いつもと変わらない部屋に、2日目の祭りの準備の音が丁度心地よい。時計を見ようと手を伸ばすと、もふもふとした手触りで遮られる。きっとまだ寝ぼけているのだろう。あくびをしつつ目を開けると体の上で狐が丸まっていた。
ん?頭上を見てみると、狐が枕のように頭にくっついている。ソファで寝転がっていた翠は、少し固まってから昨日のことを思い出した。
「君は幽霊なのか?」
「妖怪とかかな〜って思ってるけど…人の耳もないし今の私は狐さんと同じかも。あと『君』じゃなくて『曖』って呼んでほしいなぁ…ちょっと寂しいし」
曖はそう言ってほっぺを膨らます。信じがたいが実際見えている人は居ないのだろう。誰一人として翠達についていく狐達に気づく人はいなかった。まるで自分がここに居ないのではと疑うほどに。くしゅん…!と曖がくしゃみをしていたこともあり、近くの足湯に向かった。
「はぁ〜あったかい…」
「キュイ?」
足湯で温まる曖の耳はヘタっとし、気持ちよさそうに呟く。
「君は…じゃなくて曖は町の外から来たの?」
小さい町ということもあり全員家族のような交流はあるが、曖のような子は正直覚えていない。
「どうなんだろ…山で気がついたときにはこの姿だったし、その前のこととかぼんやりとしててうまく思い出せないの。でもね人から見えないからいつも屋根の上で、狐さん達といっしょに寝たりできるからちょっと楽しいよ♪」
無理をして笑う曖に心が締め付けられる。
「飯は?」
「お腹は空くけど、食べなくても平気だったの。ほんとに妖怪になっちゃったのかな…?」
翠は少し考えた後、
「そっか…じゃあ飯食べに行こうか」
「私達見えないから心霊現象にならないかな…」
「…あ、スーパーで何か買って食べるか」
「じゃあさお兄さんの家で食べない?…この子たちも寒そうだし…っくしゅん!」
狐より自分を心配するべきだろう…そう思いつつ足を拭き立ち上がる。
「お願い!お兄さん、この子たち大人しいし私も迷惑かけないから!」
「…わかった。取り敢えず鍋の材料でも買いに行こう」
「お鍋?!やったぁ!」
ピコピコと動く耳と勢いよく尻尾が揺れる。
近場のスーパーは小さいながらも、品揃えは良い。人に見えない狐たちには流石に店外で待っててもらうことにした。みちっと団子のように並んでいる光景は、大きなクッションのようだった。木綿豆腐をどれにしようか迷っているなか、曖は他の客の前で見えていないかどうか確かめている。しかし誰一人気にすることなく買い物や雑談を続けている。
はぁ…とため息をつきながらも他の人にも試し始めた。その光景がズキッと心に刺さる。うん…今日は油揚げも買っておこう。そう思い立ち、翠は三袋分手に取った。
カチャン、ギッ、カカラ…ボロ扉ですと言わんばかりの音を立てながら、ドアを開けた。
「おじゃまします…」
曖はそう言って部屋に入る。続くように4匹の狐達も玄関に座る。
「外と違って中は結構きれいにしてるんだね。お兄さんらしい」
曖はそう言って狐たちの足を拭く。
「妹がいたらこんな感じだったのかな」
台所で野菜を切り皿に盛る翠は、居間にちょこんと座り狐たちと戯れる曖を見て思う。
コトン…カチッ、チチチボッ…火のついたコンロで鍋を温めつつ、具材を水に入れていく。カタン…と蓋を閉め完成を待つ。オレンジとリンゴジュースを手に取り、コップに注ぐ。
「好きな方をどうぞ」
曖は机に2つ並べられたコップを、目を細めて迷いリンゴジュースに手を伸ばし口に運んだ。
フーフーと豆腐を冷まし口に入れる。ホクホクとした熱を帯び口の中で崩れる。秋らしい肌寒い気温に心まで温まる鍋は、思っていたよりも美味しい。
「あ、油揚げも入れたの!?汁が染み込んでて美味しそう〜♪」
曖はそう言ってフー…と軽く冷まし一気に頬張る。
「ハフッ…!ハフ…ん、ん〜おいひいねほえ」
