山間にある小さな町。寒さが残る空気は、まだ少し息を白く魅せている。
窓から見える景色は昔と比べて随分と変化し、知らないうちに町に来る人も賑わいも増えた。嬉しく思う反面、私の知っている景色はもう無いのかと、少し残念に思う。
窓の横には、いつかの夏に見つけた小さなラピスラズリの原石が飾られている。今もまだ、恋焦がれたあの日々を鮮明に覚えている。
「ママ、見て〜!」
と、心遥が玩具を持って駆け寄ってきた。孤児だった心遥は最近ようやく心を開いてくれたのか、「ママ」と呼んでくれることが増えてきてホッとしていた。
心遥と共に支度を済ませ散歩に出かけた。久々の帰省で両親は酷く喜び、街の人たちも手前がよく心遥にも対応が丁寧だった。きっと心遥も直ぐに慣れるだろう…。正月の帰省ができなかったこともあり、心遥の春休みと合わせて帰省したが丁度祭りが開催していたので運が良い。
賑やかな町、活気の溢れる商店街。出歩くと甘い和菓子の匂いが腹をくすぐる。心遥が食べたいと言った手作りのみたらし団子を一緒に頬張る。もちょもちょと食べるこの時間はまるで本当の家族のようで、嬉しかった。そう思うほど心が少し痛むのは心遥には内緒にしておこう。
人通りの少ない水路横の道を進み、線路脇の神社で腰を下ろす。高台にある事も相まって賑やかな声が心地よい。せっかく来たのだからお参りはしておこう。丘の神社は小さいながらもたった一つの神社であり、様々な人の縁を繋いでいる。町の人にはとても大切に扱われているのでヒビもサビも見当たらない。
きっとあの人も喜んでいるに違いない。
五円玉を入れ小さな鈴を鳴らし、手を合わせ、挨拶と願いを込める。心遥もこれを見てまねる。
「心遥に悪縁がありませんように」
あの人は…お兄さんは今も聞いているのだろうか。もし叶うのならもう一度…。もう会えないのは承知の上で…いや、きっとまた会える。
「約束、だもんね」
大丈夫…
「よし。心遥、行こっか」
踏切で立ち止まっていた心遥にそう呼びかけ手を繋いで歩き始めた。
ねえ、いつか聞いてくれるかな?私の本当の声を。
あの約束を、一緒に叶えてくれますか?
錆びれたカーブミラーの中、誰かが微笑んでいるようなそんな気がした。
小さな道沿いのボロ屋の中で翠は寝返りを打つ。わあわあと外から聞こえるにぎやかな声で目を覚まし、ゆっくりと起き上がり目をこする。秋らしい肌寒さに一気に目が覚める。ポットで湯を沸かし、テレビをつけると時間は昼を過ぎていた。ふと観光地の特集番組が目に入る。
「旅行ね...雪が降る前にもう一回行っておきたいな」
温かい湯をココアの入ったコップに注ぎながらつぶやく。椅子に座りながら新聞に目を通す。町内新聞には祭りのチラシとピザの配達のビラが挟まっていた。夜はピザにでもしようかな。そう思いながらココアの入ったコップにお湯を注ぐ。
グツグツ煮えるベーコンエッグをレタスで包み、口へと運ぶ。美味しい。毎日食べているがいつまでたっても飽きやしない。シャキシャキとしたレタス、とろけた黄身の目玉焼き、カリッとしたベーコン。
カシャン。きれいなきつね色のパンがトースターから飛び出しサンドイッチのように口へと運ぶ。カリッ、シャク…
うん…この組み合わせ程楽で美味しいものはない。シュポッと携帯の通知が鳴り、画面を見ると陽牙から連絡が入っていた。
『1週間後、予定空けとけよな〜!』
たったそれだけの素っ気ない通知。こちらの予定など気に留めない。とはいえ予定なんて無いのだから話くらいは聞いてみよう。
『何かするの?』
『まあまあ、千草も来るから絶対に来いよ!』
陽牙と千草は共にこの町で育った幼馴染みだ。元気と勢いをモットーにしている陽牙、大人しく清楚な千草。街の人数も少なく同級生もこの二人だけだった。
