制服に袖を通してリボンを結ぶ。
慣れた動作をいつもより丁寧にしてから家を出る。
電車の窓を流れる見慣れた景色もこれが最後だと思うと映画のワンシーンのように思えてくる。
相川くんの笑顔が頭をよぎった。
今日で、きっと最後になる。そう思うと、少し泣きそうになる。
3月の風が私の頬を優しく撫でていった。
まだ、帰りたくなかった。
教室を出てしまったら、本当に全部終わってしまう気がした。
夕方の光が教室に残っている。
卒業式が終わった後の教室は、誰かをずっと待っているような空気を纏っていた。
今まで教室に響いていた笑い声が耳の奥で蘇る。
ここにはもう、誰もいない。
私だけが取り残されているみたいだった。
みんなはもう前に進んでいて、私だけがこの場所から離れられない。
7月。授業のノートを開いて復習していたときだった。
「ノート、綺麗だね」
初夏の風が胸をくすぐった。
「あ、ありがとう」
それが、相川くんとの最初で最後の会話。
でもあの時の私はそれが最後になるなんて思っていなかった。
浅く息を吐いて、私は自分の席をあとにしようとした。
けれど名残りおしさを感じて後ろを振り返った。
その瞬間、視界の端で何かがきらりと光った。
誰かの制服のボタンだった。
第二ボタンかもしれない、と思って手を伸ばす。
心臓の鼓動が逸るのを感じた。
告白をされたら、その答えがYESでもNOでも第二ボタンをお礼に渡す。
この学校にはそんな風習がある。
その時だった。ガラガラッ。
教室のドアが開いて、入ってきたのは相川くんだった。
「あれ?七瀬さん?」
そういってなにかを探すように教室を見渡していた。
「あのさ、俺の第二ボタン落ちたりしてなかった?」
「……私は見てないかな」
相川くんの目をまっすぐに見れなかった。
「そっか、ありがとう」
そう言って、相川くんは教室を出ていこうとして
「あ、卒業おめでとう。元気でね」
と最後に振り返った。
いつものはにかむような笑顔が胸に焼き付いていた。
相川くんの足音が遠ざかっていく。
私の左手は温かくなった彼の第二ボタンをぎゅっと握りしめていた。
慣れた動作をいつもより丁寧にしてから家を出る。
電車の窓を流れる見慣れた景色もこれが最後だと思うと映画のワンシーンのように思えてくる。
相川くんの笑顔が頭をよぎった。
今日で、きっと最後になる。そう思うと、少し泣きそうになる。
3月の風が私の頬を優しく撫でていった。
まだ、帰りたくなかった。
教室を出てしまったら、本当に全部終わってしまう気がした。
夕方の光が教室に残っている。
卒業式が終わった後の教室は、誰かをずっと待っているような空気を纏っていた。
今まで教室に響いていた笑い声が耳の奥で蘇る。
ここにはもう、誰もいない。
私だけが取り残されているみたいだった。
みんなはもう前に進んでいて、私だけがこの場所から離れられない。
7月。授業のノートを開いて復習していたときだった。
「ノート、綺麗だね」
初夏の風が胸をくすぐった。
「あ、ありがとう」
それが、相川くんとの最初で最後の会話。
でもあの時の私はそれが最後になるなんて思っていなかった。
浅く息を吐いて、私は自分の席をあとにしようとした。
けれど名残りおしさを感じて後ろを振り返った。
その瞬間、視界の端で何かがきらりと光った。
誰かの制服のボタンだった。
第二ボタンかもしれない、と思って手を伸ばす。
心臓の鼓動が逸るのを感じた。
告白をされたら、その答えがYESでもNOでも第二ボタンをお礼に渡す。
この学校にはそんな風習がある。
その時だった。ガラガラッ。
教室のドアが開いて、入ってきたのは相川くんだった。
「あれ?七瀬さん?」
そういってなにかを探すように教室を見渡していた。
「あのさ、俺の第二ボタン落ちたりしてなかった?」
「……私は見てないかな」
相川くんの目をまっすぐに見れなかった。
「そっか、ありがとう」
そう言って、相川くんは教室を出ていこうとして
「あ、卒業おめでとう。元気でね」
と最後に振り返った。
いつものはにかむような笑顔が胸に焼き付いていた。
相川くんの足音が遠ざかっていく。
私の左手は温かくなった彼の第二ボタンをぎゅっと握りしめていた。



