【完結】転生幼魔女は生き延びたい!~唯一無二の力はナイショだよ〜


 眼前に広がったのは、鬱蒼とした雑木林。
 聖域への入り口だ。

(追い出されちゃった……)

 しょんぼり肩を落として佇んでいると、背後から『セレスティア!』と呼び声が耳に飛び込んできた。
 振り返れば、マリアベルとシルフたちが慌てた様子で近づいてくる。

『あぁ、よかった……。どこを探しても見つからないし、おまけに聖域にも入れないから、どうしようかと思いましたわ』

「まりあべる、しるふのみんな。しんぱいかけて、ごめんね」

 セレスティアがぺこりと頭を下げて謝ると、マリアベルが『いいんですのよ』と安堵を滲ませて応え、さらにシルフ三人衆が矢継ぎ早に問いかけてくる。

『セレスティア、ケルピーの聖域にいたのよネ?』

『どこか怪我はしていないカシラ?』

『嫌なことはされなかっタ? 大丈夫なノ?』

「うん、だいじょうぶだよ。おはなししただけで、いやなことはなにも。でも……ほしつゆくさ、もらえなかった……」

 交渉は決裂、目的は果たせなかった。
 自身の失敗を痛感し、涙がこみ上げてくる。

 唇をきゅっと噛みしめて泣くのを堪えていると、揺れる視界に小首を傾げるマリアベルとシルフの姿が映った。

『星露草なら、ちゃんとあるじゃない』

「へ?」

 パチパチと目を瞬かせれば、目尻からこぼれ落ちた雫が頬を伝う。
 涙を拭いながら「どういうこと?」と尋ねると、シルフたちが『こっち、こっち』と手招きながら飛んでいく。

 その後を追ってシルフらが指差した水たまりを覗き込むと、水鏡にセレスティアの姿が映し出された。

「これ……」

 目の前の光景にセレスティアは思わず息を呑んだ。
 いつの間にか、自身の耳の上に髪飾りのように添えられていたのは──。

「ほし、つゆくさ……」

 銀色に光り輝く草を耳上からそっと抜き取り、宝物のように胸に抱き締める。

「ありがとう……ありがとう、るどうぃじあ」

 感謝を込めて囁くと、柔らかな夜風が吹き抜けて木立が揺れた。
 その木々のざわめきに混じって、

『僕の期待を裏切らないでくれよ、セレスティア』

 そんなルドウィジアの穏やかな声が聞こえてきた気がした。

(うん。誓いを守れるように、頑張るよ)

 ルドウィジアは、セレスティアが領主の娘だと知っていた。
 だからもしかすると彼は、今回の対話を通して、将来この土地を治める子供がどのような人間なのかを、見定めようとしていたのかもしれない。

 憎んでいる人間への復讐、あるいは本能のまま幼子を食らいたいだけなら、あのような面倒な会話などせず、さっさと湖へ連れ去ってしまえばよかったのだから。

 まぁ、人生に刺激を求めているという話は、あながち嘘でもなさそうだったけれど。


【話が通じにくいからといって、妖精の言葉を無視したり否定したりしてはいけないよ。異なる種族、価値観だからこそ、根気よく対話を続けることが大切なのさ】


 頭によぎった前世の祖母の言葉。
 セレスティアは胸に手を当て、心の中で告げる。

(根気よく対話を続けることが大切……おばあちゃんの言った通りだったよ。大事なことを教えてくれて、ありがとうね)

 星露草を痛めてしまわぬよう、マリアベルから受け取った鞄にそっと仕舞う。

「よし! これを、おとうしゃまにわたせば、カイケツだね!」

『ちょっと、お待ちなさいな。なんて言って渡すつもりなんですの?』

「ん? 『これ、しがいちゅうに、きくよ』って」

 額を押さえ、『あちゃあ』と言わんばかりの渋い顔をするマリアベル。

「え? え? だめ?」

『いいこと、セレスティア。よーく考えてみなさいな。あのアルフレッドが、三歳児の持ってきた得体の知れない雑草を、薬の材料として前向きに検討してくれるとお思い?』

「うっ……ムリかも……」

『でしょう? それに死骸虫のことを口に出せば、なぜ知っているのかと問い詰められますわよ』

「ふぇぇ、それはこまるっ! ん~、じゃあ、どうしよう……」

『アルフレッドがなにかのきっかけで星露草の効果に気が付いて、自分から興味を持ってくれればいいんですけどねぇ……』

「こうかに、きづいて……キョウミ…………あっ!」

『なにか、いい案を思いついたんですの?』

「うん! あのね。まず、おにわで、ほしつゆくさをそだてて。にわしの、もーりすおじさんに、キョウミをもってもらうの。それでね、もーりすおじさんから、おとうしゃまに──」

 一生懸命説明していたその時、そばで会話を聞いていたシルフたちが『あっ!』と一斉に叫んだ。

「わわっ、びっくりした! なに? どうしたの?」

『ほらほら、見てちょうだいナ』

『空が明るくなってきているわヨ』

『お屋敷に帰らなくて大丈夫なノ?』

 シルフたちが指差す方を見ると、暗闇に包まれていた空がわずかに白みはじめていた。

「たいへん! いそがなくちゃ! しるふのみんな、きょうは、ありがとうね。──ばいばい!」

『またネ、セレスティア!』

『気をつけて帰るのヨ~』

『ばいば~イ!』

 夜明けの空の下、大きく手を振りシルフたちに別れを告げたセレスティアは、マリアベルとともに屋敷へ向かって駆け出したのだった。