ミュヨンの静かな追及に、長い間を置いてマイロが口を開いた。
「そこまで理由を求められると思いませんでした」
マイロはミュヨンへと向き直る。
怒りが瞳に滲んだような尖った目つきだった。
「私は危険だと思ったから止めた、それだけです。咄嗟の判断に、そこまで明確な理由が必要でしょうか?」
マイロに質問を返されたミュヨンは表情を変えずに、そのまま視線と言葉を受け止めた。
感情的になった自覚があるのか、マイロは気まずそうに目を逸らす。
「はい。人は咄嗟に判断することがあります」
ミュヨンの言葉にマイロの表情が僅かに緩む。
「ですが、私は監査官です。なぜ、その判断にいたったのか、何を見て、何を危険だと考え、その行動を選び、実行に移したのか……関係者にヒアリングすることも重要な仕事です」
「……」
「改めてお伺いします。あなたは何を危険だと判断され、国家指定魔術師であるカイ・レイヴンクラウド氏の行動を慌てて制止したのでしょうか?」
「……」
責めさいなむ口調ではないのに、ミュヨンからは監査官として事実を整理し職務を全うしたいという強い意志が窺える。
マイロは逃れられないと思ったのか、黙することを選択していた。
ミュヨンもマイロの意思を感じ取り、これ以上の同じ質問は無駄であると判断する。
「ヤニス氏は実験中に起きた不慮の魔力暴走事故で命を落としました」
改めてミュヨンが伝えると、ボルトラ、レミリア、ルーレンは一段表情を暗くする。
「王立魔術師団から監査局へ協力要請を受け、私は監査官として本件の調査を進めてまいりました。その結果……」
ミュヨンが言葉を切ると、一斉に視線が集まるのを肌で感じた。
マイロもゆっくりとミュヨンへと目線を向ける。
「第三者が介在している可能性が高いと浮かび上がってきました」
全員が息を呑む。
ミュヨンは表情を変えなかった。
「第三者って……」
レミリアが怯えた目つきで第一声を放つ。
「まさかヤニス副主任は誰かに殺されたっていうんですか?」
ルーレンも驚愕の眼差しでミュヨンに質問した。
「はい。その見方が有力であると考えられます」
「つまり、ヤニス副主任が命を落としたのは事故ではなく殺人だったというのか?」
「そうなります」
ボルトラが戸惑いを隠せないまま続けた質問にミュヨンは冷静に返答する。
「いや、仮に殺人事件だとしても不可能でしょう。ヤニス副主任の実験中に、この部屋に誰かが入った痕跡がないのは調査で明らかになっていますし、仕組み的にも入室は絶対不可能です」
当然、感じるであろう疑問をボルトラがぶつけてくる。
レミリアとルーレンも同じなのか、浅く頷いていた。
「ええ。おっしゃる通りです」
「でしたら」
「実験中は――という意味ですが」
ミュヨンは落ち着きを失わず、彼らの疑問に答えていく。
「事故前にヤニス氏しか結界実験室に入室していないことはログで証明されています」
「では、どうやって?」
「――それ、俺から答えちゃおうかな」
無言を貫いていたカイが重い空気に感化されず、軽薄な口調で告げた。
「あらかじめ魔術を行使しておけば実験中の室内に入らなくても殺すことは出来る」
「いや、それは不可能でしょう」
ボルトラがカイの発言を即座に否定する。
「事前に魔術を行使しておく。それは難しくも決して不可能ではない方法です。しかし、ヤニス副主任をピンポイントで狙える都合のいい魔術はないです。この実験室への出入りは関係者であれば自由ですから」
「確かに運が悪ければ私たちが魔力暴走で殺されていたということですか?」
机を指でノックしながら告げるボルトラにレミリアが困惑した表情で続く。
「――いや、狙いは副主任だけだった」
「では、どうやって?」
「魔術が発動する条件を設定して、この部屋へ残せばいい」
「だから、そんな都合のいい魔術行使など存在しない……」
ボルトラがはっと何かに気づいたように口を噤んだ。
カイはシニカルに微笑んだ後、ミュヨンへとオッドアイを向けた。
「ルーレンさん。カイさんが今、入室してからカイさんが歩いていたルートを言えますか?」
「え? どうだったかな……」
ミュヨンに問われて、ルーレンは記憶を辿るように考え込んでいる。
「入室してきて……制御卓のほうに向かったような。それから実験台の前まで歩いてきて、結界発生器の方へ向かった時にマイロさんに止められたのではなかったのでしょうか」
「とても正確ですね」
「へへ。ありがとうございます」
ミュヨンに褒められて得意げなルーレンだったが、近くのボルトラとレミリアは何かに気づいたのか青ざめている。
「え? でも待てよ。この順番って……」
ルーレンも遅れて気がつく。
「ルーレンさん。何か思い当たることがありますか?」
「いえ。ヤニス副主任の安全確認手順と一致しているなと思いまして」
