学校一のモテ男子が、なぜか俺にだけ甘えてくる ──イケメン甘えん坊男子×保護者系眼鏡男子の学園BL


 おれは、王太陽という人物について、記録を残すことにした。
 
 理由は、至極単純。見ていて、興味深いから。

 王太陽。〈おう たいよう〉と読む。父親が台湾人、母親が日本人のハーフ。

 王太陽は、生まれついての、いわゆるスクールカースト上位の人間だ。

 スラリとした長身、顔立ちも、極めて完成度が高く、整っている。
 メンズファッション誌の表紙を飾ってもおかしくないほどの見た目。

 その上、名前が、王太陽。目立たないわけがない。
 というより、目立つために生まれてきたようなヤカラだ。
 本人にはその自覚がないらしいのが、なお悪い。
 
 どうやら、陰では「キング」と呼ばれているようだった。
 
 が、これを本人の前で口にすると非常にやっかいである。

 おれは三回、彼が、羞恥のあまり、顔はおろか首や耳まで真っ赤にして、文句を言いまくる現場を見た。学習はした。
 
 そんな彼との初遭遇は四月、高校の入学式当日。
 初めて口をきいたのは、その翌日だった。
 
 席決めで、おれの斜め前になったのが、王太陽だった。
 
 クラスのカーストNo.1とこんな近距離なんて、と正直憂鬱だった。
 こっちは、地味で眼鏡で無口な底辺もいいとこなのに。

 しかも、王太陽は、何かにつけ、人目を引いた。
 
 まず、椅子を引く音が大きい。
 教科書を落とす。
 消しゴムを転がす。
 拾おうとして、さらにノートを落とす。
 ついでに、開けっ放しの筆箱も。
 
 三分で推察した。
 不器用を通り越し、ひとりにしておいたら下手すると、自爆するタイプかもしれない。
 
 事件は、初めての昼休みに起きた。
 
 おれは、教室の自分の席で、ひとり、持参した弁当を食べていた。
 一緒に食べるような友だちは、まだいなかった。

 そこへ、急に声をかけられた。

「なあ」
 
 振り向くと、王太陽が立っていた。
 
「……何」
「なんで、ひとりで食ってんの?」
「……まだ、友だち、いないから」
「ひとりで食ってて、楽しい?」

 質問の意図が不明だったので、少し考えた。

「静かなのは……いいよ」

 これは、100パー本音だった。

「ふーん」
 
 納得したのかしてないのか分からない顔で、彼はおれの弁当箱をのぞき込んだ。

「ちっさ」
 
 弁当箱のことだとはわかった。

 が、おれ自身、身体が小柄だった。身長は、ギリ160ある程度。あげく、やせっぽち。

 だから、食べる量も自然と少なかった。

「あのさ、嫌じゃなかったら、一緒に食わない?」

 王太陽は、コンビニのレジ袋を軽くかかげた。

 何の気なさそうに王太陽に誘われたこのとき、おれは、はっきり結構ですと断るべきだったのだ。

 ぼっちでも、別に寂しくはないし、むしろ、誰のペースに合わせることもなく、ゆっくり食べられるからひとりがいい、と。

 しかし、世間知らずだったおれは、王太陽がさりげなくみせた、気遣いだかおせっかいだかに、逆にこっちも気を遣ってしまい、とまどいつつも、受け入れてしまったのだ。

「じゃあ……一緒に、食べる?」

 この日このときから、王太陽はおれの隣に席を占めるようになったのだ。

 王太陽とおれが一緒に食べ始めると、すかさず4、5人のクラスカースト上位の連中が昼メシをもって、近くにやって来た。

「太陽、ここで食うの?」
「だったら、おれらも」
「混ぜてー」
 
 あげく、カースト上位に食い込まんとする他の連中も、入れて入れてとやって来て、あっという間に人だかりができた。

「名前━━佐久間 律、だろ?」

 王太陽が言った。

 急に騒がしくなった周囲にキョドりつつ、おれは、おずおずと頷いた。

「りっくん、って言うんだー」
「これから、よろしく」
「あ、おれもね」

 カースト上位に次々と声をかけられ、おれは、目が白黒する思いだった。

「律ってさー、ちっこくて、可愛いよな」

 そう言った王太陽の声色に、からかいは、みじんもなかった。

「何かさー、森の奥に住んでそうな感じ。仲間と一緒に丸太小屋にさ」

 その声に、あざけりや嘲笑が少しでも含まれていたら、おれは、すぐに立ち上がって、その場を離れただろう。

 けれど、王太陽はニコニコと、人のよさそうな笑顔をみせながら、ごくナチュラルな口調で言った。

「あー、言えてるわ。りっくん、小人ちっくで可愛いよな━」

 周囲が一斉に賛同する。

 おれは、のどの通りが悪くなった。

 とりあえず弁当の箸を置いた。
 
 食欲がなくなった、というより、今この状況で咀嚼を続けるのが難しかった。
 
 注目を浴びることに慣れていない人間が、急に光の中に放り出されると、思考が止まる。
 
 王太陽は、そんなおれの様子にまったく気づいていないようだった。

「なあ律、これ食う?」
 
 視線で示されたのは、唐揚げだった。
 彼のコンビニ弁当の中で、一番大きそうなやつ。

 断るまもなく、唐揚げを半分に割り、ひとつをおれの弁当箱に入れた。

「ほら。半分こ」
 
 周囲が、わっと騒いだ。

「やさしー」
「太陽、面倒見いいな」
「完全に保護対象じゃん」

 おれは、肩を落とし、弁当箱の中の唐揚げを見下ろした。
 
「……ありがとう」
 
 とりあえず、そう言うしかなかった。
 
 王太陽は満足そうに頷いた。

「ちゃんと食えよ。律には、たんぱく質がもっと必要だ」

 おれがちっこいからだろう、さりげなく、栄養指導が入った。
 
 このとき、おれはまだ知らなかった。
 
 この昼休み以降、王太陽がほぼ毎日、何かしらを分け与えてくるようになることを。
 
 飲み物。
 お菓子。
 筆記具。
 謎の気遣い。
 
 そして、それを見た周囲が、別の意味を付与し始めることを。
 
 この日の観察結果を、簡潔にまとめる。
 
 王太陽は、
 ・距離感が近い
 ・善意にブレーキがない
 ・無自覚に周囲の認識を歪める
 ・手がデカい
 
 
 以上。