ルーレンもそこで思い至ったのか言葉を止めた。
「ルーレンさんのおっしゃる通りです。ヤニス氏の実験前のルーティンは同じチームの方でしたら、どなたでも知り得ることです。そして、私が今日この部屋の魔力暴走に巻き込まれたのは、偶然にも同じ道筋を辿ってしまったからだと考えられます」
ミュヨンは真っ直ぐにマイロを見据えた。
「マイロさん。あなたは発動条件が完成する直前でカイさんを制止しました。これは偶然でしょうか?」
「……偶然だと思いますが。もちろんヤニスの実験前ルーティンは私も知っています。しかし、少なくてもこの研究室の者でしたら、誰でも知っていますよ」
マイロの口調が刺々しくなる。
ヤニスを呼び捨てにしていると自覚できていないのだろう。
ミュヨンは努めて平静にマイロへの質問を繰り返す。
「仮に、ヤニスのルーティンを利用して、あらかじめ禁術を仕込み、殺害したとして、それが私である証拠はどこにもない。ここにいる人間の誰もが可能だったことだ」
カイのオッドアイが鋭く光り、ミュヨンに向けられる。
ミュヨンもカイを一瞥した。
「マイロさん……」
「これ以上、何ですか?」
「どうして、行使された魔術が禁術だとわかったのでしょうか?」
マイロの表情が明らかに強張った。
「私たちはまだ一言もお話していません。ヤニス氏の死を引き起こした魔術が禁術であるのかを」
「……それは」
「お話したのは、あらかじめ仕掛けられた魔術がヤニス氏の行動パターンによって発動した可能性があるということだけです」
「……」
「何を以って、それが禁術であると判断したのでしょうか?」
「人一人を死に至らしめているのだから禁術だと思っても不思議ではないでしょう」
「使い方次第です。一般的な応用魔術でも行使次第では人を殺せます。全てが禁術指定されているわけではありません」
ミュヨンの柔らかく耳に心地よい声がマイロを追い詰める。
「迷いなく禁術って言ったよね。丸眼鏡の研究者さんは」
カイも追随してきた。
可愛らしく、あどけない顔つきをしている監査官と極上に美しい顔と宝石よりも美しい左右違う色の瞳を持つ国家指定魔術師は最初から逃げ道など用意していない。
長い沈黙の末、マイロが口を開く。
「――あなたたち二人に謀られたというわけですか……」
握り締めた拳から、ゆっくりと力が抜けていく。
先ほどまで必死に探そうとしていた言葉も、もう出てこない。
「謀ったなんて人聞きが悪いな。犯人に自ら名乗り出てもらいたかっただけ」
「現段階で犯人という呼び方はやめてくださいと伝えました」
「今それ重要?」
「とても重要です。調査の段階なのですから」
「――わかったって」
カイとミュヨンのやり取りをマイロは黙って見つめていた。
「まさか本当にマイロさんが……」
ルーレンが信じられないといった表情でマイロを見つめている。
ボルトラとレミリアも複雑そうだった。
「ヤニス副主任を殺したいほど憎んでいるのはボルトラさんだと思っていました」
「聞き捨てならないな。何で、そうなるんだ」
「いや、だってめちゃくちゃ嫌っていたし、よく口論してたし……」
「口論じゃなくて研究議論だ。ヤニス副主任は嫌いだったけど、一人の研究者としては尊敬して一目置いていたよ」
ルーレンとボルトラが言葉を交わし合っているのを、レミリアが「今は黙っていたほうが……」と小声で諫める。
ミュヨンはその様子を見守りながらマイロへと向き直った。
「ヤニス氏は今、進められている魔力増幅理論の研究を止めようとしていました。しかし、危険だと訴えるだけでは止められないと悟り、十年前に監査局から研究停止勧告が出されている第一次実証実験との関連性を証明しようとしていました」
監査局から資料を取り寄せ、関連データは隈なく念入りに確認していた。
一見わからない形でホワイトボードに2つの研究が繋がる補助式を記す。
研究計画見直し要請書を作成する。
全ては研究を止めるため。
「恐らくマイロさんはヤニス氏とは異なり研究を続けたかったのではないでしょうか?」
「おっしゃる通りです」
マイロは潔く肯定した。
「この研究はレオニス王国にとって必要不可欠な研究です。それに今まで膨大な時間と労力、そして予算を使って、チームで研究を進めてきました。それをご破算にするなど考えられないでしょう。私は何度もヤニスに伝えました。しかし、あいつは危険だから止めなければならないの一点張り……」
「ヤニス氏を憎んでいたのですか?」
「いや、むしろ逆です」
マイロは首を横に振る。
「同期で研究所に入所してから、優秀なヤニスは、どんどん出世していきました。理論の組み立ても早く、結果の異常への気づきも早い。私はそんなヤニスを尊敬していました。同じラボでヤニスの部下という立場になってからも、負の感情を抱いたことはありませんでした」
確かに研究室メンバーの供述からしても、マイロだけはヤニスへの見方が他の3人とは違っていた。
今の発言はマイロの本心から来るものだろう。
「どうして、尊敬していたヤニス氏を……」