あからさまに熱そうだが、曖は油揚げをおいしそうに食べていた。まるで妹ができたような感覚に、少し笑みがこぼれた。
「お兄さんって今週暇?行きたいところがあるんだけど…1人だと行き方がわかんなくって…」
「まあ一応。どこに行くんだ?」
曖は服を引きずりながら翠の前に移動して言った
「あのね、狐さん達に聞いた話なんだけどね『結び様』ていう人?なら私のこと何かわかるかもって言ってて…問題がその…京都にいるみたいで…」
段々と声が小さくなっていき申し訳なさが滲み出ている。
「…京都か。せっかくだし早めに行こうか」
「えっ!いいの!?」
翠の言葉を聞き、曖は食い気味に言葉を被せる。ピンとした耳とふさふさと揺れる尻尾で目を輝かせ、狐たちと喜んでいる。見た目さながらの喜びように、翠は笑みをこぼす。これが母性というやつだろうか?
「ありがと!お兄さん♪」
パシャパシャと水の音が響く。曖と狐達が風呂に入っている間、翠は京都への行き方に悩んでいた。
「電車に動物は極力控えたいし、距離が距離だから車はきついな…」
とてとて…と曖がタオルで頬をぽんぽんしながらソファに座り、翠に言う。
「お兄さん、私達他の人に見えないから電車平気だと思うよ?」
翠はハッとする。
「…?じゃあなんで一度も…あぁ、心霊現象が起きるのか…」
失礼な!と曖が顔を覗き込む。とはいえ電車が使えるのなら、使えるに越したことはない。長旅になるだろうしスーツケースにまとめておこう。
風呂に向かうと大量の毛が山積みになっており、翠はポカンとして立ち尽くす。壁からちょこっと曖が顔を出し様子をうかがい、
「時期が時期だから…ほらもうすぐ冬だし、狐さん達の毛並みは整えないと…ね?」
翠は少し悩んだあと大きな段ボールをもってきて中に毛をしまい始めた。
「えっ、それ取っとくの…?」
「ん?いや、一旦まとめて置こうかと…」
「お兄さん…他の人にやっちゃだめだよ…」
少し引き気味な声で言う曖に、翠は答える。
「ん?ああ、わかった」
何故かジト目で見てくる曖と狐を横目に、翠はダンボールいっぱいに毛を集めた
「よいしょ…っと」
久々に押し入れから出した来客用布団は、家の匂いが自分にもよくわかるほどこびり付いていた。
「俺もこの匂いなのかな…」
いつくかの布団を出したせいか、いつもより寝室が狭く感じる。曖はすかさずぽふっと置かれた布団に飛び込んだ。
「ふあふあだ~♪」
それを聞いた狐たちはそ~っと近づき頭から布団に埋もれる。いつかの動画で見たような光景に翠は、笑いがこぼれる。それを見た曖も目を見開いた後、へへへ…と笑顔を見せた。
「お兄さん、せっかくだからさっき見つけたボードゲームしようよ~♪」
「いつの間に漁ったんだよ...」
「まあまあお客さんをもてなすってことでさ♪今日は徹夜しちゃお~!」
「...一回だけだぞ」
仕方ないなと言いつつ翠は曖たちと日をまたぐまで遊び続けていた。にぎやかな声は家の外にも響き、星も美しく輝き始めていた。くんくん…と美味しそうな匂いで曖は目を覚ます。大きなあくびの後ベッドの上で体を伸ばし、寝癖をつけながら居間の扉を開けた。目が覚めきっていない声の曖は翠の服の裾を掴み、大きなあくびをして言った。
「ん〜おはよぅ…お兄さん朝早いんだね…」
「よく寝れたみたいで良かった。まさか12時まで寝るとは思わなかったけどね」
翠は料理を盛りつけながら軽い笑みをこぼした。えっ⁉っと驚いた曖は恥ずかしさを隠そうと、両手で顔を覆った。
パチッと手を合わせ2人は朝ごはんを囲む。いつもと違う和風の朝食にネギなし薄味の豚汁を合わせ曖の目の前に置く。
「わぁ〜!おいしそ〜♪いただきます!」
「いただきます」
朝風呂から上がった曖は薄味の鮭を手に取り、目を輝かせながら幸せそうに咀嚼している。念をおいて狐が食べられないものや影響を考えた味付けにしている。とはいえ曖は狐に含まれるのだろうか…?
