミカライズ配信中/4月書籍発売】アデル~顔も名前も捨てた。すべては、私を破滅させた妹聖女を追い詰め、幸せをつかむため~

 私は記憶をたぐり寄せ、必死に小説の内容を思い出していた。

【黒薔薇姫】は革命期の西欧をモチーフにしているようで、物語のラストではフランス革命のごとき市民の武装蜂起が起こる。

 正確な日にちは分からないけれど、シリウスの反乱イベントは『朝靄が立ちこめる不穏な晩夏に起こった』と小説に書かれていた。

 

 反乱の狼煙(のろし)は、夜明け前の市街地から上がる。
 
 腐敗した王政を倒すべく、革命家が市民を扇動。貧しい暮らしを強いられてきた民は、怒りのまま暴動を起こす。
 
 市民は、まず武器を求めて廃兵庫を目指した。

 廃兵庫は、前線で使えなくなった古い大砲や銃剣、その他武器を保管している倉庫だ。

 市民は廃兵庫から大量の武器を奪取。さらに各商会の倉庫を襲い、弾薬や火薬を手に入れ、完全武装を果たす。

 あとは、王族の首を取るだけだ――。憎しみに駆られた民衆は、武器を手にまっすぐ王宮へ進軍する。


 
 一方その頃、民衆蜂起の知らせを受けた王宮は大混乱だった。
 
 宮殿内には王族の他にも、夏のバカンスで集まった貴族諸侯がいた。彼らは迫り来る市民に恐れをなし、半狂乱になっていた。
 
 わめき散らしながら逃げまどう貴族たち、急ぎ籠城の支度をはじめる廷臣たち。病床に伏せる国王陛下と次期国王のメイナード、聖女ミーティアを守るため奔走する王城騎士。

 
 小説のラストに相応しい、絶体絶命の大ピンチ。
 
 そして終盤のクライマックスシーン。
 シリウスが反旗をひるがえす――。

 
 城下町と城内の混乱を好機ととらえたシリウスは、メイナードとミーティアを王の間にある隠し部屋へ誘い込み。

 突如、背後からメイナードに斬りかかる――!
 
 重症を負い息絶えるメイナード。
 それを見下ろし残忍に(わら)うシリウス。

 
 もしかしてバッドエンド……? と読者が思ったそのとき、ミーティアが癒しの異能を最大限発揮し、愛と奇蹟の力でメイナードが復活。

 驚きうろたえるシリウスを倒し、形勢逆転。

 城下の暴徒市民も拘束され、シリウスの反逆と市民の反乱は失敗に終わる。

 後日、シリウスは市民とともに中央広場でギロチン刑にかけられ落命。

 メイナードは王位を継承し、良き国を築くことを民衆に誓う。

 そして自分を救ってくれたミーティアを正妃に迎え、永遠の愛を誓い、物語はハッピーエンドで幕を閉じる。

 

 小説の内容から考えると……シリウスが反逆を起こす引き金(きっかけ)は、やはり民衆の蜂起だ。
 
 城下で暴動が起こらず、王宮内が混乱しなければ、そもそもシリウスがメイナードを狙う機会がなくなる。

 
(まずは、市民の暴動を防がなきゃ)


 私は側に控えていたソニアに告げた。

「近々、過激派の革命家と市民が廃兵庫を襲うという情報を、ある筋から入手したの。警備体制を強化するよう、秘密裏に騎士団と自警団に働きかけることは出来るかしら」

「かしこまりました。早急に任務にあたります」

「お願いね」

 ソニアは、前世だのシナリオだの、説明しにくいことを絶妙にぼかす私に気付きつつ、何も聞かないでいてくれる。

 全面的に信頼し協力してくれる彼女に、私は心から感謝した。

 
(さて、次の手は――)

 
 万が一、シナリオどおりに反乱が起きた場合に備えて、被害を最小限にする策も講じなければ。

(廃兵庫が襲われたとしても、火薬と弾薬がなければ、武器は鉄の塊も同然。各商会の火薬倉庫も死守しなきゃ。――お父様に頼みましょう)
 
 私は書斎に向かった。

 父に『危険物のある倉庫を厳重警備するよう、各商会に至急通達して欲しい』と頼むと、すぐさま了承が得られた。

 
(ひとまず、出来る限りの手は尽くしたわね)

 
 椅子の背もたれに身を預け、ふぅとため息をつくと、侍女が部屋にやってきた。
 
「お嬢様、王宮から招待状が届きました」

「招待状?」

 差出人は――ミーティア・ロザノワール伯爵令嬢。

 内容は、明日、聖女離宮で開催されるお茶会への誘いだった。

 
(いよいよ『アデル』として対面する時ね。気を引き締めなきゃ――)