「尊敬していたからこそですよ」
「ルーレンさんのおっしゃる通りです。ヤニス氏の実験前のルーティンは同じチームの方でしたら、どなたでも知り得ることです。そして、私が今日この部屋の魔力暴走に巻き込まれたのは、偶然にも同じ道筋を辿ってしまったからだと考えられます」
ミュヨンは真っ直ぐにマイロを見据えた。
「マイロさん。あなたは発動条件が完成する直前でカイさんを制止しました。これは偶然でしょうか?」
「……偶然だと思いますが。もちろんヤニスの実験前ルーティンは私も知っています。しかし、少なくてもこの研究室の者でしたら、誰でも知っていますよ」
マイロの口調が刺々しくなる。
ヤニスを呼び捨てにしていると自覚できていないのだろう。
ミュヨンは努めて平静にマイロへの質問を繰り返す。
「仮に、ヤニスのルーティンを利用して、あらかじめ禁術を仕込み、殺害したとして、それが私である証拠はどこにもない。ここにいる人間の誰もが可能だったことだ」
カイのオッドアイが鋭く光り、ミュヨンに向けられる。
ミュヨンもカイを一瞥した。
「マイロさん……」
「これ以上、何ですか?」
「どうして、行使された魔術が禁術だとわかったのでしょうか?」
マイロの表情が明らかに強張った。
「私たちはまだ一言もお話していません。ヤニス氏の死を引き起こした魔術が禁術であるのかを」
「……それは」
「お話したのは、あらかじめ仕掛けられた魔術がヤニス氏の行動パターンによって発動した可能性があるということだけです」
「……」
「何を以って、それが禁術であると判断したのでしょうか?」
「人一人を死に至らしめているのだから禁術だと思っても不思議ではないでしょう」
「使い方次第です。一般的な応用魔術でも行使次第では人を殺せます。全てが禁術指定されているわけではありません」
ミュヨンの柔らかく耳に心地よい声がマイロを追い詰める。
「迷いなく禁術って言ったよね。丸眼鏡の研究者さんは」
カイも追随してきた。
可愛らしく、あどけない顔つきをしている監査官と極上に美しい顔と宝石よりも美しい左右違う色の瞳を持つ国家指定魔術師は最初から逃げ道など用意していない。
長い沈黙の末、マイロが口を開く。
「――あなたたち二人に謀られたというわけですか……」
握り締めた拳から、ゆっくりと力が抜けていく。
先ほどまで必死に探そうとしていた言葉も、もう出てこない。
「謀ったなんて人聞きが悪いな。犯人に自ら名乗り出てもらいたかっただけ」
「現段階で犯人という呼び方はやめてくださいと伝えました」
「今それ重要?」
「とても重要です。調査の段階なのですから」
「――わかったって」
カイとミュヨンのやり取りをマイロは黙って見つめていた。
「まさか本当にマイロさんが……」
ルーレンが信じられないといった表情でマイロを見つめている。
ボルトラとレミリアも複雑そうだった。
「ヤニス副主任を殺したいほど憎んでいるのはボルトラさんだと思っていました」
「聞き捨てならないな。何で、そうなるんだ」
「いや、だってめちゃくちゃ嫌っていたし、よく口論してたし……」
「口論じゃなくて研究議論だ。ヤニス副主任は嫌いだったけど、一人の研究者としては尊敬して一目置いていたよ」
ルーレンとボルトラが言葉を交わし合っているのを、レミリアが「今は黙っていたほうが……」と小声で諫める。
ミュヨンはその様子を見守りながらマイロへと向き直った。
「ヤニス氏は今、進められている魔力増幅理論の研究を止めようとしていました。しかし、危険だと訴えるだけでは止められないと悟り、十年前に監査局から研究停止勧告が出されている第一次実証実験との関連性を証明しようとしていました」
監査局から資料を取り寄せ、関連データは隈なく念入りに確認していた。
一見わからない形でホワイトボードに2つの研究が繋がる補助式を記す。
研究計画見直し要請書を作成する。
全ては研究を止めるため。
「恐らくマイロさんはヤニス氏とは異なり研究を続けたかったのではないでしょうか?」
「おっしゃる通りです」
マイロは潔く肯定した。
「この研究はレオニス王国にとって必要不可欠な研究です。それに今まで膨大な時間と労力、そして予算を使って、チームで研究を進めてきました。それをご破算にするなど考えられないでしょう。私は何度もヤニスに伝えました。しかし、あいつは危険だから止めなければならないの一点張り……」
「ヤニス氏を憎んでいたのですか?」
「いや、むしろ逆です」
マイロは首を横に振る。
「同期で研究所に入所してから、優秀なヤニスは、どんどん出世していきました。理論の組み立ても早く、結果の異常への気づきも早い。私はそんなヤニスを尊敬していました。同じラボでヤニスの部下という立場になってからも、負の感情を抱いたことはありませんでした」
確かに研究室メンバーの供述からしても、マイロだけはヤニスへの見方が他の3人とは違っていた。
今の発言はマイロの本心から来るものだろう。
「どうして、尊敬していたヤニス氏を……」
「尊敬していたからこそですよ」



