ある日、薪を割るシリィを見かけた私は――。
「シリィ、お手伝いするわ!」
あっさり無視されてしまうが、それもクールでオトナっぽく見える。
「そうなのね。これが、『いちいちやり方なんぞ教えねぇ。見て技をおぼえろ』という”ショクニンだましい”なのね! さすがだわ、師匠」
「……」
またある日は――。
「シリィ、いっつも何のご本を読んでいるの? 分厚い本ね。伝承もの? 冒険もの?あっ、それとも恋愛ものかしら?」
彼は何も答えない。屋敷に戻って使用人に調べさせると、その本は宮廷陰謀を描いた推理ものだった。
うちの蔵書にもあったその本を持って、シリィの隣に座る。珍しく彼が横目で私を見た。
「えへへ、同じ本がうちにもあったの。お揃いね! あっ、急いで読むから、結末はまだ言わないでね! ぜったいよ!」
来る日も来る日も、私は必死に彼の背中を追いかけた。
歩幅が違うから、ちょっと息を切らしながら、てくてく後ろをついていく。
会話は少なかったけれど、シリィは私に色々な発見をくれた。
今になって考えれば、彼は間違いなく私のことが嫌いで、うっとおしかったのだと思う。
しかし当時の私には、子供ならではの無邪気さと前向きさがあった。
シリィの負の感情をあさっての方向に解釈し、足元にじゃれつく子犬みたいにまとわりついたのだった。
そして週が何度もめぐり、季節は冬から春へと移り変わる。
うららかな春の陽気を感じる、とある昼下がり。
今まで私に無関心だったシリィが、ついにぶちぎれた――。
その日は天気が良くて、お昼はみんなで中庭に出て遊んでいた。
私は他の子と数回追いかけっこをしたあと、最近の定位置――木陰に座るシリィの横に、腰を下ろす。
今日は何のご本を読んでいるの?と聞こうとして、彼の銀髪に緑の葉がついているのに気付いた。
ツンと澄ましたオトナな男の子が、頭のてっぺんにちょこんと葉っぱを乗せている。
何だかとっても可愛らしい。
私は両手で口元を隠してくすくすっと笑うと、そうっと手を伸ばした。
その瞬間、彼がこちらを見やり――。
「さわんな!!」
大声とともに、手がパシンッと叩き落とされる。
痛みはなかったが、本気で拒絶されたことによるショックが大きかった。
……嫌われた。
そう思った途端、胸が痛くなった。目に涙がにじむ。
シリィは一瞬はっとした表情を浮かべたものの、次の瞬間には、苦しげに顔を歪めて低くうなった。
「お前、いつもいつも俺のあとをついてきやがって。一体、何なんだよ」
「私、シリィと、お友達になりたくて……」
「友達? そんなの、なれるわけねーだろうが」
バッサリ言い切られて、私はますます悲しい気持ちになった。
「どうして……?」と尋ねる声が、か細く震える。
「お前が貴族で、俺が平民だからだ。今は良くても、どうせ大人になったら、お前は俺のことなんて――」
シリィは苦しげな顔で口をつぐみ、私に背を向けた。
「俺は、貴族が嫌いだ。だからお前みたいなお姫様も――大嫌いだ」
鋭利な言葉の刃が、私の心に突き刺さる。
シリィは捨て台詞をいうと、私の方をろくに見ずにさっさと歩き出してしまった。
私はその場にへたり込み、涙を堪えて引き下がる。
…………ような子じゃなかった!
「私はっ」
唇をかみしめ、溢れそうになる涙をぐっと堪えて顔をあげた。
視線をまっすぐ正面に向けて、華奢な背中に狙いを定める。
すぅぅぅっと息を吸い込んで――。
「私は、お姫様なんかじゃないもんっ!」
腹の底から大声を張り上げた!!
さすがのシリィも驚いた様子で振り返る。
私は駆け出し、華奢な少年めがけてダイブした――!
