公の場に出る時とは違い、セットされていない艶やかな銀髪が、サラリと風に揺れる。
街によくいる平民の青年を装っているけれど、全身から漂う気品と美貌を隠せていない。
洗濯かごという『クソダサアイテム』すら、シリウスが持つと高級品に見えてくるから不思議……。
「大嫌いより、大好きの方が幸せになれる、か。俺も昔、似たようなことを言われた経験がある」
「殿下っ! その……いつから見ていたんですか?」
「あの少年が少女をいじめてしまった所から、だな」
「最初から……。さっきの偉そうな言葉は忘れてください!」
「何故? 俺は良い言葉だと思った。いつか誰かに言うため、書き留めたいくらいだ」
「お世辞を言っても、クッキーくらいしかあげられませんよ」
「最高の褒美だ。甘い物は好きなんだ」
冷酷だと思っていた彼は、打ち解けると意外にもフレンドリーで穏やか。無口だけど頑固ではなく、むしろ素直で、プレイベート時はどこかおっとりした雰囲気をまとっている。
「これは、向こうに持っていけばいいのか?」
あまりに自然に尋ねてくるものだから、私もとっさに「はい」と言ってしまった。
彼が洗い場に消えてから、ようやく「しまった」と思い至る。
(王子に洗濯物を運ばせたなんて、王宮の人に知られたら……)
「いやぁ、うちの殿下を顎で使うとは。ずいぶん不敬なことをしてくれますねぇ」
「ひいっ!」
耳元で不穏な言葉をささやかれて、私はビクッと飛び跳ねる。
慌てて振り返ると、シリウスの護衛騎士ライアンがニヤッとしながら立っていた。
「いやぁ、そんなに飛び跳ねるとは……ははっ、予想外でした~」
ライアンは困ったように頭の後ろをかきながら、驚かせすぎたと謝罪する。
「本当にびっくりしたわ」と私はため息をついた。
「いやはや、申し訳ない。ですがアデル嬢の驚いた顔、最高に可愛らしかったですよ」
「あぁ、そう。どうもありがとう」
チャラついた口説き文句を言いながら、ライアンは慣れた様子でパチッとウィンクしてみせた。呆れ顔を向ける私に構わず、ヘラヘラ笑っている。
そこにシリウスが戻ってきて、ライアンに苦言を呈した。
「手当たり次第に口説くなと、いつも言っている。彼女を困らせるな」
「いやぁ、だって警戒心の強い殿下が珍しく心許してる女性ですよ。どんなご令嬢か、従者として気になるじゃないですか! それに仲良くしたって何も減るもんじゃなし、いいでしょう」
「良くない。離れろ」
「独占欲の強い男は嫌われますよ」
「ほう」
シリウスが両手を組み、すいっと目を細める。怜悧な美貌の無表情は迫力がすさまじい。
初夏なのに、シリウスの周りだけ温度が下がった気がする。
「ひぃっ! 冗談ですって、殿下! アデル嬢ぉ~、オレを助けてくださいっ!」
「私はシリウス殿下の味方だから、ごめんねライアン」
「そんなぁぁあ!」
硬派なシリウスと軟派なライアン。見た目と性格どちらも正反対だけれど、とても仲の良い主従コンビに私はくすくす笑みをこぼした。
そんな私を見下ろして、殿下もつられたようにちょっぴり目元をゆるめる。
「ちぇっ、なんだかいつの間にか良い雰囲気じゃないですかぁ~。オレだけ除け者なの、さみしーなぁ」
オレも混ぜて下さいよ~!とライアンが私に近付いた瞬間――彼の顔の真横を、ヒュンと何かが勢いよく通り過ぎた。
やや遅れて、ライアンの横髪が数本、はらりと切り落とされ風に舞う。
ライアンの真後ろにある壁にはなぜか、フォークが刺さっていた。
……フォークって、あんなに高速で飛ぶんだ……と感心しちゃってる私がいる。
「すみません。お皿を洗っていたら、お嬢様に寄りつく害虫が見えたので。つい、手がすべりました」
いつの間にか側にいたソニアが淡々と謝罪し頭を下げるが、目は笑っていなかった。
青ざめた顔のライアンが、口の端をひくりと痙攣させる。
「手がすべったかぁ、それは仕方ないなぁ……じゃない! オマエ、いっつもオレを殺そうとしやがって!」
「うちの大切なお嬢様に、下心満載のうすっぺらな口説き文句を言うからです」
「美人を褒めるのは、王国の男として当然のマナーさ。あっ、ひょっとして嫉妬? いやぁ、冷血侍女のソニアちゃんも、可愛いところがおありで……って、や、やめろ! フォークを構えるなッ! 」
「安心してください。今度は確実に当てますので」
「おい、怖すぎだろぉ~!」
言い争いながらじゃれつくライアンとソニアを、ほほ笑ましく見守る。
(いつの間に、こんなに仲良くなったのかしら?)
