あっくんが帰ってまもなくだった。
ふたり組の女の子がやってきた。
「失礼しま~す」
と言って、女の子たちは教室に入ってきた。
どちらも別クラスの女の子だった。
初めて見る顔だった。
「勉強中にごめんね」
と、ひとりのコが謝った。
「王くんがまだ教室にいるって聞いたから、来てみたんだけど……」
ふたりは顔を見合わせてから、口を開いた。
「あたしたち、E組なんだけど、もしよかったら、今度テストのあと、遊びませんか? この四人で」
「あたしたち、王くんと佐久間くんの友だちになりたいなあって、思ってて」
ふたりとも、太陽しか見ていない。
わかりやすい、素直なふたりだ。
いわば、おれは、グリコのおまけか。
「ごめん」
太陽がはっきりと言った。
「でかけられないや、ごめんね」
「なんで……」
「好きなコがいるから、そのコ以外とはでかけられないんだ」
「あー、そうなんだ……。無理言ってごめんね。じゃあ」
と、ふたりは帰っていった。
おれは、言った。
「おれのことなら、気にすることなかったのに。一緒にでかけてもよかったのに」
「律……さっきのコたちと出掛けたかったの?」
「ちがうよ。あのコたちの目当ては太陽じゃん。もし遊びたかったら、つきあったのにって、思って」
「なんで? おれ、あのコたちとでかけたくないよ」
「あ……もしかして、好きなひとって、本当にいるの?」
「……」
「ちっとも気づかなかった。誰? おれも知ってるひと?」
太陽が、ゆらりと立ち上がった。
「律のバカ!」
言うなり、机の上のノートや教科書をあつめて、カバンにいれると、教室から出ていってしまった。
なんなんだ、一体……。
あっけにとられていると、入れ替わるように、加賀くんが教室に入ってきた。
「あれ、さっき帰ったはずじゃ……」
「スマホ、机んなかに忘れちゃってさ、戻ってきたんだよ。それより、何、太陽。すっげー不機嫌だった、さっき、そこですれ違ったんだけど」
おれは、よくわからないまま、ことのいきさつを話した。
すると、加賀くんも目を見開いて、あきれたように言った。
「りっくん、わかってねーの?」
「なにを?」
「太陽の好きなひと」
「だれ? おれも知ってるひと?」
加賀くんは、額に手のひらをあてた。
「あー、ダメだ。これじゃあ……。りっくんから太陽に訊いたほうがいいよ。おれの口からは言えないね。今夜電話して、とりあえず謝った方がいい」
「え、おれが、謝るの?」
「もちのろん。デリカシーなくてごめんね、くらい言っといた方がいい」
わけもわからないまま、バカ呼ばわりされたおれから謝らないといけないなんて、なんか理不尽だ。
けれど、おれも何かまずいことを知らぬまま言っていたのかもしれない。
たいていご機嫌な王太陽が、へそを曲げて、出ていってしまったからには。
そこへ、
「りつ~~」
と大声で呼びながら、教室に入ってきたのは、王太陽、そのひとだった。
「りつ~~!」
王太陽は、おれにすがりついてきた。
「バカとか言って、ごめん!」
「……」
「おれ、下駄箱で気付いて──なんてひどいこと言っちゃったんだろうって、律に嫌われたらどうしようって思って、戻ってきた!」
「あ──そう……」
おれは、かなり脱力しながらも、一応謝った。
「なんか……ごめん。おれも、デリカシーないこと言って……」
「律は、全然悪くない! 悪かったのは、全部おれだから!」
王太陽にぎゅうぎゅう抱きしめられ苦しくなったおれは、ちょっとたんま、とようよう言った。
「怒ってないし、嫌ってないし、大丈夫、だよ」
「本当?」
「本当」
電話して謝る手間がはぶけたし。
「まあ、仲直りできたんなら、よかったじゃん」
加賀くんに言われた。
結局、三人でマックに行くことになった。
校門につづく道を歩きながら、
「太陽の好きなひとって、だれ?」
と、改めて訊いたら、
「テスト終わったら、話す!」
と顔を赤くして、王太陽が言ったから、
「えー、今教えて」
と頼んだら、
「あせらないあせらない」
と加賀くんに、背中をぽんぽんたたかれた。
おれだけ知らないって、なんか不公平だなあ、とは思ったけれど、太陽の好きなひとを知りたいような知りたくないような複雑な気持ちになったのはなぜなのか、自分のことなのに、さっぱりわからなかった……。
