「あの二人は毎回、よく飽きずに喧嘩できるな」
「まさに、喧嘩するほど仲が良いって感じですね。ケンカップルかぁ、ほほ笑ましい」
「けんかっぷる? ……好きなひとの気を引きたくて失敗し、喧嘩に発展するのはよくあることだ」
「殿下にも経験がおありですか?」
いたずらっぽく尋ねると、彼は「ある、な」と懐かしそうに言う。
「子供の頃、女の子を泣かせてしまったことがある。彼女のことは、最初から無性に気になっていた。気が付けば目で追ってしまい、会える日を密かに楽しみにしていた。今思えば、一目惚れで初恋、だったのだろう」
中庭の木の下でクッキーを食べる少年少女を眺めながら、遠い目で過去を語る殿下。
冷めた表情のまま、淡々と甘酸っぱい初恋話をする姿がアンバランスで、私は思わず彼の顔をまじまじ見てしまった。
シリウスがこちらをチラリと横目で見て、わずかに苦笑する。
「君は、感情が顔に出やすいな」
「そっ、そうですか? 私、どんな顔してました?」
「そうだな」
すこし身をかがめ、シリウスが私の顔をのぞき込んだ。
「『この冷血そうな男が恋の話をするなんて意外だ。すさまじく似合わない』と、顔に書いてある」
「ざんねん!半分正解で半分不正解です! 意外だとは思いましたけど、似合わないなんて思ってませんわ」
(むしろ、すごく胸キュンとしたというか、ものすごいギャップ萌えを浴びせられて放心してしまったというか……)
「きゅん? ぎゃっぷもえ? 以前から思っていたが、君はときどき、不思議な言葉を使うな」
「えっ、声に出てました!?」
心の中で思っていたはずなのに、うっかり声に出してしまっていたらしい。シリウスは顎に手を当て、何やら考え込んでいる。
「今のは、共和国かどこかの若者言葉か? 聞いたことのない単語だ。どういう意味だろうか」
「えっ!? いや、大した意味では」
「知らない言葉があると、意味を知りたくなる性質なんだ。それで?」
どうやら逃がしてくれそうもない。観念した私は、おずおず説明を始めた。
「『胸キュン』というのは、感情表現の一種で、胸が高鳴り、切なく締め付けられるという意味です。『ギャップ萌え』は、相手の意外な一面を知って、親近感や好意を抱く……という意味かと」
説明しているうちに、激しい羞恥心がこみあげてくる。
なぜ私は、真顔の殿下に『胸キュン』とか『ギャップ萌え』の説明をしなければならないのだろう。こんなの拷問というか、羞恥プレイだ。
(うかつに前世の言葉を喋ってしまった私が悪いのだけれど……。恥ずかしくて居たたまれない……っ)
じわじわっと頬に熱がたまって、私はたまらず顔を覆った。必死に羞恥に耐えていると、上から殿下の感心しきった声が聞こえてきた。
「ほう。短い単語でそれだけの想いを伝えられるとは、なかなか便利な言葉だ。アデルは物知りだな」
「え、ええ。お褒めにあずかり、光栄です……」
「そうか。だとすると君は、俺の意外な一面を知って好意を抱いてくれた、ということか」
「えっ!!!」
シリウスの爆弾発言に、思わず顔を上げる。
言葉を失う私に、彼は「違うのか?」と切なげな顔で追い打ちをかける。
(そんなシュンとした顔されたら、正直に白状するしかないじゃないっ!)
