放課後。
今日は金曜だから、文芸部の活動がある。
こんな風邪っぴきだから、休もうかと思ったけれど、せめて先輩たちにあいさつくらいしてから帰るか、とちょっとだけ顔をだすことにした。
帰りのSHRが終わって、太陽とふたり、三年A組に向かおうとしたら、ちがうクラスの知らない女の子が来て、話があるから、ということで、太陽を連れ出した。
すぐに戻るから待ってて、と太陽に言われたから、おれは、ひとり教室で待っていた。
……が、15分経過しても、戻らない。
自分の席でぼんやりしていたら、
「あれ、佐久間くん」
と、後ろから声をかけられた。
振り返ったら、佐久間さんがいた。
「どうしたの? まだ帰らないの?」
おれと同じ列、ふたつ後ろが佐久間さんの席だった。
「太陽待ってるんだけど、戻ってこなくて……」
「王くんなら、さっき見かけたけど……」
「あ、そうなんだ……」
「……なんかね」
佐久間さんは、ちょっとためらいをみせてから、そうっと言った。
「告白されてるみたい、だった……」
「……」
いつものことだとは思った。
でも、いつもならすぐ戻ってくるのに、今日は、なかなか戻らない。
まさか。〈太陽の好きなひと〉に告白されてる、とか……? まさか、そんな……。
考えがちにうつむいていたら、佐久間さんが近寄ってきた。
「佐久間くん!」
呼ばれて、片手を取られた。
「わたし、応援してるから!」
佐久間さんが、その両手で、おれの片手を包み込む。
「佐久間くんは、王くんとつきあっているんでしょう?」
「……」
「ごめんね。ちょっと前、偶然目撃しちゃって……」
ふたりが抱き合ってるところ……、と佐久間さんが、声を潜める。
「いろいろつらいこととかあると思うけど、わたしは応援してるから! 大丈夫、だれにも言ったりしないし」
「……」
激励されているところへ、
「律!」
後ろの出入口から、王太陽が入ってきた。
はっとしたように、佐久間さんが、おれの手を放す。
「じゃあね」
そう言って、佐久間さんは、そそくさと教室から出ていった。
「なに? さっきの」
ずかずかとこちらに向かってきながら、太陽が訊く。
「なんで、手を握りしめられてたの?」
「なんで、って……」
「なんで?」
「……勘違い、されてたんだよ」
「勘違い?」
「おれと太陽がつきあってるって……。それで、応援されてた」
え、と太陽が、ぽっと顔を赤らめた。
「誤解をとくひまがなかった」
「それって……誤解って……」
「太陽は告られてたんだろ?」
おれは、そう言って、立ち上がった。
「ずいぶん遅かったじゃん。もしかして、好きなコに告られた?」
「え?」
「太陽、好きなコいるんだろ? おれには、教えてくれないけど……」
「……」
「加賀くんは知ってるっぽかったのに、おれに教えてくれないのは、なんで?」
「……」
「もしかして、知らないのって、おれだけ?」
カバンを肩にかけ、おれは、教室を出ようとした。
ら、片腕をつかまれて、ぐっと引かれた。
後ろを向いたら、太陽がすぐ目の前にいて、思わず瞬きを止めた。
「知ってるよ……」
太陽が、低く、言った。
「知ってるよ。加賀なんかより、律の方がずっと……」
「……」
「知りたい──?」
太陽の目が、まっすぐこっちを見ていた。
「おれの好きなやつ……」
心臓が、どくん、と鳴る。
そのまま、顔を近づけられる。
目をそらす間もなく、視界が埋まる。
やわらかい布越しに、唇が触れた。
一瞬、何が起きたのか、わからなかった。
ただ、熱だけが伝わってくる。
すぐに離れていった太陽が、息をつく。
「──これで、わかった?」
照れ隠しみたいに、細めた眼差し。
おれは、何も言えない。
言葉が出てこない。
ただ、心臓がうるさかった──。