ココアを飲み干しホッと一息ついてから、支度を始めた。荷物をまとめ、古びたドアを閉め町へと出る。いつもより人通りが良いのはきっと祭りのおかげだろう。人々が自分で編んだマフラーや鞄、服や焼き物まで。これがこの町の伝統でもある。職人魂と言うのだろうか、皆楽しそうにここが良いあれが良い等評論をし合っている様は賑やかで好きだ。
明日は二人も呼んで軽く回れたらいいな。
いつものように裏路地を抜け、線路沿いの小さな神社に立ち寄った。五円玉をそっと入れ、願いを込める。
「商売繁盛、良縁成就…いい人とも出会えますように」
願い過ぎかなと思いながらも私欲が混ざる。新しい出会い等この町には無いも同然。町を出ればいい話ではあるが、一人は少し心細い。かと言って友人達を巻き込んでまで外に出たいとは思わない。一礼し、線路を渡った。
何十年も前に建てられたからか、近くのカーブミラーは少しの反射もできないくらい錆びついていた。小さな踏切は車すら通れない程小さく、わざわざここを選ぶ人はいない。それでも近くの山に向かうには回り道より何十分も早い。
山の中は土砂崩れの影響か道なんてものは無く、もはや目的地に登るためには崩れたところを通る他にない。軍手を着け、そそくさと登る。何回も登っていたからか今日は体が軽く感じる。少し休憩しようと腰を下ろし、リュックからブロック状の栄養食と水筒を取り出し、蓋をコップ代わりにして口へ運ぶ。
体に染み渡るような清涼感にホッとする。木々の間から見える空は澄んでいて空気がおいしい。パリッとブロック菓子の袋を開け食べようとしたとき、横から視線を感じ振り向くと一匹の狐が首を傾げて座っていた。野生にしては珍しい…全くと言っていいほど警戒心を感じない。
この山は雨が降るたびに土砂崩れが起きる為、ほとんどの人は近づこうともしない。と同じように山の動物達も町へと降りてくることはない。興味からかちっとも逃げようとせず、寧ろゆっくりと近づいてきている。とはいえもしかすると自分が餌にしか見えてないかもしれない…それだけは避けたい。ブロック菓子を半分に折ってそっと狐の側に置いた。
警戒心のない狐は軽く匂いを嗅ぎ、キュイッと鳴くと他の狐たちも集まってきた。
どうしたものかと思いつつ、少しの違和感に気づく。この山には人が住んでなく、入ることも容易では無い。加えて地盤も緩い。にも関わらず狐達には泥一つどころかふかふかとした毛並みを保っている。まるで誰かが手入れをしているかのような毛並みに、少し不気味な感覚を覚えた。
まあもふもふだし…細かいことは気にしないでおこう。
結局残りの食事も半分くらいは狐にあげてしまった。法的にはアウトだが…まあ、うん。この一回きりだ。
食事を終え研究課題の野鳥観察の準備をした。カメラに三脚、双眼鏡を用意し小さな折りたたみの椅子に座る。膝の上に用意したスケッチブックを狐がクンクンと嗅いでいる。警戒している雰囲気などなく、本当に誰かが飼っているのではと考えがよぎる。
ふと空を見ると手前の木に2匹の鳥が止まり体を寄せ合っていた。翠はすかさずペンを取り手を動かした。
山を降り踏切に着く頃には、既に街灯も点き始め、鈴虫の鳴き声が聴こえていた。手元の時計は午後16時前を指している。思っていたよりも長く居たんだなぁ。カンカン…と鳴る踏切を横目にオレンジ色の空を見上げた。
「キュイッ」
はっと驚き足元を見ると、先程の狐が線路に向かって鳴いている。すると後方からぞろぞろとたくさんの狐達が集まり、線路に向かって鳴き始める。
何事かと思い視線を線路に移す。そこには蝶を追いかけ夢中になっていた少女が、今にも電車に引かれそうになっていた。考えるよりも早く足が動く。
間に合わないかもしれない。
それでも、『こうするべきだ』と言われた気がした。手を伸ばし、間に合えと強く願う。
今度こそ守ってみせる。
目を開けるとオレンジ色に染まる木々が目に入る。起き上がると髪の毛には葉っぱが絡みついていた。何をしていたのだろうか。そうだ、踏切…!あの子はどうなった?なんでここにいるんだ…?