「そこまで理由を求められると思いませんでした」
マイロはミュヨンへと向き直る。
怒りが瞳に滲んだような尖った目つきだった。
「私は危険だと思ったから止めた、それだけです。咄嗟の判断に、そこまで明確な理由が必要でしょうか?」
マイロに質問を返されたミュヨンは表情を変えずに、そのまま視線と言葉を受け止めた。
感情的になった自覚があるのか、マイロは気まずそうに目を逸らす。
「はい。人は咄嗟に判断することがあります」
ミュヨンの言葉にマイロの表情が僅かに緩む。
「ですが、私は監査官です。なぜ、その判断にいたったのか、何を見て、何を危険だと考え、その行動を選び、実行に移したのか……関係者にヒアリングすることも重要な仕事です」
「……」
「改めてお伺いします。あなたは何を危険だと判断され、国家指定魔術師であるカイ・レイヴンクラウド氏の行動を慌てて制止したのでしょうか?」
「……」
責めさいなむ口調ではないのに、ミュヨンからは監査官として事実を整理し職務を全うしたいという強い意志が窺える。
マイロは逃れられないと思ったのか、黙することを選択していた。
ミュヨンもマイロの意思を感じ取り、これ以上の同じ質問は無駄であると判断する。
「ヤニス氏は実験中に起きた不慮の魔力暴走事故で命を落としました」
改めてミュヨンが伝えると、ボルトラ、レミリア、ルーレンは一段表情を暗くする。
「王立魔術師団から監査局へ協力要請を受け、私は監査官として本件の調査を進めてまいりました。その結果……」
ミュヨンが言葉を切ると、一斉に視線が集まるのを肌で感じた。
マイロもゆっくりとミュヨンへと目線を向ける。
「第三者が介在している可能性が高いと浮かび上がってきました」
全員が息を呑む。
ミュヨンは表情を変えなかった。
「第三者って……」
レミリアが怯えた目つきで第一声を放つ。
「まさかヤニス副主任は誰かに殺されたっていうんですか?」
ルーレンも驚愕の眼差しでミュヨンに質問した。
「はい。その見方が有力であると考えられます」
「つまり、ヤニス副主任が命を落としたのは事故ではなく殺人だったというのか?」
「そうなります」
ボルトラが戸惑いを隠せないまま続けた質問にミュヨンは冷静に返答する。
「いや、仮に殺人事件だとしても不可能でしょう。ヤニス副主任の実験中に、この部屋に誰かが入った痕跡がないのは調査で明らかになっていますし、仕組み的にも入室は絶対不可能です」
当然、感じるであろう疑問をボルトラがぶつけてくる。
レミリアとルーレンも同じなのか、浅く頷いていた。
「ええ。おっしゃる通りです」
「でしたら」
「実験中は――という意味ですが」
ミュヨンは落ち着きを失わず、彼らの疑問に答えていく。
「事故前にヤニス氏しか結界実験室に入室していないことはログで証明されています」
「では、どうやって?」
「――それ、俺から答えちゃおうかな」
無言を貫いていたカイが重い空気に感化されず、軽薄な口調で告げた。
「あらかじめ魔術を行使しておけば実験中の室内に入らなくても殺すことは出来る」
「いや、それは不可能でしょう」
ボルトラがカイの発言を即座に否定する。
「事前に魔術を行使しておく。それは難しくも決して不可能ではない方法です。しかし、ヤニス副主任をピンポイントで狙える都合のいい魔術はないです。この実験室への出入りは関係者であれば自由ですから」
「確かに運が悪ければ私たちが魔力暴走で殺されていたということですか?」
机を指でノックしながら告げるボルトラにレミリアが困惑した表情で続く。
「――いや、狙いは副主任だけだった」
「では、どうやって?」
「魔術が発動する条件を設定して、この部屋へ残せばいい」
「だから、そんな都合のいい魔術行使など存在しない……」
ボルトラがはっと何かに気づいたように口を噤んだ。
カイはシニカルに微笑んだ後、ミュヨンへとオッドアイを向けた。
「ルーレンさん。カイさんが今、入室してからカイさんが歩いていたルートを言えますか?」
「え? どうだったかな……」
ミュヨンに問われて、ルーレンは記憶を辿るように考え込んでいる。
「入室してきて……制御卓のほうに向かったような。それから実験台の前まで歩いてきて、結界発生器の方へ向かった時にマイロさんに止められたのではなかったのでしょうか」
「とても正確ですね」
「へへ。ありがとうございます」
ミュヨンに褒められて得意げなルーレンだったが、近くのボルトラとレミリアは何かに気づいたのか青ざめている。
「え? でも待てよ。この順番って……」
ルーレンも遅れて気がつく。
「ルーレンさん。何か思い当たることがありますか?」
「いえ。ヤニス副主任の安全確認手順と一致しているなと思いまして」



