【コミカライズ配信中/4月書籍発売】アデル~顔も名前も捨てた。すべては、私を破滅させた妹聖女を追い詰め、幸せをつかむため~

 夜会に出てからというもの、私の元には連日パーティの招待状が大量に届くようになった。美貌の令嬢に、世間は興味津々らしい。

 
(流行に敏感なミーティアのことだもの。平民のアデルが社交界で目立てば、嫉妬して必ず接近してくるはず。お呼びがかかるのを待ちましょう)

 
 私はまず夜会に出る際は、貴族女性が好む装飾品やドレスを身につけた。


 自分自身が歩くマネキンとなって、シレーネ商会が扱う商品をさりげなくアピールする作戦だ。

『そのドレス、素敵ね』『わたくしも欲しいわ』と声をかけられた時には、かつて培った営業スキルを存分に活かし、商品の魅力をお伝えする。

 ファッション、美容、健康などなど……。その人の好みや状況、欲しているものを把握し、良質な物を厳選しておすすめする。

 もちろん無理強いはしない。商売は信頼の積み重ねが基本だから。
 
 かつて過酷な営業や接待に従事していた私は、連日の夜会など苦にもならない。
 
 むしろ楽しみつつ、積極的に人脈作りにいそしんだ。

 徐々に『シレーネ令嬢に聞けば、良い品が手に入る』という口コミが広がり、気付けば私は流行の発信者――いわば社交界のインフルエンサー的な立ち位置になっていた。

 シレーネ商会の人気はうなぎ登り。

 倉庫の品は飛ぶように売れているらしい。

 とはいえ、目的はまだ達していない。
 
 この作戦の真の狙いは、ただ単に人気者になるのではなく、ターゲット――つまりミーティアに接近するためものだから。
 
 ミーティアはさっそく私に興味を持ったのか、人を使って私の身辺調査をしているらしい。

 勿論こちらも、みすみす正体を明かすような下手は打たない。

 元工作員のソニアにかかれば、防諜は完璧だ。

(そう遠くないうちに、直接コンタクトを取ってくるでしょうね)

 ミーティアの関心を引きつけ、情報も集まり、おまけに商会は大盛況。

 少しずつだけど、確実に前へ進んでいる。今のところ順調そのもの。


 そういえば、夜会では思わぬ収穫もあった。


 戦地から帰還したばかりということで、どこへ行ってもシリウスの話題で持ちきりだった。ついでに私は、それとなく彼の情報を集めた。


 ある貴族令嬢はこう言った。

『シリウス殿下は社交界に顔を出さないので、どのような方か分かりませんわ。そもそも長期任務で王都を離れていることが多いですし』

 またある令嬢によると。

『その……とてもお麗しい方ですわよね。ここだけの話、メイナード様より素敵だと思うんです! 無口無表情だけど、そこが格好いいというか……。令嬢の間でも狙っている子、多いんじゃないかしら』

 肯定的な意見の反面、こんな噂もあった。

『あの方の二つ名を知っているか? 【氷の(いくさ)王子】だよ。血しぶき舞う戦場で、顔色変えず敵を斬ることから付けられた異名だそうだ。異能も無いのにすさまじい強さらしい。恐ろしいよなぁ』

 さらにさらに、こんな話も耳にしてしまった……。

『シリウス殿下って、冷酷そうに見えて部下や同僚には優しいらしいぜ。あんな男前なのに騎士団に入り浸って、女っ気がないのは怪しいよな……。女性に興味がないんじゃないかって、もっぱらの噂だよ』
 
 
 まとめると、シリウス殿下はご令嬢にモテる。……が、あまり社交界や女性に興味が無く、仕事熱心な人。部下からの信頼が厚い。あと、敵をバッサバッサと斬り倒す氷の戦王子。男色の疑いあり。

 
(色々分かったせいで、ますます分からなくなった。……キャラ濃すぎない?)

 
 屋敷に戻った私は、どっと疲れてしまいベッドに仰向けで倒れ込んだ。

「明日は少しゆっくりされてはいかがです?」と気遣うソニアに「そうするわ」と返事をして、目を閉じる。


 眠りに落ちる直前、まぶたの裏にシリウスの顔が浮かんだ。
 
 彼の姿を思い出すたび、あの水色の瞳を懐かしいと思ってしまう。

 
(シリウス……あなたは、いったい……。私はどうして……こんなに気になるの……)

 そこまで考えて、私の意識は闇に飲まれた。