【完結】転生幼魔女は生き延びたい!~唯一無二の力はナイショだよ〜


 水草を思わせるアイビーグリーンの瞳と視線が交わる。
 満月と湖を背景に佇んでいたのは、目を見張るような美しい青年だった。

『こんな夜更けに、ひとりで散歩は危ないよ?』

 そう告げてくる声は穏やかで、セレスティアを心配するような響きを帯びている。

 やや垂れ目の、優しげで甘い顔立ち。
 月光に照らされて輝くプラチナブロンドの髪。
 すらりとした長身の体躯にまとうのは、生成りのシャツと黒い脚衣。

 一見すると村人のような出で立ちだが、ここに常人が足を踏み入れられるはずがない。

『家まで送ってあげよう。さあ、お嬢さん。こちらへおいで』

 セレスティアは差し出された手が届かぬよう数歩後ろに下がり、ドレスの裾を持って頭を下げた。

「ありがとう、ございます。ですが、おきづかいには、およびません。いえには、ゆうじんの、みちあんないで、かえれますので。わたしといっしょにいた、けっとしーと、しるふは、ぶじでしょうか?」

『もちろん無事だよ。今宵は君とふたりきりで話がしたくてね。彼らには入り口で待ってもらうことにしたんだ』

「そうでしたか……」

 マリアベルたちの安否を知り、セレスティアは胸を撫で下ろす。
 それと同時に、急に襲いかかられなかったことにも安堵した。

 どうやらこのケルピーは温和な性格のようだ。話し方は理知的で、会話にも快く応じてくれる。
 ひとまず、最悪の状況はまぬがれた。

『ああ、そうだ。確か人間界では、初対面の相手には名乗るのが礼儀だったかな? 僕はルドウィジア、この湖一帯を管理している者だ。よろしくね、セレスティア』

「わたしのこと、しっているのですか?」

『もちろん。風の精たちがやかましく話していたからね。我らが友、《緑の民》の魂を受け継ぐ生まれ変わりの子だと。噂を聞いた時から、ずっと会いたいと思っていたんだ。君の方から来てくれて嬉しい』

 歓迎するよ、セレスティア──と甘く囁き、笑顔で一歩、また一歩と距離を縮めてくるルドウィジア。

 にこやかではあるものの、その目はまるで獲物を狙う肉食獣のように真剣で、恐怖を感じる。セレスティアは早いところ交渉をまとめてこの場を去ろうと、震えを抑えてルドウィジアに語りかけた。

「きょうは、あなたにおねがいがあって、きたのです」

『願い? ああ、もしかして星露草が欲しいのかい?』

「は、はい! そうなのですっ! ことしは、しがいちゅうが、たくさんうまれるので、くじょするくすりを、つくりたくて。ほしつゆくさが、どうしてもひつようなのです。すこしいただいても、よろしいですか?」

『いいよ~』

「え?」

 あまりにも軽い返事に、拍子抜けするセレスティア。

『ただし──』

 ルドウィジアがそう呟いた次の瞬間、突風が吹き荒れた。

 思わず目を閉じたセレスティアは、頬にひんやりとした感触がしてハッと目を開けた。
 するとそこにあったのは、目線を合わせるようにセレスティアの前に(ひざまず)き、頬に手を添えているルドウィジアの姿。

 彼の冷たい指先が、頬骨の上をさらりと撫でていく。


『君が、僕のものになってくれるなら、ね』