学校一のモテ男子が、なぜか俺にだけ甘えてくる ──イケメン甘えん坊男子×保護者系眼鏡男子の学園BL

最近の王太陽は
 ・ぐずる
 ・すねる
 ・寝る
 ・だだをこねる

 これらをローテーションで繰り返している。

 イヤイヤ期に入ったのか。
 あるいは、反抗期に入ったのか。

 どっちにしろ、面倒だ……。



 今日も今日とて、王太陽は、ぐずっていた。

 理由は、さっきの休み時間。
 おれが、一緒にトイレに行こうと誘わなかったからだ。

 トイレから教室に戻るなり、王太陽は、おれも一緒にトイレに行きたかったのに! と嘆いた。

「一緒にトイレ……って、女子じゃねんだからさ━、ひとりでトイレくらい行かせてやれよ」

 加賀くんが、呆れた声を出した。

「一緒がよかった」

 王太陽が、悲痛な声で言った。
 
 おれは、あ、と思って、急いで、椅子に座っている王太陽の背後にまわった。

 王太陽の頭を、ポンポンと軽くたたいてから、その両肩に手をおき、様子をうかがった。

 王太陽は、おとなしくしている。

 おれはほっとして、王太陽の両肩マッサージをはじめた。

 ぐずる王太陽にいくら正論をかましても、糠に釘、火に油、犬に論語だ。
 
 こういうときは、とにかく機嫌を直してもらうのが先決になる。
 
 しばらく肩をもんでいると、王太陽の身体から力が抜けてきた。

 そろそろ斜めだったご機嫌も、まっすぐになりそうだ。

 一種のベビーマッサージのようなものかもしれないが、これは、王太陽のあやし方として、絶大な効果がある。

 これをやって王太陽のご機嫌が治らなかったことは、かつてない。

「それにしても、楽しみだよなー。ネズミーランド! おれ、いつ以来だろ? 数年ぶりだよ」

 希里くんが、楽しそうに言った。

 ゴールデンウィークが目の前だった。

「家族で行ってもおもしろくねーけど、友だち同士で行くと、なぜか、すげーおもしろいんだよな」

 と、あっくん。

「おれも、行くの久々。写真、いっぱい撮ろう」

 おれが言うと、王太陽の肩が、ぴく、と微かに反応した。

 まずい、と思った。

 ネズミーランド……、と王太陽がぽつりと言った。

「写真……とる……いっぱい……」
「な! そーしよ! 楽しみたのしみ!」

 タイミングよくチャイムが鳴り出して、おれは、太陽の両肩を強めにたたいて、マッサージを切り上げた。

 あぶなかった。

 チャイムが鳴り出すのがもう少し遅かったら、王太陽は、まちがいなく、すねだしていただろう。

 最近のおれは、否応なしに、王太陽のご機嫌取りに心をくだいていた。

 なぜかと言えば、王太陽がぐずりだしたり、ただをこねたりするのは、必ずおれの発言からなのだ。

 何が導火線になるのかは、まったくもって、わからない。

 他の三人に飛び火しないよう、とにかく王太陽がへそを曲げないよう、おれは、必死に大きな三歳児をなだめて、あやしつづけた。

 が、それもいささか疲れてきた。本当に育児は、きつい。メンタルを削られる。

 ついにおれは、決断した。

 王太陽のカウンセリングをやるしか、もう手立てはない。
 直接、その口から、何がどうしてこうなっているのか、説明してもらうのだ!

 その日はちょうど木曜日で、王太陽の部活は、週イチのバレー部だった。

 おれは、やっぱり週イチの茶道部以外何もやっていなかった。

 だから、ほとんど帰宅部だったけれど、今日は、勉強しながら待ってるから一緒に帰ろう、と王太陽を誘った。

 王太陽は、愛らしいクマのぬいぐるみを見た三歳児さながら、顔を輝かせた。

 放課後、おれはひとり図書館に行き、勉強に励んだ。

 6時になると、後片付けをして、王太陽との待ち合わせ場所の昇降口へと急いだ。

 王太陽は、すでに機嫌よく佇んでいた。

 ふたり並んで校門を出ると、カウンセリングを始めるまもなく、王太陽から、口を開いた。

「なぁ、律……」
「なに?」
「5分━━いや、3分でいいからさ、ちょっとだけ、寄らない?」
「どこに?」
「……ゲーセン」

 ちいさな声だった。

「ゲーセン? かまわないけど、何するの?」
「やった!」

 王太陽が、パッと、破顔する。

「この前みたく、学校帰りにゲーセン寄るのは不良! って怒られるかと思った」
「……」
「よかった、今日は、律の機嫌がよくて」

 おれは、はた、と思い出した。

 確か先週の茶道部終わりだった。

 もじもじしながら、ゲーセンにちょっと寄りたい、と言った王太陽を、おれは、叱った。
 学校帰りにゲーセンなんて不良のやることだと。

 実を言えば、見たいテレビがあったから、たんに早く帰りたかっただけなんだけど。

「でも、ゲーセンに3分、なんて、どうして?」
 
 王太陽の顔が、赤く、染まった。

「……プリクラ」
「プリクラ?」
「律と、撮りたいから……」
 
 なんだか、気が抜けた。

「それくらい、いつだっていいよ。つきあうよ」
「わー、よかった!」

 王太陽は、素直に喜んだ。

 じゃあ、とおれは思った。

 王太陽のイヤイヤ期の原因は、おれだったというわけか。
 テレビのために叱り飛ばしたのが原因だった、とそういうわけか……。

「5分とか言わないで、もっといて大丈夫だよ」

 おれは、お詫びもこめて、優しく言った。

「プリクラ、たくさん撮ろう」
「うん!」

 夕焼けに染まる帰り道、王太陽は、うれしそうに頷いたのだった。