「キュッ」
狐が曖の横でじっと料理を見つめ曖に話しかけているように見える。
「曖は狐達の言葉もわかるのか?」
ん?とした表情でご飯をモゴモゴしている曖は、ゴクンと飲み込んだ後狐を撫でながら言った。
「言葉は分からないけど、怒ったり笑ったり心配してくれたりとか、狐さんの気持ちがふわってわかるんだ〜」
「不思議なもんだな…」
朝食を済ませ布団をたたんでいると、
「っはよ〜翠!祭り行こうぜ!!」
そう言って陽牙は玄関の扉をスパァン!!と勢いよく開けた。いきなりの出来事に曖と狐は耳や尻尾をピンと逆立て、目を丸くしている。
「陽牙…もうちょい優しく開けてくれ…心臓も家も保たないって」
「すまんすまんっ♪千草は...まだか。ならちょいと上がらせてもらうな〜…あれ?翠!お前妹いたの!?」
勝手に上がり込んだ陽牙は、すごい勢いで振り向き翠の肩を両手で押さえるように聞いた。
「は?いやいないけど…って陽牙、曖のこと見えるのか!?」
翠の言葉に戻りかけていた曖の耳がまたピンと立つ。
「え、そりゃ見えるだろ何言ってんだ?でも妹の話なんて聞いたこと...翠、自首ならまだ間に合うぞ?」
翠の後ろにそっと隠れた曖を見て、哀れむような目で翠の肩にポンっと手を置く
「違うわ!!誤解だ、誤解!!!」
コンコン
「...お邪魔しまーす」
ノックの後ガラガラと千草は扉を開ける。
「翠、陽牙おまたせ。あれ翠、この子は?」
「まさか千草にも見えるのか...!?陽牙といい何か関係でもあるのかな...」
一人で考察する翠をよそに、千草は曖の前にしゃがみ込む。
「私は千草っていうんだ。君は?」
「...!あ、曖です」
「いい名前ね。よろしくね曖ちゃん♪...!この耳って…本物!?」
笑みを浮かべながら曖の頭を撫でる千草は、興味深そうにつぶやく。
「...っくすぐったいです」
「!!...ねえ翠、なにこのかわいい生き物~!!」
恥ずかしがる曖に千草は翠に詰め寄ってきた。
「説明するから落ち着けって...」
翠はつぶやきつつ千草に茶を渡した。
ズズッ...コト。
「大体話は分かった。で、曖ちゃん...だっけ?思い出す手がかりに心当たりもない感じ?」
抹茶の入った陶器を置き陽牙は栗饅頭を口に入れる。勝手に話を進める陽牙は、茶菓子でなんとか落ち着かせることができた。
「うん...狐さんたちも私と一緒で、最近のことしか覚えてないの」
曖は狐を膝に乗せ撫でながら答えた。
「『結び様』ってのも気になるから、京都に行こうと思ってね」
「なるほどな~せっかくだし俺も付いてっていいか?本場の抹茶飲みたくなっちまって...」
あはは...と笑う陽牙に曖はコクコクと頷く。驚いた顔で陽牙達を見た後、千草も前のめりになって言った。
「え⁉ずるい!私も行く!」
手がかりがない以上人手があることに越したことはない。陽牙達の様子を見て笑っている曖を見て、翠はどこか安堵したように茶を口に運んだ。
ん?頭上を見てみると、狐が枕のように頭にくっついている。ソファで寝転がっていた翠は、少し固まってから昨日のことを思い出した。
「君は幽霊なのか?」
「妖怪とかかな〜って思ってるけど…人の耳もないし今の私は狐さんと同じかも。あと『君』じゃなくて『曖』って呼んでほしいなぁ…ちょっと寂しいし」
曖はそう言ってほっぺを膨らます。信じがたいが実際見えている人は居ないのだろう。誰一人として翠達についていく狐達に気づく人はいなかった。まるで自分がここに居ないのではと疑うほどに。くしゅん…!と曖がくしゃみをしていたこともあり、近くの足湯に向かった。
「はぁ〜あったかい…」
「キュイ?」
足湯で温まる曖の耳はヘタっとし、気持ちよさそうに呟く。