小さな声で「そうです」と呟いた瞬間、とうとう恥ずかしさが限界突破。ボンッと音がしそうな勢いで、私の顔が一気に熱くなった。
それを見て、シリウスが珍しく破顔する。
笑いを堪える彼を、私は涙目でにらみ上げた。
「私をからかいましたね! 今日の殿下は意地悪です!」
「いや、すまない。君があんまりにも表情豊かだから、つい。どうしてだろうな、君と居ると楽しくて、色んな表情を見てみたくなる」
「まったくもう!」
腰に手を当て、まだ熱の引かない顔で怒ったふりをすると、殿下が一層楽しげに笑った。
まるで少年のような表情に、ふと言い知れぬ懐かしさを覚える。
それはシリウスも同じだったのか、ひとしきり笑い終えると、不思議だな――と呟いた。
「まさに、喧嘩するほど仲が良いって感じですね。ケンカップルかぁ、ほほ笑ましい」
「けんかっぷる? ……好きなひとの気を引きたくて失敗し、喧嘩に発展するのはよくあることだ」
「殿下にも経験がおありですか?」
いたずらっぽく尋ねると、彼は「ある、な」と懐かしそうに言う。
「子供の頃、女の子を泣かせてしまったことがある。彼女のことは、最初から無性に気になっていた。気が付けば目で追ってしまい、会える日を密かに楽しみにしていた。今思えば、一目惚れで初恋、だったのだろう」
中庭の木の下でクッキーを食べる少年少女を眺めながら、遠い目で過去を語る殿下。
冷めた表情のまま、淡々と甘酸っぱい初恋話をする姿がアンバランスで、私は思わず彼の顔をまじまじ見てしまった。
シリウスがこちらをチラリと横目で見て、わずかに苦笑する。
「君は、感情が顔に出やすいな」
「そっ、そうですか? 私、どんな顔してました?」
「そうだな」
すこし身をかがめ、シリウスが私の顔をのぞき込んだ。
「『この冷血そうな男が恋の話をするなんて意外だ。すさまじく似合わない』と、顔に書いてある」
「ざんねん!半分正解で半分不正解です! 意外だとは思いましたけど、似合わないなんて思ってませんわ」
(むしろ、すごく胸キュンとしたというか、ものすごいギャップ萌えを浴びせられて放心してしまったというか……)
「きゅん? ぎゃっぷもえ? 以前から思っていたが、君はときどき、不思議な言葉を使うな」
「えっ、声に出てました!?」
心の中で思っていたはずなのに、うっかり声に出してしまっていたらしい。シリウスは顎に手を当て、何やら考え込んでいる。
「今のは、共和国かどこかの若者言葉か? 聞いたことのない単語だ。どういう意味だろうか」
「えっ!? いや、大した意味では」
「知らない言葉があると、意味を知りたくなる性質なんだ。それで?」
どうやら逃がしてくれそうもない。観念した私は、おずおず説明を始めた。
「『胸キュン』というのは、感情表現の一種で、胸が高鳴り、切なく締め付けられるという意味です。『ギャップ萌え』は、相手の意外な一面を知って、親近感や好意を抱く……という意味かと」
説明しているうちに、激しい羞恥心がこみあげてくる。
なぜ私は、真顔の殿下に『胸キュン』とか『ギャップ萌え』の説明をしなければならないのだろう。こんなの拷問というか、羞恥プレイだ。
(うかつに前世の言葉を喋ってしまった私が悪いのだけれど……。恥ずかしくて居たたまれない……っ)
じわじわっと頬に熱がたまって、私はたまらず顔を覆った。必死に羞恥に耐えていると、上から殿下の感心しきった声が聞こえてきた。
「ほう。短い単語でそれだけの想いを伝えられるとは、なかなか便利な言葉だ。アデルは物知りだな」
「え、ええ。お褒めにあずかり、光栄です……」
「そうか。だとすると君は、俺の意外な一面を知って好意を抱いてくれた、ということか」
「えっ!!!」
シリウスの爆弾発言に、思わず顔を上げる。
言葉を失う私に、彼は「違うのか?」と切なげな顔で追い打ちをかける。
(そんなシュンとした顔されたら、正直に白状するしかないじゃないっ!)
小さな声で「そうです」と呟いた瞬間、とうとう恥ずかしさが限界突破。ボンッと音がしそうな勢いで、私の顔が一気に熱くなった。
それを見て、シリウスが珍しく破顔する。
笑いを堪える彼を、私は涙目でにらみ上げた。
「私をからかいましたね! 今日の殿下は意地悪です!」
「いや、すまない。君があんまりにも表情豊かだから、つい。どうしてだろうな、君と居ると楽しくて、色んな表情を見てみたくなる」
「まったくもう!」
腰に手を当て、まだ熱の引かない顔で怒ったふりをすると、殿下が一層楽しげに笑った。
まるで少年のような表情に、ふと言い知れぬ懐かしさを覚える。
それはシリウスも同じだったのか、ひとしきり笑い終えると、不思議だな――と呟いた。


