【コミカライズ配信中/4月書籍発売】アデル~顔も名前も捨てた。すべては、私を破滅させた妹聖女を追い詰め、幸せをつかむため~

 舞踏会や晩餐会に行けば、注目されるのは姉のエスターだけ。

 貴族たちは、こぞって姉を褒め称えた。

「エスター嬢は真面目で優秀、おまけに美人ときたもんだ。いやぁ、伯爵は素敵なお嬢さんを持ちましたなぁ」

「噂では、女学院では生徒会長も務めたとか。しかも学業の(かたわ)ら、孤児院で慈善活動もしてらっしゃるのでしょう? まさに、貴族令嬢の鏡だわ」

 姉へのあまたの賞賛に、両親はいつも誇らしげな顔をしていたものだ。

 容姿端麗な才女と呼び声高い姉。対してあたしに向けられるのは、侮蔑(ぶべつ)でも憐れみでもなく、ただの無関心。

 皆、あたしのことを「伯爵家の下のご令嬢」や「エスター嬢の妹さん」と呼ぶ。

 名前も顔もろくに覚えてもらえず、姉との比較対象ですらない。居なくても誰も気付かない、まるで透明人間にでもなった気分だった。

(なによ、あたしは主人公なのよ)
 
 エスターが小説どおりの最低ないじめっ子だったら、悪事を暴いて「ざまぁ」できたのに。なぜか姉は原作とは違って、面倒見の良いお人好しだった。

 それが、あたしをより苛つかせる。
 
(主人公はもっと評価されるべき。みんなに愛されるべきなの。なのに、エスターが全部持って行っちゃう……。何であたしが、こんな思いしなきゃいけないのよ!)

 胸の中にドロドロとした感情が渦を巻き、底なし沼のように次から次へと憎悪が溢れ出す。

(もしかしたら、あたしが異能を手に入れるイベントも起こらないの……?)

 前世だと思っていた夢は所詮(しょせん)ただの夢で、自分は一生、優秀な姉の影に隠れて目立たない人生を送るのかと思うと、恐ろしくなった。

 日ごとに焦りと不安が募る。
 あたしは主人公になれないんだ……と、諦めかけたそのとき。
 
 エスターの誕生日に、小説のシナリオどおり、あたしは異能を手に入れた。
 
 厳密に言えば『盗みの力』みたいだけど……。

 
(そんな内容、原作にあったっけ? まぁ、いいや)

 
 やっぱり夢の中で読んだ【黒薔薇姫】のシナリオどおりにイベントが起こるんだ、と喜んだのも束の間。今度はエスターが復讐してこない。それどころか、家を出て自立しようとしている。
 
 
(殺害未遂イベントが起きないと追放ざまぁできないし、その後のシナリオにも影響しちゃうかも。それに、異能を盗んだとか言いふらされたら、あたしのイメージ悪くなっちゃうじゃん! どうにかして、小説どおりに修正しないと――)

 
 そこで思いついたのが、自分で自分を刺し、罪をなすりつけるという自演策だった。
 
 計画は見事に成功!
 異能にしか興味ない両親は、笑っちゃうくらい簡単にだまされた。

 エスターは、頭がおかしくなっちゃったという理由で、療養所――とは名ばかりの監獄に収容された。

 あそこは、貴族御用達の流刑地(るけいち)。病気の療養と称して厄介者を監禁し、病死としてひっそり処分する場所。一度ぶちこまれたら、死ぬまで出られない。

 
(ふふっ、ざまぁ。脇役のくせに勝手な行動して、あたしより目立とうとするからよ)


「姉が死んだのに赤は派手過ぎね。ピンクは子供っぽい。うん、これにしましょう。黒薔薇姫には、この色がふさわしいわ」


 あたしはクローゼットから取り出したドレスを着て、鏡の前でくるりと回った。