学校一のモテ男子が、なぜか俺にだけ甘えてくる ──イケメン甘えん坊男子×保護者系眼鏡男子の学園BL


 太陽は、いつもおれの隣でにこにこしてるものだと思ってた。

 手が届くほど近くにいて、いつもご機嫌。

 誰かにお菓子とかもらうと、必ずおれにも分けてくれる。

 ちょっと寂しくなったり、すねたりすると、りつ~~って、抱きついてくる。

 でも、頭や背中をポンポンすると、すぐにまた笑顔を見せてくれる。

 いつもおれの隣にいるのが、当たり前だと思ってた。

 そんな当たり前の日常は、ある日突然崩れた。
 
 席替えで、おれと太陽は、見事に教室の端と端に分けられた。

 太陽は、一番窓際の列の、一番後ろ。
 おれは、一番廊下側の列の、一番前。

 まさかここまで遠くなるとは、夢にも思っていなかった。

 知り合ったときから、太陽は、常に、おれの左斜め前の席にいた。

 ふつうに声が届く位置。

 休み時間は、いつも太陽が椅子ごとこっちに向き直ってくれた。

 そこに、加賀くんやあっくん、希里くんがやってきて、いつメンでしゃべっていた。

 が、教室の端と端。

 なんだか心細いような気がする。

 いや、たかが席替えごときで、弱気になるなおれ。

 でも、太陽の席近くには、見事に、加賀くんやあっくんや希里くんが配された。

 おれだけ、ぼっち。

 いや、ぼっちなんて、どうってことないだろう。

 もともとおれは、一人でいるのか苦にならないタチなのだから。

 ……でも、なんだか、寂しい。

 いつもいつも左斜め前にあった、広い背中がなくなって、心もとない。

 太陽に、りつ~~、と呼んでほしい。

 が、休み時間になると、おれの席は、女子に囲まれた。

 やいのやいのわちゃわちゃ話しかけられる。

 見事に、王太陽のことばかりを訊かれる。

 将を射んと欲すれば先ず馬を射よ、ってやつだ。

 みんな、おれをとっかかりにして、なんとか王太陽と友だちになりたいのだ。

 気持ちはわかるが、こっちとしては、疲れる。

 当たり障りのない返答をして、適当にへらへらしているだけでも、なんかエネルギーの消耗が激しい。

 エネルギー補給がしたい。エネルギーが……。

 やがて、午前の授業が終わって、昼休みになった。

 購買へ行って、弁当を購入しなければ。

 太陽は、購買に行くのか行かないのか訊かないと、思っていたら、少し前屈みになった王太陽が、突如おれの前に、ぬっと現れた。

 細くなった目に八の字まゆ毛。顔色も顔つきも、なんだか冴えない。

 大丈夫かコイツ、と不安になったが、……購買行こ、と言われて、席を立った。

 が、廊下に出た途端、何も言わずに、王太陽がおれを抱きしめてきた。

 力をこめて、ぎゅうっと抱きしめられて、ぐえっ、となりかけだが、おれは、おとなしくしていた。

「りつ~~、りつ~~、りつ~~」

 耳元で、王太陽のくぐもった声が言う。

 廊下を行き交う人間にジロジロ見られても、おれは、かまわず、太陽の背中を片手でさすり、片手でポンポンした。

 おれも寂しかったよ、とは言わなかった。

 ただ、さすって、ポンポンしていた。

 しばらくして、太陽の腕の力が少しだけゆるんだ。
 
 でも、完全には離れない。

 太陽は、おれの肩に顔を埋めたまま、ぐりっと押しつけてくる。

「今日、ずっと無理だった」
「なにが」
「律いないの」
「いるだろ」
「遠い」
 
 太陽が顔を上げる。
 ちょっとだけ、真剣な顔。

「律いないと、つまんない」
「……」
「全然楽しくない」
「……おれも」

 小さく言うと、

「え」
 
 太陽が目を見開いた。

「ちょっと寂しかった」
 
 言ってしまってから、少しだけ照れくさい。
 
 でも太陽は、

「ほんと?」
 
 やけに嬉しそうな顔をした。

「ほんと」
 
 そう答えると、太陽は笑った。

「じゃあさ」
「なに」
「昼、毎日一緒に食べよ」
「今までもそうだろ」
「これからも」
「……うん」
「ずっとずっと」
「……うん」
 
 それから、さっきより少し軽い力で、もう一回だけぎゅっと抱きしめてきた。

「じゃあ、行こ」
「うん」
 
 席は遠くなったけど。
 まあ、いいか。

 休み時間になれば、こうして隣に来るし。
 
 顔見られるし。

 それで十分だ、と思ったおれの足取りは、すっかり軽くなっていた。