クラスのごく一部から、自分が妬まれていることはわかっていた。
理由は、おれがいつも王太陽と一緒にいるから。
ふつうだったら、おれみたいな、地味で大人しくて、ちっこくて貧弱なやつなんて、当然最下位カーストのはずだ。
それが、最上位カーストにいる。
まさにこのクラスの王のような太陽の隣にいる。いつも。
それが、納得いかない。腹が立つ。
だから、隙あらば、からかってやろう。いじってやろう。
そう思っている連中の存在には、なんとなく気付いていた。
おれが、教室のなかでひとりになることは、めったにない。
いつも、太陽や加賀くんや、あっくん、希里くんの誰かしらがそばにいる。
が、たまたまその時、いつメンがみんな席を外していて、おれは、ひとりだった。
群れからはぐれた、シマウマの子供状態。
ハイエナが狙わないはずがない。
さっそくひとりがやってきて、声をかけられた。
「佐久間、ひとりって、めずらしいじゃん」
言葉とともに、ひょいっとかけていた眼鏡を外された。
とたん、視界がぼやける。
「返して」
反射的に立ち上がった。
でも、距離感が掴めない。
ぼやけた輪郭しか見えない。
ひらひらと、眼鏡を振られる。
「ほら、取ってみろよ」
手を伸ばす。
当然、かわされる。
笑い声。
うるさい。
怖くはない。ただ、ただ面倒くさい。
「返して」
手を伸ばして、もう一度言う。
笑い声ばかりが返ってくる。
「そらっ」
眼鏡が宙に放り投げられた。
そのときだった。
教室に入ってきた、ガタイのいい男がそれをキャッチした。
「──誰の? これ」
その低い声には、聞き覚えがあった。
思わず、
「おれの!」
と声をあげた。
「──人様の眼鏡で遊ばない」
ガタイのいい男は、眼鏡を投げた男に、ドスのきいた声で言って、おれに眼鏡を手渡してくれた。
「あ、ありがとう」
おれは、早口に言って、眼鏡をかけ、男を見た。
あ、このひと、と思ったとき。
「律!」
太陽の声だった。
どかどかと室内を横切ってやってきた太陽が、おれの前にかばうように立ちはだかった。
「てめー、醍醐! 律に何するつもりだ!」
「ち、ちがう!」
おれは、あわてて、太陽の腕に手をかけた。
「ちがう。このひと、助けてくれたんだ」
「……は?」
振り向いた太陽の顔には、険しさがそのまま残っていた。
「助けた?」
「うん。眼鏡、この人が取ってくれて」
おれがそう言うと、醍醐は、苦笑してみせ、
「ま、そーいう訳だから。このクラス、子供っぽいやつらがいるんだな」
と、周囲を見回した。
おれの眼鏡で遊んでいた連中が、気まずそうに視線を逸らす。
醍醐が、ふっと笑いをもらして、おれの頭にポンと手のひらをおいた。
「意外と可愛いね」
「……」
「じゃあ、また」
そう言うと、くるりと背を向け、出ていった。
「あれ、何この空気? まさか、ケンカ?」
いつのまにか戻っていた加賀くんが言う。
あっくんや希里くんもいる。
「なんでもないよ」
おれは、割り込むように言って、太陽に向き直った。
「あのひと、友だちだろ?」
「……まさか」
太陽が、ほこりを払うようにおれの頭を撫でながら、渋面で言う。
「塾が一緒だっただけ。それだけ」
「本当に? それだけ?」
訊いたのは、あっくん。
「おれとあいつだけ、ずっとビリッケツのクラスだったの」
太陽が、潜めた声で言う。それから、
「律、あいつと口聞いちゃダメ。あいつ、本当にちっさいものが大好きなんだからな」
「おれ、ハムスターじゃないし……」
「みたいなもんだろ?」
太陽の台詞に、加賀くんがふきだす。
「あー、確かに。りっくん、小動物感あるよな」
あっくんと希里くんまでうなずく。
「律は、いつもおれのそばにいないとダメ」
子供に言い聞かせるように、太陽が言う。
「今日も帰り、いっしょな!」
ひときわ大きな声で言われて、恥ずかしくなったけれど、なんとなく、さっきのこともどうでもよくなる。
今日は、水曜だから、文芸部の活動もあるし、楽しみだ。