居ても立ってもいられなかった翠は急いで山を駆け下りる。時間はまだ15時を指している。間に合う!もし正夢だったとしても今なら!
踏切についた時にはすでに息が切れかかっていた。最近はそれなりに運動しているにも関わらず、この感覚は久々だった。反対側から少女が来たことを思い出し、線路を渡り神社の前の小さな丸太に座る。
時計が午後16時を指そうとした時、反対の方から歩いてくる人が目に入る。咄嗟にあの子か…?と立ち上がって見ると、少女は和装に狐の様な耳と尻尾が付いていて数匹の狐と楽しげに歩いていた。
やはり夢は夢なのだろうか…少しホッとし軽くため息をつく。きっと疲れているんだろう。現実味がない光景に頭が痛くなる。
待っていても無駄だろうと思い、帰路に着こうと振り返ると
「ねえ、お兄さん」
「え…」
先程まで遠くにいたはずの少女は、いつの間にか翠の目の前に立っていた。
「ん〜やっぱ見えてないのかな…」
そう言って少女は狐たちを連れて町の方角へ向かう。
「今、どうやって…」
そう呟くと少女はピタリと止まって振り返る。
「…お兄さん、私たちが見えるの?!」
「見える…?」
少女はタタッと走り翠の手を握る。
「よかったぁ…はじめて、初めて会えた」
状況を理解できず固まっている翠に少女は続ける。
「ずっと人と話せなくて、というか見えてなかったと言うか…このまま私達気づかれ無いままなのかなって思ってたよ…」
少女の狐耳がヘタっとして感情がわかりやすい。
「狐さんの言ったとおりの人でよかった...私、曖って言うの。忘れないでねお兄さん。」
そう言ってキュッと握る曖の手は少し震えていた。
情緒が行ったり来たりと激しく、追いつけないなりによろしくと返す。日が沈み紫色に染まる空を、カーブミラーは美しく切り取っていた
窓から見える景色は昔と比べて随分と変化し、知らないうちに町に来る人も賑わいも増えた。嬉しく思う反面、私の知っている景色はもう無いのかと、少し残念に思う。
窓の横には、いつかの夏に見つけた小さなラピスラズリの原石が飾られている。今もまだ、恋焦がれたあの日々を鮮明に覚えている。
「ママ、見て〜!」
と、心遥が玩具を持って駆け寄ってきた。孤児だった心遥は最近ようやく心を開いてくれたのか、「ママ」と呼んでくれることが増えてきてホッとしていた。
心遥と共に支度を済ませ散歩に出かけた。久々の帰省で両親は酷く喜び、街の人たちも手前がよく心遥にも対応が丁寧だった。きっと心遥も直ぐに慣れるだろう…。正月の帰省ができなかったこともあり、心遥の春休みと合わせて帰省したが丁度祭りが開催していたので運が良い。
賑やかな町、活気の溢れる商店街。出歩くと甘い和菓子の匂いが腹をくすぐる。心遥が食べたいと言った手作りのみたらし団子を一緒に頬張る。もちょもちょと食べるこの時間はまるで本当の家族のようで、嬉しかった。そう思うほど心が少し痛むのは心遥には内緒にしておこう。
人通りの少ない水路横の道を進み、線路脇の神社で腰を下ろす。高台にある事も相まって賑やかな声が心地よい。せっかく来たのだからお参りはしておこう。丘の神社は小さいながらもたった一つの神社であり、様々な人の縁を繋いでいる。町の人にはとても大切に扱われているのでヒビもサビも見当たらない。
きっとあの人も喜んでいるに違いない。
五円玉を入れ小さな鈴を鳴らし、手を合わせ、挨拶と願いを込める。心遥もこれを見てまねる。
「心遥に悪縁がありませんように」
あの人は…お兄さんは今も聞いているのだろうか。もし叶うのならもう一度…。もう会えないのは承知の上で…いや、きっとまた会える。
「約束、だもんね」
大丈夫…
「よし。心遥、行こっか」
踏切で立ち止まっていた心遥にそう呼びかけ手を繋いで歩き始めた。
ねえ、いつか聞いてくれるかな?私の本当の声を。
あの約束を、一緒に叶えてくれますか?