「君は…じゃなくて曖は町の外から来たの?」
小さい町ということもあり全員家族のような交流はあるが、曖のような子は正直覚えていない。
「どうなんだろ…山で気がついたときにはこの姿だったし、その前のこととかぼんやりとしててうまく思い出せないの。でもね人から見えないからいつも屋根の上で、狐さん達といっしょに寝たりできるからちょっと楽しいよ♪」
無理をして笑う曖に心が締め付けられる。
「飯は?」
「お腹は空くけど、食べなくても平気だったの。ほんとに妖怪になっちゃったのかな…?」
翠は少し考えた後、
「そっか…じゃあ飯食べに行こうか」
「私達見えないから心霊現象にならないかな…」
「…あ、スーパーで何か買って食べるか」
「じゃあさお兄さんの家で食べない?…この子たちも寒そうだし…っくしゅん!」
狐より自分を心配するべきだろう…そう思いつつ足を拭き立ち上がる。
「お願い!お兄さん、この子たち大人しいし私も迷惑かけないから!」
「…わかった。取り敢えず鍋の材料でも買いに行こう」
「お鍋?!やったぁ!」
ピコピコと動く耳と勢いよく尻尾が揺れる。
近場のスーパーは小さいながらも、品揃えは良い。人に見えない狐たちには流石に店外で待っててもらうことにした。みちっと団子のように並んでいる光景は、大きなクッションのようだった。木綿豆腐をどれにしようか迷っているなか、曖は他の客の前で見えていないかどうか確かめている。しかし誰一人気にすることなく買い物や雑談を続けている。
はぁ…とため息をつきながらも他の人にも試し始めた。その光景がズキッと心に刺さる。うん…今日は油揚げも買っておこう。そう思い立ち、翠は三袋分手に取った。
カチャン、ギッ、カカラ…ボロ扉ですと言わんばかりの音を立てながら、ドアを開けた。
「おじゃまします…」
曖はそう言って部屋に入る。続くように4匹の狐達も玄関に座る。
「外と違って中は結構きれいにしてるんだね。お兄さんらしい」
曖はそう言って狐たちの足を拭く。
「妹がいたらこんな感じだったのかな」
台所で野菜を切り皿に盛る翠は、居間にちょこんと座り狐たちと戯れる曖を見て思う。
コトン…カチッ、チチチボッ…火のついたコンロで鍋を温めつつ、具材を水に入れていく。カタン…と蓋を閉め完成を待つ。オレンジとリンゴジュースを手に取り、コップに注ぐ。
「好きな方をどうぞ」
曖は机に2つ並べられたコップを、目を細めて迷いリンゴジュースに手を伸ばし口に運んだ。
フーフーと豆腐を冷まし口に入れる。ホクホクとした熱を帯び口の中で崩れる。秋らしい肌寒い気温に心まで温まる鍋は、思っていたよりも美味しい。
「あ、油揚げも入れたの!?汁が染み込んでて美味しそう〜♪」
曖はそう言ってフー…と軽く冷まし一気に頬張る。
「ハフッ…!ハフ…ん、ん〜おいひいねほえ」
あからさまに熱そうだが、曖は油揚げをおいしそうに食べていた。まるで妹ができたような感覚に、少し笑みがこぼれた。
「お兄さんって今週暇?行きたいところがあるんだけど…1人だと行き方がわかんなくって…」
「まあ一応。どこに行くんだ?」
曖は服を引きずりながら翠の前に移動して言った
「あのね、狐さん達に聞いた話なんだけどね『結び様』ていう人?なら私のこと何かわかるかもって言ってて…問題がその…京都にいるみたいで…」
段々と声が小さくなっていき申し訳なさが滲み出ている。
「…京都か。せっかくだし早めに行こうか」
「えっ!いいの!?」
翠の言葉を聞き、曖は食い気味に言葉を被せる。ピンとした耳とふさふさと揺れる尻尾で目を輝かせ、狐たちと喜んでいる。見た目さながらの喜びように、翠は笑みをこぼす。これが母性というやつだろうか?