やっぱり、おれは単純だ。
理由は、おれがいつも王太陽と一緒にいるから。
ふつうだったら、おれみたいな、地味で大人しくて、ちっこくて貧弱なやつなんて、当然最下位カーストのはずだ。
それが、最上位カーストにいる。
まさにこのクラスの王のような太陽の隣にいる。いつも。
それが、納得いかない。腹が立つ。
だから、隙あらば、からかってやろう。いじってやろう。
そう思っている連中の存在には、なんとなく気付いていた。
おれが、教室のなかでひとりになることは、めったにない。
いつも、太陽や加賀くんや、あっくん、希里くんの誰かしらがそばにいる。
が、たまたまその時、いつメンがみんな席を外していて、おれは、ひとりだった。
群れからはぐれた、シマウマの子供状態。
ハイエナが狙わないはずがない。
さっそくひとりがやってきて、声をかけられた。
「佐久間、ひとりって、めずらしいじゃん」
言葉とともに、ひょいっとかけていた眼鏡を外された。
とたん、視界がぼやける。
「返して」
反射的に立ち上がった。
でも、距離感が掴めない。
ぼやけた輪郭しか見えない。
ひらひらと、眼鏡を振られる。
「ほら、取ってみろよ」
手を伸ばす。
当然、かわされる。
笑い声。
うるさい。
怖くはない。ただ、ただ面倒くさい。
「返して」
手を伸ばして、もう一度言う。
笑い声ばかりが返ってくる。
「そらっ」
眼鏡が宙に放り投げられた。
そのときだった。
教室に入ってきた、ガタイのいい男がそれをキャッチした。
「──誰の? これ」
その低い声には、聞き覚えがあった。
思わず、
「おれの!」
と声をあげた。
「──人様の眼鏡で遊ばない」
ガタイのいい男は、眼鏡を投げた男に、ドスのきいた声で言って、おれに眼鏡を手渡してくれた。
「あ、ありがとう」
おれは、早口に言って、眼鏡をかけ、男を見た。
あ、このひと、と思ったとき。
「律!」
太陽の声だった。
どかどかと室内を横切ってやってきた太陽が、おれの前にかばうように立ちはだかった。
「てめー、醍醐! 律に何するつもりだ!」
「ち、ちがう!」
おれは、あわてて、太陽の腕に手をかけた。
「ちがう。このひと、助けてくれたんだ」
「……は?」
振り向いた太陽の顔には、険しさがそのまま残っていた。
「助けた?」
「うん。眼鏡、この人が取ってくれて」
おれがそう言うと、醍醐は、苦笑してみせ、
「ま、そーいう訳だから。このクラス、子供っぽいやつらがいるんだな」
と、周囲を見回した。
おれの眼鏡で遊んでいた連中が、気まずそうに視線を逸らす。
醍醐が、ふっと笑いをもらして、おれの頭にポンと手のひらをおいた。
「意外と可愛いね」
「……」
「じゃあ、また」
そう言うと、くるりと背を向け、出ていった。
「あれ、何この空気? まさか、ケンカ?」
いつのまにか戻っていた加賀くんが言う。
あっくんや希里くんもいる。
「なんでもないよ」
おれは、割り込むように言って、太陽に向き直った。
「あのひと、友だちだろ?」
「……まさか」
太陽が、ほこりを払うようにおれの頭を撫でながら、渋面で言う。
「塾が一緒だっただけ。それだけ」
「本当に? それだけ?」
訊いたのは、あっくん。
「おれとあいつだけ、ずっとビリッケツのクラスだったの」
太陽が、潜めた声で言う。それから、
「律、あいつと口聞いちゃダメ。あいつ、本当にちっさいものが大好きなんだからな」
「おれ、ハムスターじゃないし……」
「みたいなもんだろ?」
太陽の台詞に、加賀くんがふきだす。
「あー、確かに。りっくん、小動物感あるよな」
あっくんと希里くんまでうなずく。
「律は、いつもおれのそばにいないとダメ」
子供に言い聞かせるように、太陽が言う。
「今日も帰り、いっしょな!」
ひときわ大きな声で言われて、恥ずかしくなったけれど、なんとなく、さっきのこともどうでもよくなる。
今日は、水曜だから、文芸部の活動もあるし、楽しみだ。
やっぱり、おれは単純だ。