錆びれたカーブミラーの中、誰かが微笑んでいるようなそんな気がした。
小さな道沿いのボロ屋の中で翠は寝返りを打つ。わあわあと外から聞こえるにぎやかな声で目を覚まし、ゆっくりと起き上がり目をこする。秋らしい肌寒さに一気に目が覚める。ポットで湯を沸かし、テレビをつけると時間は昼を過ぎていた。ふと観光地の特集番組が目に入る。
「旅行ね...雪が降る前にもう一回行っておきたいな」
温かい湯をココアの入ったコップに注ぎながらつぶやく。椅子に座りながら新聞に目を通す。町内新聞には祭りのチラシとピザの配達のビラが挟まっていた。夜はピザにでもしようかな。そう思いながらココアの入ったコップにお湯を注ぐ。
グツグツ煮えるベーコンエッグをレタスで包み、口へと運ぶ。美味しい。毎日食べているがいつまでたっても飽きやしない。シャキシャキとしたレタス、とろけた黄身の目玉焼き、カリッとしたベーコン。
カシャン。きれいなきつね色のパンがトースターから飛び出しサンドイッチのように口へと運ぶ。カリッ、シャク…
うん…この組み合わせ程楽で美味しいものはない。シュポッと携帯の通知が鳴り、画面を見ると陽牙から連絡が入っていた。
『1週間後、予定空けとけよな〜!』
たったそれだけの素っ気ない通知。こちらの予定など気に留めない。とはいえ予定なんて無いのだから話くらいは聞いてみよう。
『何かするの?』
『まあまあ、千草も来るから絶対に来いよ!』
陽牙と千草は共にこの町で育った幼馴染みだ。元気と勢いをモットーにしている陽牙、大人しく清楚な千草。街の人数も少なく同級生もこの二人だけだった。
ココアを飲み干しホッと一息ついてから、支度を始めた。荷物をまとめ、古びたドアを閉め町へと出る。いつもより人通りが良いのはきっと祭りのおかげだろう。人々が自分で編んだマフラーや鞄、服や焼き物まで。これがこの町の伝統でもある。職人魂と言うのだろうか、皆楽しそうにここが良いあれが良い等評論をし合っている様は賑やかで好きだ。
明日は二人も呼んで軽く回れたらいいな。
いつものように裏路地を抜け、線路沿いの小さな神社に立ち寄った。五円玉をそっと入れ、願いを込める。
「商売繁盛、良縁成就…いい人とも出会えますように」
願い過ぎかなと思いながらも私欲が混ざる。新しい出会い等この町には無いも同然。町を出ればいい話ではあるが、一人は少し心細い。かと言って友人達を巻き込んでまで外に出たいとは思わない。一礼し、線路を渡った。
何十年も前に建てられたからか、近くのカーブミラーは少しの反射もできないくらい錆びついていた。小さな踏切は車すら通れない程小さく、わざわざここを選ぶ人はいない。それでも近くの山に向かうには回り道より何十分も早い。
山の中は土砂崩れの影響か道なんてものは無く、もはや目的地に登るためには崩れたところを通る他にない。軍手を着け、そそくさと登る。何回も登っていたからか今日は体が軽く感じる。少し休憩しようと腰を下ろし、リュックからブロック状の栄養食と水筒を取り出し、蓋をコップ代わりにして口へ運ぶ。
体に染み渡るような清涼感にホッとする。木々の間から見える空は澄んでいて空気がおいしい。パリッとブロック菓子の袋を開け食べようとしたとき、横から視線を感じ振り向くと一匹の狐が首を傾げて座っていた。野生にしては珍しい…全くと言っていいほど警戒心を感じない。
この山は雨が降るたびに土砂崩れが起きる為、ほとんどの人は近づこうともしない。と同じように山の動物達も町へと降りてくることはない。興味からかちっとも逃げようとせず、寧ろゆっくりと近づいてきている。とはいえもしかすると自分が餌にしか見えてないかもしれない…それだけは避けたい。ブロック菓子を半分に折ってそっと狐の側に置いた。
