「おれ、カムアしたい!」
太陽にそう言われたとき、おれの胸のうちで心音が轟いた。
「おれと律がつきあい始めたこと、みんなには黙ってたくないんだよね。わかってくれると思うし、きっと」
真面目に、けれど、明るい表情で太陽は言い切った。
「おれらの友だちだし!」
そうまで言われてしまっては、おれも、こう答えるしかなかった。
「そうだね。わかってくれる、かも……」
おれは、かろうじて笑みを口元に浮かべた。
でも、内心は、不安を覚えずにはいられなかった。
何かを察しているらしい加賀くんはともかく、他二名、希里くんとあっくんはどんな反応を見せるだろうか。
が、結果から言えば、おれの心配は、まったくの杞憂に終わった。
加賀くんは、
「ついにか。やったな、おめでとさん」
と、祝福してくれ、あっくんは、
「あ、そうなの? めでたいね」
と、ごくシンプルに祝意を表し、希里くんに至っては、
「え、まだつきあってなかったの? これから?」
と、別の意味で驚かれてしまった。
「だって、ふたりともあんなにベッタリしてたじゃん。てっきりつきあってるもんだとばっかり思ってた」
「え、ベッタリしてた?」
思わず訊くと、
「してた」
加賀くんが即答した。
「ああ、してたね」
あっくんも頷く。
「えへへ」
と太陽が、顔を明らめ、照れる。
とにもかくにも、いつメンへのカミングアウトは、無事済んだ。
おれは、安堵した。
でも、太陽は、
「うーん、祝ってくれるのはうれしかったけど、なんか驚きがなかったよなー。みんな、あっさりした感じだったしー」
と、どこか物足りなさそうだった。
おれとしては、あんまり驚かれなくて、よかったが。
「あとさ、文芸部の先輩たちにもカムアしたい」
「え、先輩たちにも?」
おれは、少しひるんだけれど、太陽は、だいじょぶだってー、とまるで不安はないようだった。
太陽の言うとおり、先輩たちへのカムアは、確かに「だいじょぶ」だった。
「あら」
「まあ」
「そう!」
三人の先輩たちも、笑顔でお祝いを言ってくれた。
が、やはり驚きは、あまりないようだった。
「そりゃあね、ふたりを見ていればねぇ」
「揃って入部してくれたくらいだしねぇ」
「王くんが太陽なら、月は佐久間くん意外ありえないしねぇ」
先輩たちは、笑って、互いに目配せをしあった。
「おれたち……ベタベタしてましたか?」
低い小声で訊いてみたら、
「そりゃあベタベタ──」
「してないわよ~」
「してないしてない」
笑顔でごまかされてしまった。
もしかしたら、おれたちって、おれが思ってた以上に人前でベタベタしてたのだろうか……。
放課後、太陽と一緒に立ち寄ったマックで、コーラを飲みながら、フライドポテトをつまんでいたら、太陽が言った。
「なんか相模先輩たちも、あんま驚いてなかったな。おれたちのこと」
「……だな」
「もうちょっと驚いてくれるかなって思ってたけど……」
太陽は、やっぱり、どこか物足りなさそうだった。
おれは、吐息をついた。
「カムアって、とりあえずこれで済んだんだろ? これ以上はいないだろ?」
「うーん……」
太陽は言葉を濁し、
「まあ、これでいいかな。ごんちゃんとかサチさんとか、たくろーくんにもお祝い言われたし……」
ポテトをつまむおれの指が止まった。
おれは、目をあげ、真正面から太陽を見据えた。
「……ごんちゃんとかサチさんとか、たくろーくんって、誰?」
太陽が、ぽっと頬を染めた。
「つい言っちゃった……」
「……」
「律、怒らない?」
太陽が恥ずかしそうに上目遣いに訊いてきた。
こととしだいによっては、と言いたいのをこらえて、おれは頷く。
「ごんちゃんたちはね、ネッ友」
「……」
「ネットの友だち。おれ、ブログやってるから」
おれは、固まった。
三呼吸ほどの間ののち、やっと一声だせた。
「……は?」
太陽は、より頬を赤くして、
「おれ、ブログやってるんだ。高校入ってからはじめた」
「……」
「最初は学校のこととかペットのこととか書いてたんだけど、いつのまにか、律のことばっかり書くようになっちゃって……」
「……」
「好きだけど告白できないからつらい、とか書いてたら、読者さんがすごいはげましてくれてさ、いつか想いがつうじるといいね、とか。だから、おつきあい始めました、って報告した。そしたら、祝電みたいなコメントがたくさんきちゃって……」
うぶな乙女さながらに、太陽の瞳が潤む。
「ごめんね、勝手に律のこと書いてて……」
「まさか名前とかだしてんの……?」
「さすがに本名はね、だせないから、りぃくん、って書いてる」
「りー、くん……?」
「りぃくん。『い』はちっちゃい『ぃ』だよ」
「……」
太陽が気まずそうに、もじもじ訊いてくる。
「怒った?」
おれは、コーラを何口か飲んだ。
それから言った。
「今度、そのブログ、見せて」
「……見せるのはいいけど、なんか恥ずかしいな」
「今さら、だろ?」
おれは、ポテトを一本つまんで、太陽の口元につきだした。
ぱくっとうれしそうに太陽が食べる。
「りつー」
「なに?」
「もう一本」
「はいはい」
二本目も太陽はおいしそうに食べた。
胸の内側がくすぐったくて、おれは、笑ってしまった。
「太陽ってさ」
「んー?」
「ゴールデンレトリーバーみたい」
「律だけのワンコだよ。だから、捨てないでね」
「いいコにしてれば、ずっと飼う」
すると太陽は、笑顔で一声、ワン、と鳴いたのだった。
