心の鍵をこじ開けて

トクン、トクン、トクン。
僕の心臓の音が等間隔に鳴り続けている。
ただ図書館に突っ立ってるだけなのに。

空は曇り、雨はやまない。ザーザーと、今でも振り続けている。 それなのに僕の鼓動が聞こえるのは、この図書館に誰も居ないから、だろう。昭和の香りが漂う木造建築の古い図書館に、止まない雨音。そしてこの空間を自分一人が独占できる。最高の読書日和だ。
本棚をくぐり抜けていく。913から100まで来てしまった。読みたい本など別に無い。いつも、タイトルに惹かれた本をただここで、読んでいる。本を左上から順に確認していく。

「何故人は生きるのか 逢坂 志乃」
「功利主義者の根本的思想 神田 旺汰」

「心の鍵の見つけ方 木原 紀之」

この本を見つけた時、はっとした。タイトルに惹かれたからではない。本棚の、僅かな隙間から……。誰かと、目が合った。
この図書館には誰も居なかったはずなのに。

すると目が合ったやつがこちらに近づいてくる。本棚を巡って巡って。少し寒気がする。なにか恐ろしいものを見てしまったのではないか、と。僕の心臓は一気に鼓動を早くしている。
1秒も経たぬうちに男の姿が見えた。
スラッとしていて僕より高い背に、黄金に光る髪、青銅色(ここでは彩度の低い青緑色を指す)の瞳……。外国人だろうか。にしても顔は僕と似た系統である。

「いい本は見つかりましたか?」
やつが話しかけてきた。なんか妙に上から目線で、本は我が物だと言っているような、変な男だ。
「あー、いえ。本を探そうと思ったら貴方と目が合ってし まったのでまともに手もつきませんよ。」
少し皮肉混じりに僕はそう言った。

「ははは。そうですか……。随分と君は図書館を我が物顔で満喫しているようでしたから、ついイタズラしたくなったんです。」

我が物顔なのはお前の方じゃないのか。別に司書のようにも見えない風格だが。

「そうですか。」
僕は素っ気なく返した。正直このまま会話を終わりたい。しかし僕の思いとは裏腹に、男は会話を続ける。

「あ。この本。とてもオススメですよ。」
男が手に取ったのは〈心の鍵の見つけ方〉という本だった。確かこの本を見つけた瞬間に男と目が合ってしまった。
よりにもよってこんな偶然があるのか、と少し怪訝な面持ちで男を見てみる。

「何ですか。その顔。別にこの本をオススメしたことにやましい事は何もありませんよ。

君は、何かに飢えてそうだったので、心の鍵が必要じゃないかと、そう思ってみただけです。」

「……」
図星を突かれた。それはそうだ。何かに飢えてないと、こんな古びれた図書館に来ないだろう。

思考を巡らせる。男はずっと、少し屈んで僕の表情を伺っている。すると長い沈黙に耐えかねたのか、男は僕の心臓の方を指で突いてそう言った。

「私が君の心の鍵になりましょうか?」

意味がわからなかった。しかし、何故か僕の心臓の音は今まででいちばん早く、鳴り続けていた。
トクントクントクントクントクントクントクントクン_________。