警戒心のない狐は軽く匂いを嗅ぎ、キュイッと鳴くと他の狐たちも集まってきた。
どうしたものかと思いつつ、少しの違和感に気づく。この山には人が住んでなく、入ることも容易では無い。加えて地盤も緩い。にも関わらず狐達には泥一つどころかふかふかとした毛並みを保っている。まるで誰かが手入れをしているかのような毛並みに、少し不気味な感覚を覚えた。
まあもふもふだし…細かいことは気にしないでおこう。
結局残りの食事も半分くらいは狐にあげてしまった。法的にはアウトだが…まあ、うん。この一回きりだ。
食事を終え研究課題の野鳥観察の準備をした。カメラに三脚、双眼鏡を用意し小さな折りたたみの椅子に座る。膝の上に用意したスケッチブックを狐がクンクンと嗅いでいる。警戒している雰囲気などなく、本当に誰かが飼っているのではと考えがよぎる。
ふと空を見ると手前の木に2匹の鳥が止まり体を寄せ合っていた。翠はすかさずペンを取り手を動かした。
山を降り踏切に着く頃には、既に街灯も点き始め、鈴虫の鳴き声が聴こえていた。手元の時計は午後16時前を指している。思っていたよりも長く居たんだなぁ。カンカン…と鳴る踏切を横目にオレンジ色の空を見上げた。
「キュイッ」
はっと驚き足元を見ると、先程の狐が線路に向かって鳴いている。すると後方からぞろぞろとたくさんの狐達が集まり、線路に向かって鳴き始める。
何事かと思い視線を線路に移す。そこには蝶を追いかけ夢中になっていた少女が、今にも電車に引かれそうになっていた。考えるよりも早く足が動く。
間に合わないかもしれない。
それでも、『こうするべきだ』と言われた気がした。手を伸ばし、間に合えと強く願う。
今度こそ守ってみせる。
目を開けるとオレンジ色に染まる木々が目に入る。起き上がると髪の毛には葉っぱが絡みついていた。何をしていたのだろうか。そうだ、踏切…!あの子はどうなった?なんでここにいるんだ…?
居ても立ってもいられなかった翠は急いで山を駆け下りる。時間はまだ15時を指している。間に合う!もし正夢だったとしても今なら!
踏切についた時にはすでに息が切れかかっていた。最近はそれなりに運動しているにも関わらず、この感覚は久々だった。反対側から少女が来たことを思い出し、線路を渡り神社の前の小さな丸太に座る。
時計が午後16時を指そうとした時、反対の方から歩いてくる人が目に入る。咄嗟にあの子か…?と立ち上がって見ると、少女は和装に狐の様な耳と尻尾が付いていて数匹の狐と楽しげに歩いていた。
やはり夢は夢なのだろうか…少しホッとし軽くため息をつく。きっと疲れているんだろう。現実味がない光景に頭が痛くなる。
待っていても無駄だろうと思い、帰路に着こうと振り返ると
「ねえ、お兄さん」
「え…」
先程まで遠くにいたはずの少女は、いつの間にか翠の目の前に立っていた。
「ん〜やっぱ見えてないのかな…」
そう言って少女は狐たちを連れて町の方角へ向かう。
「今、どうやって…」
そう呟くと少女はピタリと止まって振り返る。
「…お兄さん、私たちが見えるの?!」
「見える…?」
少女はタタッと走り翠の手を握る。
「よかったぁ…はじめて、初めて会えた」
状況を理解できず固まっている翠に少女は続ける。
「ずっと人と話せなくて、というか見えてなかったと言うか…このまま私達気づかれ無いままなのかなって思ってたよ…」
少女の狐耳がヘタっとして感情がわかりやすい。
「狐さんの言ったとおりの人でよかった...私、曖って言うの。忘れないでねお兄さん。」
そう言ってキュッと握る曖の手は少し震えていた。
情緒が行ったり来たりと激しく、追いつけないなりによろしくと返す。日が沈み紫色に染まる空を、カーブミラーは美しく切り取っていた