こっちも春ねぇ、と和やかな気持ちになっていると、私の隣に殿下が立った。
街によくいる平民の青年を装っているけれど、全身から漂う気品と美貌を隠せていない。
洗濯かごという『クソダサアイテム』すら、シリウスが持つと高級品に見えてくるから不思議……。
「大嫌いより、大好きの方が幸せになれる、か。俺も昔、似たようなことを言われた経験がある」
「殿下っ! その……いつから見ていたんですか?」
「あの少年が少女をいじめてしまった所から、だな」
「最初から……。さっきの偉そうな言葉は忘れてください!」
「何故? 俺は良い言葉だと思った。いつか誰かに言うため、書き留めたいくらいだ」
「お世辞を言っても、クッキーくらいしかあげられませんよ」
「最高の褒美だ。甘い物は好きなんだ」
冷酷だと思っていた彼は、打ち解けると意外にもフレンドリーで穏やか。無口だけど頑固ではなく、むしろ素直で、プレイベート時はどこかおっとりした雰囲気をまとっている。
「これは、向こうに持っていけばいいのか?」
あまりに自然に尋ねてくるものだから、私もとっさに「はい」と言ってしまった。
彼が洗い場に消えてから、ようやく「しまった」と思い至る。
(王子に洗濯物を運ばせたなんて、王宮の人に知られたら……)
「いやぁ、うちの殿下を顎で使うとは。ずいぶん不敬なことをしてくれますねぇ」
「ひいっ!」
耳元で不穏な言葉をささやかれて、私はビクッと飛び跳ねる。
慌てて振り返ると、シリウスの護衛騎士ライアンがニヤッとしながら立っていた。
「いやぁ、そんなに飛び跳ねるとは……ははっ、予想外でした~」
ライアンは困ったように頭の後ろをかきながら、驚かせすぎたと謝罪する。
「本当にびっくりしたわ」と私はため息をついた。
「いやはや、申し訳ない。ですがアデル嬢の驚いた顔、最高に可愛らしかったですよ」
「あぁ、そう。どうもありがとう」
チャラついた口説き文句を言いながら、ライアンは慣れた様子でパチッとウィンクしてみせた。呆れ顔を向ける私に構わず、ヘラヘラ笑っている。
そこにシリウスが戻ってきて、ライアンに苦言を呈した。
「手当たり次第に口説くなと、いつも言っている。彼女を困らせるな」
「いやぁ、だって警戒心の強い殿下が珍しく心許してる女性ですよ。どんなご令嬢か、従者として気になるじゃないですか! それに仲良くしたって何も減るもんじゃなし、いいでしょう」
「良くない。離れろ」
「独占欲の強い男は嫌われますよ」
「ほう」
シリウスが両手を組み、すいっと目を細める。怜悧な美貌の無表情は迫力がすさまじい。
初夏なのに、シリウスの周りだけ温度が下がった気がする。
「ひぃっ! 冗談ですって、殿下! アデル嬢ぉ~、オレを助けてくださいっ!」
「私はシリウス殿下の味方だから、ごめんねライアン」
「そんなぁぁあ!」
硬派なシリウスと軟派なライアン。見た目と性格どちらも正反対だけれど、とても仲の良い主従コンビに私はくすくす笑みをこぼした。
そんな私を見下ろして、殿下もつられたようにちょっぴり目元をゆるめる。
「ちぇっ、なんだかいつの間にか良い雰囲気じゃないですかぁ~。オレだけ除け者なの、さみしーなぁ」
オレも混ぜて下さいよ~!とライアンが私に近付いた瞬間――彼の顔の真横を、ヒュンと何かが勢いよく通り過ぎた。
やや遅れて、ライアンの横髪が数本、はらりと切り落とされ風に舞う。
ライアンの真後ろにある壁にはなぜか、フォークが刺さっていた。
……フォークって、あんなに高速で飛ぶんだ……と感心しちゃってる私がいる。
「すみません。お皿を洗っていたら、お嬢様に寄りつく害虫が見えたので。つい、手がすべりました」
いつの間にか側にいたソニアが淡々と謝罪し頭を下げるが、目は笑っていなかった。
青ざめた顔のライアンが、口の端をひくりと痙攣させる。
「手がすべったかぁ、それは仕方ないなぁ……じゃない! オマエ、いっつもオレを殺そうとしやがって!」
「うちの大切なお嬢様に、下心満載のうすっぺらな口説き文句を言うからです」
「美人を褒めるのは、王国の男として当然のマナーさ。あっ、ひょっとして嫉妬? いやぁ、冷血侍女のソニアちゃんも、可愛いところがおありで……って、や、やめろ! フォークを構えるなッ! 」
「安心してください。今度は確実に当てますので」
「おい、怖すぎだろぉ~!」
言い争いながらじゃれつくライアンとソニアを、ほほ笑ましく見守る。
(いつの間に、こんなに仲良くなったのかしら?)
こっちも春ねぇ、と和やかな気持ちになっていると、私の隣に殿下が立った。