「ありがと!お兄さん♪」
パシャパシャと水の音が響く。曖と狐達が風呂に入っている間、翠は京都への行き方に悩んでいた。
「電車に動物は極力控えたいし、距離が距離だから車はきついな…」
とてとて…と曖がタオルで頬をぽんぽんしながらソファに座り、翠に言う。
「お兄さん、私達他の人に見えないから電車平気だと思うよ?」
翠はハッとする。
「…?じゃあなんで一度も…あぁ、心霊現象が起きるのか…」
失礼な!と曖が顔を覗き込む。とはいえ電車が使えるのなら、使えるに越したことはない。長旅になるだろうしスーツケースにまとめておこう。
風呂に向かうと大量の毛が山積みになっており、翠はポカンとして立ち尽くす。壁からちょこっと曖が顔を出し様子をうかがい、
「時期が時期だから…ほらもうすぐ冬だし、狐さん達の毛並みは整えないと…ね?」
翠は少し悩んだあと大きな段ボールをもってきて中に毛をしまい始めた。
「えっ、それ取っとくの…?」
「ん?いや、一旦まとめて置こうかと…」
「お兄さん…他の人にやっちゃだめだよ…」
少し引き気味な声で言う曖に、翠は答える。
「ん?ああ、わかった」
何故かジト目で見てくる曖と狐を横目に、翠はダンボールいっぱいに毛を集めた
「よいしょ…っと」
久々に押し入れから出した来客用布団は、家の匂いが自分にもよくわかるほどこびり付いていた。
「俺もこの匂いなのかな…」
いつくかの布団を出したせいか、いつもより寝室が狭く感じる。曖はすかさずぽふっと置かれた布団に飛び込んだ。
「ふあふあだ~♪」
それを聞いた狐たちはそ~っと近づき頭から布団に埋もれる。いつかの動画で見たような光景に翠は、笑いがこぼれる。それを見た曖も目を見開いた後、へへへ…と笑顔を見せた。
「お兄さん、せっかくだからさっき見つけたボードゲームしようよ~♪」
「いつの間に漁ったんだよ...」
「まあまあお客さんをもてなすってことでさ♪今日は徹夜しちゃお~!」
「...一回だけだぞ」
仕方ないなと言いつつ翠は曖たちと日をまたぐまで遊び続けていた。にぎやかな声は家の外にも響き、星も美しく輝き始めていた。くんくん…と美味しそうな匂いで曖は目を覚ます。大きなあくびの後ベッドの上で体を伸ばし、寝癖をつけながら居間の扉を開けた。目が覚めきっていない声の曖は翠の服の裾を掴み、大きなあくびをして言った。
「ん〜おはよぅ…お兄さん朝早いんだね…」
「よく寝れたみたいで良かった。まさか12時まで寝るとは思わなかったけどね」
翠は料理を盛りつけながら軽い笑みをこぼした。えっ⁉っと驚いた曖は恥ずかしさを隠そうと、両手で顔を覆った。
パチッと手を合わせ2人は朝ごはんを囲む。いつもと違う和風の朝食にネギなし薄味の豚汁を合わせ曖の目の前に置く。
「わぁ〜!おいしそ〜♪いただきます!」
「いただきます」
朝風呂から上がった曖は薄味の鮭を手に取り、目を輝かせながら幸せそうに咀嚼している。念をおいて狐が食べられないものや影響を考えた味付けにしている。とはいえ曖は狐に含まれるのだろうか…?
