カーテンを開ければ、窓硝子の向こう側にいたのは、手のひらサイズの三人の女性たち。
半透明の美しい羽で宙に浮かぶ彼女らは、セレスティアが《緑の民》の記憶に目覚めた日から交友のある風の精シルフだった。
窓を開け放つと、そよ風に乗って部屋に入ってきた三人が賑やかに話しかけてくる。
『まだ明るいのにカーテンを閉め切っているから、驚いたワ』
『アラアラ、まぁ、怖い顔。どうしたノ~? なにか悩みゴト?』
『だったら、森一番の情報通のアタシたちに話してごらんなさいナ。いい解決法を見つけてあげるワ!』
森一番の情報通……それなら分かるかもしれないと、セレスティアは身を乗り出して問いかける。
「あのね。ほしつゆくさ、どこかで、みかけなかったかな?」
『ちょっとセレスティア!』
マリアベルが引き止めるように声を上げたが、続く言葉は顔を見合わせて捲し立てるシルフ三人に遮られる。
『ほしつゆくさ? そんなの毎日のように見ているわヨ』
『だってアタシたちの住処の近くに、たくさん生えているものネェ~』
『ここに来る途中にもあったわよネ!』
『夜はキラキラして、明るくて眠れないのが困りものだわネ』
『分かるワァ~』
『あのケルピー、ちょっと前に引っ越してきたよそ者のくせに、聖域を広げすぎじゃナイ? 図々しいったらないワ!』
さすがはなにものにも囚われない風を司る妖精たち。セレスティアそっちのけでマイペースに雑談を始めてしまった。
『ちょっとセレスティア。アタクシの忠告をもう忘れたの?』
「ごめんね、まりあべる。でも、わたし……やっぱり、しらんぷりできないよ」
セレスティアはぎゅっと両手を握り締め、思いの丈を打ち明ける。
「しんぱいしてくれる、まりあべるのきもち、すっごくうれしい。でもね、かいけつほう、しってるのに、なにもしなかったら……。わたしは、じぶんがキライになる。そしたら、ながいきしても、ずっと、くるしい。そんなの、いやなの……」
『セレスティア……』
非力なこの身でなにができるのかは、まだ分からない。
無謀だとも思う。
それでも、ここでなにもせずに諦めたら、自分は絶対に一生後悔する。
「わたしのユメは、ただいきのびることじゃ、ない。いきて、たくさん、しあわせになること! だから、むねをはっていきるために──。いま、じぶんにできること、やりたいの!」
熱のこもった声が、凜と響いた。
開け放った窓から吹き込む風がセレスティアの髪を揺らし、差し込む陽光が瑠璃色の瞳の奥にやどる決意を照らし出す。
覚悟と真意を問うようにジッとセレスティアを見つめていたマリアベルは、やがてふっと表情を緩めた。
『仕方ないわねぇ。アナタがそこまで言うのなら、止めはしませんわ』
「ありがとう、まりあべる!」
『た・だ・し。絶対にアタクシも連れていくこと。寝ている間にひとりでコッソリ探しに行くなんて、許しませんことよ』
「えっ……いいの? わたしは、こころづよいけど、でも……キケンだよ?」
『だったら、ますますひとりで行かせるわけにはいきませんでしょう。アタクシ、これでも武術と剣の腕にはそれなりに覚えがありますの。守ってあげますから、ついてらっしゃい!』
後ろ足ですっと立ち、片方の前足を腰に当てて、もう片方の手で胸をポンと叩いてみせるマリアベル。
同性でおまけに見た目は可愛らしい猫だけど、うっかり惚れちゃいそうなほど格好いい。
「はい! まりあべる、ありがとう! だい、だい、だーいすきっ!」
「わっぷ! ぐっ、ぐぐぐ、ぐるしい……。締まってる、首、締まってますわっ……!」
「え? あぁっ、ごめんっ!」
好きの気持ちが溢れて、抱き締める力が少々強かったようだ。
ハグする腕を緩めると、マリアベルはふぅと息をついた。
それからふたりは目を見合わせ、やるぞと言わんばかりに頷き合う。
「シルフのみんな! さっきのおはなし──」
『もっと詳しく、教えてちょうだいな!』
こうして前世の記憶に導かれし転生幼女は、多くの人の未来を照らすべく、大人たちの知らないところで密かに動き出すのであった。