今日は金曜だから、文芸部の活動がある。
こんな風邪っぴきだから、休もうかと思ったけれど、せめて先輩たちにあいさつくらいしてから帰るか、とちょっとだけ顔をだすことにした。
帰りのSHRが終わって、太陽とふたり、三年A組に向かおうとしたら、ちがうクラスの知らない女の子が来て、話があるから、ということで、太陽を連れ出した。
すぐに戻るから待ってて、と太陽に言われたから、おれは、ひとり教室で待っていた。
……が、15分経過しても、戻らない。
自分の席でぼんやりしていたら、
「あれ、佐久間くん」
と、後ろから声をかけられた。
振り返ったら、佐久間さんがいた。
「どうしたの? まだ帰らないの?」
おれと同じ列、ふたつ後ろが佐久間さんの席だった。
「太陽待ってるんだけど、戻ってこなくて……」
「王くんなら、さっき見かけたけど……」
「あ、そうなんだ……」
「……なんかね」
佐久間さんは、ちょっとためらいをみせてから、そうっと言った。
「告白されてるみたい、だった……」
「……」
いつものことだとは思った。
でも、いつもならすぐ戻ってくるのに、今日は、なかなか戻らない。
まさか。〈太陽の好きなひと〉に告白されてる、とか……? まさか、そんな……。
考えがちにうつむいていたら、佐久間さんが近寄ってきた。
「佐久間くん!」
呼ばれて、片手を取られた。
「わたし、応援してるから!」
佐久間さんが、その両手で、おれの片手を包み込む。
「佐久間くんは、王くんとつきあっているんでしょう?」
「……」
「ごめんね。ちょっと前、偶然目撃しちゃって……」
ふたりが抱き合ってるところ……、と佐久間さんが、声を潜める。
「いろいろつらいこととかあると思うけど、わたしは応援してるから! 大丈夫、だれにも言ったりしないし」
「……」
激励されているところへ、
「律!」
後ろの出入口から、王太陽が入ってきた。
はっとしたように、佐久間さんが、おれの手を放す。
「じゃあね」
そう言って、佐久間さんは、そそくさと教室から出ていった。
「なに? さっきの」
ずかずかとこちらに向かってきながら、太陽が訊く。
「なんで、手を握りしめられてたの?」
「なんで、って……」
「なんで?」
「……勘違い、されてたんだよ」
「勘違い?」
「おれと太陽がつきあってるって……。それで、応援されてた」
え、と太陽が、ぽっと顔を赤らめた。
「誤解をとくひまがなかった」
「それって……誤解って……」
「太陽は告られてたんだろ?」
おれは、そう言って、立ち上がった。
「ずいぶん遅かったじゃん。もしかして、好きなコに告られた?」
「え?」
「太陽、好きなコいるんだろ? おれには、教えてくれないけど……」
「……」
「加賀くんは知ってるっぽかったのに、おれに教えてくれないのは、なんで?」
「……」
「もしかして、知らないのって、おれだけ?」
カバンを肩にかけ、おれは、教室を出ようとした。
ら、片腕をつかまれて、ぐっと引かれた。
後ろを向いたら、太陽がすぐ目の前にいて、思わず瞬きを止めた。
「知ってるよ……」
太陽が、低く、言った。
「知ってるよ。加賀なんかより、律の方がずっと……」
「……」
「知りたい──?」
太陽の目が、まっすぐこっちを見ていた。
「おれの好きなやつ……」
心臓が、どくん、と鳴る。
そのまま、顔を近づけられる。
目をそらす間もなく、視界が埋まる。
やわらかい布越しに、唇が触れた。
一瞬、何が起きたのか、わからなかった。
ただ、熱だけが伝わってくる。
すぐに離れていった太陽が、息をつく。
「──これで、わかった?」
照れ隠しみたいに、細めた眼差し。
おれは、何も言えない。
言葉が出てこない。
ただ、心臓がうるさかった──。