「キュッ」
狐が曖の横でじっと料理を見つめ曖に話しかけているように見える。
「曖は狐達の言葉もわかるのか?」
ん?とした表情でご飯をモゴモゴしている曖は、ゴクンと飲み込んだ後狐を撫でながら言った。
「言葉は分からないけど、怒ったり笑ったり心配してくれたりとか、狐さんの気持ちがふわってわかるんだ〜」
「不思議なもんだな…」
朝食を済ませ布団をたたんでいると、
「っはよ〜翠!祭り行こうぜ!!」
そう言って陽牙は玄関の扉をスパァン!!と勢いよく開けた。いきなりの出来事に曖と狐は耳や尻尾をピンと逆立て、目を丸くしている。
「陽牙…もうちょい優しく開けてくれ…心臓も家も保たないって」
「すまんすまんっ♪千草は...まだか。ならちょいと上がらせてもらうな〜…あれ?翠!お前妹いたの!?」
勝手に上がり込んだ陽牙は、すごい勢いで振り向き翠の肩を両手で押さえるように聞いた。
「は?いやいないけど…って陽牙、曖のこと見えるのか!?」
翠の言葉に戻りかけていた曖の耳がまたピンと立つ。
「え、そりゃ見えるだろ何言ってんだ?でも妹の話なんて聞いたこと...翠、自首ならまだ間に合うぞ?」
翠の後ろにそっと隠れた曖を見て、哀れむような目で翠の肩にポンっと手を置く
「違うわ!!誤解だ、誤解!!!」
コンコン
「...お邪魔しまーす」
ノックの後ガラガラと千草は扉を開ける。
「翠、陽牙おまたせ。あれ翠、この子は?」
「まさか千草にも見えるのか...!?陽牙といい何か関係でもあるのかな...」
一人で考察する翠をよそに、千草は曖の前にしゃがみ込む。
「私は千草っていうんだ。君は?」
「...!あ、曖です」
「いい名前ね。よろしくね曖ちゃん♪...!この耳って…本物!?」
笑みを浮かべながら曖の頭を撫でる千草は、興味深そうにつぶやく。
「...っくすぐったいです」
「!!...ねえ翠、なにこのかわいい生き物~!!」
恥ずかしがる曖に千草は翠に詰め寄ってきた。
「説明するから落ち着けって...」
翠はつぶやきつつ千草に茶を渡した。
ズズッ...コト。
「大体話は分かった。で、曖ちゃん...だっけ?思い出す手がかりに心当たりもない感じ?」
抹茶の入った陶器を置き陽牙は栗饅頭を口に入れる。勝手に話を進める陽牙は、茶菓子でなんとか落ち着かせることができた。
「うん...狐さんたちも私と一緒で、最近のことしか覚えてないの」
曖は狐を膝に乗せ撫でながら答えた。
「『結び様』ってのも気になるから、京都に行こうと思ってね」
「なるほどな~せっかくだし俺も付いてっていいか?本場の抹茶飲みたくなっちまって...」
あはは...と笑う陽牙に曖はコクコクと頷く。驚いた顔で陽牙達を見た後、千草も前のめりになって言った。
「え⁉ずるい!私も行く!」
手がかりがない以上人手があることに越したことはない。陽牙達の様子を見て笑っている曖を見て、翠はどこか安堵したように茶を口に運んだ。
