さぁぁっと柔らかな春風が吹き、花壇にある色とりどりの花弁が揺れた。
黄色や白い蝶々が、ひらひらと私たちの間を通り抜けてゆく。
私は芝生の上に座り込んでうつむいたまま、何も喋らなかった。
何を言えばいいのか分からなかったし、柄にもなく大泣きしてしまったのが恥ずかしかったから。
一分にも満たない静寂が、とても長く感じられた。
やがて頭上から「……あのさ」という呟きが聞こえてきた。
視線を少し上に向けると、膝をついたシリィとちょうど目が合った。
「ごめん。酷いこと言って泣かせて。本当に、ごめんなさい」
真剣な表情とまっすぐな言葉に、心からの謝罪と後悔が伝わってくる。
何か言わなきゃ――と思うのに、良い言葉が思いつかない。
(こういうときって、何て言えばいいんだろう)
思えば、誰かと本気で喧嘩して、謝罪される経験はこれが初めてだった。
「やっぱり、許してもらえない……よな。あんなに酷いこと言って、何度謝ったって足りないのは分かってる。でも、ごめん」
シリウスは頭を深々と下げた。
「違うの、もう怒ってないわ! 大嫌いは悲しかったけど、もう怒ってないから」
「ほんとうに?」
顔を上げてすがるような目でこちらを見るシリィ。
そのとき、私の視界にあるものがちらついた。頭のなかにパッと名案が浮かぶ。
「じゃあ、仲直りのプレゼントをちょうだい!」
「仲直りのプレゼント?」
「そう。あの花をくれたら、許してあげる」
私の指さす方を見て、シリィは分かったと立ち上がる。
そして花壇の近くへ行くと少し考え込んで……。満開の花を手折るのではなく、咲ききってしぼみ、風にあおられて地面に落ちた花弁を拾って戻ってきた。
そのあまりの優しさに、思わず笑みをこぼす。
花さえ手折れない優しい彼が、私に酷いことを言った。それはきっと悪意からではないのだろう。
得体のしれない貴族令嬢が、どうして足繁く孤児院に来るのか、不審に思っていたのかもしれない。
シリィが水色の花びらを乗せた両手を差し出す。私は包み込むように、彼の両手に手を添えた。
「この花ね、ネモフィラって言うんだって。お祖母さまからもらった花図鑑で読んだの」
「知らなかった。ネモフィラ、か」
二人で、重なり合った手の中の花をのぞきこむ。
「そう、ネモフィラ。花言葉はね――『あなたを許す』」
シリィがはっと顔を上げた。
間近にある彼の青い瞳が、陽光を受けてキラキラかがやく。
私は満面の笑みを浮かべて言った。
「これで仲直り! ねぇ、シリィ、私と友達になってくれる?」
「……っ! うん、もちろんだよ。……エスター」
そう言ったシリィは、春の木漏れ日にも負けないくらい眩しい笑顔を浮かべていた。
「いま、初めて私の名前を呼んでくれたよね? すごくうれしい!」
心のまま気持ちを伝えると、シリィは慌てた様子で手をパッと手を離した。
「シリィ? どうかしたの?」
「べつに、なにも」
シリィはいつも通りぶっきらぼうに言うと、ぷいっと背を向けてしまった。
なんで? どうして?と聞いても、『別になんでもない』とはぐらかされてしまう。
見れば、彼の頬から首筋、耳がじんわり真っ赤に染まっていた。
「はっはぁ~ん、分かったわ。シリィ、あなた、ごめんって言い慣れていなくて照れているんでしょう!そうなんでしょう!」
「いや、違う」
「だったら何なの? どうして背中を向けるの?」
「だから、別になんでもないって! つーか、どうせお子様にはわかんねーよ」
「お子様じゃないもん!」
この日を境に、私とシリィは一番仲良しな友達になった。
黄色や白い蝶々が、ひらひらと私たちの間を通り抜けてゆく。
私は芝生の上に座り込んでうつむいたまま、何も喋らなかった。
何を言えばいいのか分からなかったし、柄にもなく大泣きしてしまったのが恥ずかしかったから。
一分にも満たない静寂が、とても長く感じられた。
やがて頭上から「……あのさ」という呟きが聞こえてきた。
視線を少し上に向けると、膝をついたシリィとちょうど目が合った。
「ごめん。酷いこと言って泣かせて。本当に、ごめんなさい」
真剣な表情とまっすぐな言葉に、心からの謝罪と後悔が伝わってくる。
何か言わなきゃ――と思うのに、良い言葉が思いつかない。
(こういうときって、何て言えばいいんだろう)
思えば、誰かと本気で喧嘩して、謝罪される経験はこれが初めてだった。
「やっぱり、許してもらえない……よな。あんなに酷いこと言って、何度謝ったって足りないのは分かってる。でも、ごめん」
シリウスは頭を深々と下げた。
「違うの、もう怒ってないわ! 大嫌いは悲しかったけど、もう怒ってないから」
「ほんとうに?」
顔を上げてすがるような目でこちらを見るシリィ。
そのとき、私の視界にあるものがちらついた。頭のなかにパッと名案が浮かぶ。
「じゃあ、仲直りのプレゼントをちょうだい!」
「仲直りのプレゼント?」
「そう。あの花をくれたら、許してあげる」
私の指さす方を見て、シリィは分かったと立ち上がる。
そして花壇の近くへ行くと少し考え込んで……。満開の花を手折るのではなく、咲ききってしぼみ、風にあおられて地面に落ちた花弁を拾って戻ってきた。
そのあまりの優しさに、思わず笑みをこぼす。
花さえ手折れない優しい彼が、私に酷いことを言った。それはきっと悪意からではないのだろう。
得体のしれない貴族令嬢が、どうして足繁く孤児院に来るのか、不審に思っていたのかもしれない。
シリィが水色の花びらを乗せた両手を差し出す。私は包み込むように、彼の両手に手を添えた。
「この花ね、ネモフィラって言うんだって。お祖母さまからもらった花図鑑で読んだの」
「知らなかった。ネモフィラ、か」
二人で、重なり合った手の中の花をのぞきこむ。
「そう、ネモフィラ。花言葉はね――『あなたを許す』」
シリィがはっと顔を上げた。
間近にある彼の青い瞳が、陽光を受けてキラキラかがやく。
私は満面の笑みを浮かべて言った。
「これで仲直り! ねぇ、シリィ、私と友達になってくれる?」
「……っ! うん、もちろんだよ。……エスター」
そう言ったシリィは、春の木漏れ日にも負けないくらい眩しい笑顔を浮かべていた。
「いま、初めて私の名前を呼んでくれたよね? すごくうれしい!」
心のまま気持ちを伝えると、シリィは慌てた様子で手をパッと手を離した。
「シリィ? どうかしたの?」
「べつに、なにも」
シリィはいつも通りぶっきらぼうに言うと、ぷいっと背を向けてしまった。
なんで? どうして?と聞いても、『別になんでもない』とはぐらかされてしまう。
見れば、彼の頬から首筋、耳がじんわり真っ赤に染まっていた。
「はっはぁ~ん、分かったわ。シリィ、あなた、ごめんって言い慣れていなくて照れているんでしょう!そうなんでしょう!」
「いや、違う」
「だったら何なの? どうして背中を向けるの?」
「だから、別になんでもないって! つーか、どうせお子様にはわかんねーよ」
「お子様じゃないもん!」
この日を境に、私とシリィは一番仲良しな友達になった。


