王太陽と昼休みを一緒に過ごすようになって、二週間が経った。
彼に関しては、もはや、驚きはない。
財布をなくしても。
文房具が消えても。
消費期限切れの昼食を持ってきても。
すべて、想定内だ。
昼休みが始まると、斜め前の王太陽は、椅子ごとこちらに向き直る。
「今日さ」
それが、合図だ。
食事の開始と同時に、王太陽は、取り留めがないことをつらつら話しだす。
ペットのうさぎのこと。
朝、転びそうになった話。
ペットのハムスターのこと。
ネットで聞いた、都市伝説の話。
ペットのフクロウのこと。
どこで何を落としたか、という報告。
「さっき、プリントなくしてさ」
「……今、ポケットに入ってるけど」
「あ、ほんとだ。なんでわかった?」
わかる。癖だから。
王太陽は、右ポケットに入れたものを、必ず一度忘れる。左は覚えているのに。
「律ってさ」
「なに」
「俺より、俺のこと知ってね?」
彼は、おかしそうに言ったが、否定できなくて、黙ってしまった。
クラスメイトは言う。「面倒見がいい」と。 「優しい」と。あるいは「なんで王と仲いいの?」と質問されたりもする。
どれも、違う。
おれは、仲良くしようと思ったことはない。
王太陽は、派手で、明るくて、でも、その実中身は子供で、自分がそそっかしくも危なっかしいことに、まるで気づいていない。
だから、誰かがつねに見張る必要がある。
たまたま、そのお鉢がおれにまわってきただけのことだ。
「律」
「なに」
王太陽が、ミニハンバーグを一個、こちらの弁当に入れる。
「うちのクッキー(※注 王家のうさぎ)じゃねーんだからさ、野菜ばっか食ってどうするよ?」
「……たりてる」
「たりてない、たんぱく質が!」
世話をしているつもりが、いつの間にか、世話をやかれていたりもする。
不思議だ。
昼休み終了のチャイムが鳴る。
「じゃ、またな」
王太陽は、椅子ごと前に向き直る。
おれは、王太陽の広い背中を見るたび、思う。
よかった、本当に。
こいつが、おれの前の席じゃなくって。
こんなの、ちっこいおれからしたら、単なる障害物以外の何物でもない。
ふと、王太陽がこちらを向く。
内心を見透かされたかと、ひやっとする。
が、彼は、ニカッと笑って、また前に向き直った。
その整い過ぎた顔立ちとデカい身体のせいで、無表情の王太陽は、なんとはなし怖い人っぽく見えるけれど、笑うと一変、ライオンからゴールデンレトリーバーへと成り下がる。
先生が入ってきて、授業が始まる。
おれは、今日も確信する。
10分後、王太陽が、机に頬杖をついて、うつらうつらと船をこぎ始めるだろうことを。
腹の皮が突っ張れば、目の皮がたるむ。
それは、王太陽に限った話ではない。
人類等しく、そうだろう。
かくいうおれも、腹いっぱいで、まぶたが重くなってきた。
いかんいかん、と机のなかをまさぐり、先生の目を盗んで、ミントタブレットを口に放り込む。
王太陽のように、抗うことなく、睡魔に身をまかせてしまえればどれだけ幸福だろう、とは思う。
が、そうするには、おれは、あまりに真面目過ぎた。
──いや、もしくは、気が小さいのか? 身体のサイズのように……。
それ以上の思考を、おれは、止めた。
とにかくまぶたを開けたまま、この5限目を乗り切らないと、とミントタブレットを噛み砕いた。
王太陽、本日の観察結果
・昼ごはんのあとは、お昼寝タイム
以上……。