「はあぁ!? ちょっ、うわぁっ」
渾身の捨て身ハグを真っ正面から受けたシリィは、私を抱き留めたまま、すってんころりん後ろに倒れる。
ふわふわな芝生に折り重なって転がると、瑞々しい草の香りがした。
彼の上に乗っかった体勢で目を開けると、ちょうど至近距離で目が合う。
いつもはクールな無表情のシリィが、ぽかんと口を開けて呆けている。
無防備な姿にちょっとだけ、胸の内がすっきりした。
「シリィ、お手伝いするわ!」
あっさり無視されてしまうが、それもクールでオトナっぽく見える。
「そうなのね。これが、『いちいちやり方なんぞ教えねぇ。見て技をおぼえろ』という”ショクニンだましい”なのね! さすがだわ、師匠」
「……」
またある日は――。
「シリィ、いっつも何のご本を読んでいるの? 分厚い本ね。伝承もの? 冒険もの?あっ、それとも恋愛ものかしら?」
彼は何も答えない。屋敷に戻って使用人に調べさせると、その本は宮廷陰謀を描いた推理ものだった。
うちの蔵書にもあったその本を持って、シリィの隣に座る。珍しく彼が横目で私を見た。
「えへへ、同じ本がうちにもあったの。お揃いね! あっ、急いで読むから、結末はまだ言わないでね! ぜったいよ!」
来る日も来る日も、私は必死に彼の背中を追いかけた。
歩幅が違うから、ちょっと息を切らしながら、てくてく後ろをついていく。
会話は少なかったけれど、シリィは私に色々な発見をくれた。
今になって考えれば、彼は間違いなく私のことが嫌いで、うっとおしかったのだと思う。
しかし当時の私には、子供ならではの無邪気さと前向きさがあった。
シリィの負の感情をあさっての方向に解釈し、足元にじゃれつく子犬みたいにまとわりついたのだった。
そして週が何度もめぐり、季節は冬から春へと移り変わる。
うららかな春の陽気を感じる、とある昼下がり。
今まで私に無関心だったシリィが、ついにぶちぎれた――。
その日は天気が良くて、お昼はみんなで中庭に出て遊んでいた。
私は他の子と数回追いかけっこをしたあと、最近の定位置――木陰に座るシリィの横に、腰を下ろす。
今日は何のご本を読んでいるの?と聞こうとして、彼の銀髪に緑の葉がついているのに気付いた。
ツンと澄ましたオトナな男の子が、頭のてっぺんにちょこんと葉っぱを乗せている。
何だかとっても可愛らしい。
私は両手で口元を隠してくすくすっと笑うと、そうっと手を伸ばした。
その瞬間、彼がこちらを見やり――。
「さわんな!!」
大声とともに、手がパシンッと叩き落とされる。
痛みはなかったが、本気で拒絶されたことによるショックが大きかった。
……嫌われた。
そう思った途端、胸が痛くなった。目に涙がにじむ。
シリィは一瞬はっとした表情を浮かべたものの、次の瞬間には、苦しげに顔を歪めて低くうなった。
「お前、いつもいつも俺のあとをついてきやがって。一体、何なんだよ」
「私、シリィと、お友達になりたくて……」
「友達? そんなの、なれるわけねーだろうが」
バッサリ言い切られて、私はますます悲しい気持ちになった。
「どうして……?」と尋ねる声が、か細く震える。
「お前が貴族で、俺が平民だからだ。今は良くても、どうせ大人になったら、お前は俺のことなんて――」
シリィは苦しげな顔で口をつぐみ、私に背を向けた。
「俺は、貴族が嫌いだ。だからお前みたいなお姫様も――大嫌いだ」
鋭利な言葉の刃が、私の心に突き刺さる。
シリィは捨て台詞をいうと、私の方をろくに見ずにさっさと歩き出してしまった。
私はその場にへたり込み、涙を堪えて引き下がる。
…………ような子じゃなかった!
「私はっ」
唇をかみしめ、溢れそうになる涙をぐっと堪えて顔をあげた。
視線をまっすぐ正面に向けて、華奢な背中に狙いを定める。
すぅぅぅっと息を吸い込んで――。
「私は、お姫様なんかじゃないもんっ!」
腹の底から大声を張り上げた!!
さすがのシリィも驚いた様子で振り返る。
私は駆け出し、華奢な少年めがけてダイブした――!
「はあぁ!? ちょっ、うわぁっ」
渾身の捨て身ハグを真っ正面から受けたシリィは、私を抱き留めたまま、すってんころりん後ろに倒れる。
ふわふわな芝生に折り重なって転がると、瑞々しい草の香りがした。
彼の上に乗っかった体勢で目を開けると、ちょうど至近距離で目が合う。
いつもはクールな無表情のシリィが、ぽかんと口を開けて呆けている。
無防備な姿にちょっとだけ、胸の内がすっきりした。


