マイロは先ほどの大声が嘘かのように、元来のボソボソとした口調に戻る。
けれども、言葉に淀みはなかった。
「こちらの結界実験室は事故直後から魔術師団の魔術管理部が現場検証を行っています。結界発生器には何人も近づいていますし、注意を払って触れていることでしょう」
「そうですよね。僕も歩いているだけのように見えましたが……」
ルーレンがミュヨンに賛同するように言葉を続けた。
助手のルーレンは頭に浮かんだ疑問を率直に語ってくれているらしい。
「そ。俺、現場を見渡していただけだけど。そんなに必死に止めちゃって、どうかした?」
カイは美しく口許を歪めて、マイロをオッドアイに据える。
「俺って不必要に事故現場の機械装置に触れると思われるほど、信用ないんだ。傷ついた」
「いえ。そういうわけでは……」
絶対に傷ついてはいない飄々とした軽薄な口調でマイロを詰めるカイ。
この張り詰めた空気など意にも介していないかのように。
(カイさん、調査の時に制御卓へ思いっきり触っていたわよね。手袋もせずに……)
ミュヨンは心の奥でカイにつっこみながらも、今はその時ではないと押しとどめた。
「……私も同じことを思いました」
ミュヨンが感情を交えずに続けてマイロへと質問する。
「どうして今回だけカイさんの行動を止めたのでしょうか?」
マイロは足元を見つめたまま、しばらく沈黙を保持していた。
その沈黙が結界実験室全体に広がる。
誰も口を開かず、マイロの次の言葉を待っていた。
「今回は状況が違います」
マイロは目線を結界発生器に向けながら口を開く。
「魔術管理部の現場検証は安全確認を済ませたうえで、行われているでしょう。しかし、監査官様が巻き込まれ、また魔力暴走がこの部屋で発生してしまいました。原因がわかっていない以上、万が一を考えれば止めるべきだと判断しました」
マイロが言葉を切ると、再び実験室に静寂が戻る。
「……でも、ヤニス副主任が亡くなった事故も原因が判明していないと思いますが」
助手のルーレンが浮かんだ疑問を素直に口にする。
「それに結界発生器に触った程度で魔力が暴走するなら研究員は実験なんて何も出来ないですよ」
「確かに結界発生器に触れるだけで魔力が発動することはまずありえないな。ルーレンくんはまだ助手だが」
「”研究助手”ですよ。結界発生器の起動を任されたこともありますし。あれ手順が面倒なんですよね」
「危険が伴う実験に安全確認はつきものだ。それを面倒だと言っているから研究者に昇格できないんだ」
「ボルトラさん辛辣。今、関係ないでしょ」
「二人とも話が逸れています。でも、おっしゃる通り、今日の事故の後も、魔術管理部の現場検証は行われた後ですね」
ルーレンに釣られるように、ボルトラとレミリアも続いて会話を交わしている。
ミュヨンは彼らを静かに見守った後、マイロへと視線を移す。
「マイロさん。研究者の方の目線でも”結界発生器に触れそうだったから”ではカイさんの行動を止めた理由にはならないようです」
ミュヨンは事実だけを積み重ねていく。
「改めて、お伺いします。どうして、マイロさんは今カイさんの行動を止めたのでしょうか?」
マイロは唇を引き結んでいた。
答えを探して逡巡しているようだった。
「彼が国家指定魔術師だからです」
「国家指定魔術師だから……ですか?」
後付けの理由だとわかっていたが、ミュヨンはマイロの考えを探るべく聞き返す。
「国家指定魔術師は常人とは比較にならないほど規格外の魔力を有しています。万が一、近づくことで結界発生器が反応してしまったらと、無意識に身体が動いてしまいました。事故原因が明らかになっていない以上、リスクは予め排除しておくべきかと……」
マイロが言葉を断つと、誰も口を開かなかった。
「――へえ。俺の魔力に反応するリスクか」
カイが謎めいた笑みを浮かべて、口を開く。
「俺って実験室の装置に近づくと魔力暴走を引き起こす可能性があるほど、危険人物らしいよ。監査官さん」
「危険人物なのは否定しませんが」
カイとミュヨンのやりとりにレミリアだけが下を向けて軽く吹き出した。
ルーレンは自分も笑っていいのか困惑しており、ボルトラは難しい表情をし続けている。
「カイさんは私と何度もこの実験室に一緒に入っています。私が今日ここで魔力暴走に遭遇したのは私が一人だった時です」
ミュヨンは穏やかにマイロの逃げ道を塞いでいく。
「事故原因が不明であること。カイさんが国家指定魔術師であること。それは事故当日から今日にいたるまで何も変わっていません」
「……」
「それでも、なお今回、カイさんの行動を止めた理由は何でしょうか?」
けれども、言葉に淀みはなかった。
「こちらの結界実験室は事故直後から魔術師団の魔術管理部が現場検証を行っています。結界発生器には何人も近づいていますし、注意を払って触れていることでしょう」
「そうですよね。僕も歩いているだけのように見えましたが……」
ルーレンがミュヨンに賛同するように言葉を続けた。
助手のルーレンは頭に浮かんだ疑問を率直に語ってくれているらしい。
「そ。俺、現場を見渡していただけだけど。そんなに必死に止めちゃって、どうかした?」
カイは美しく口許を歪めて、マイロをオッドアイに据える。
「俺って不必要に事故現場の機械装置に触れると思われるほど、信用ないんだ。傷ついた」
「いえ。そういうわけでは……」
絶対に傷ついてはいない飄々とした軽薄な口調でマイロを詰めるカイ。
この張り詰めた空気など意にも介していないかのように。
(カイさん、調査の時に制御卓へ思いっきり触っていたわよね。手袋もせずに……)
ミュヨンは心の奥でカイにつっこみながらも、今はその時ではないと押しとどめた。
「……私も同じことを思いました」
ミュヨンが感情を交えずに続けてマイロへと質問する。
「どうして今回だけカイさんの行動を止めたのでしょうか?」
マイロは足元を見つめたまま、しばらく沈黙を保持していた。
その沈黙が結界実験室全体に広がる。
誰も口を開かず、マイロの次の言葉を待っていた。
「今回は状況が違います」
マイロは目線を結界発生器に向けながら口を開く。
「魔術管理部の現場検証は安全確認を済ませたうえで、行われているでしょう。しかし、監査官様が巻き込まれ、また魔力暴走がこの部屋で発生してしまいました。原因がわかっていない以上、万が一を考えれば止めるべきだと判断しました」
マイロが言葉を切ると、再び実験室に静寂が戻る。
「……でも、ヤニス副主任が亡くなった事故も原因が判明していないと思いますが」
助手のルーレンが浮かんだ疑問を素直に口にする。
「それに結界発生器に触った程度で魔力が暴走するなら研究員は実験なんて何も出来ないですよ」
「確かに結界発生器に触れるだけで魔力が発動することはまずありえないな。ルーレンくんはまだ助手だが」
「”研究助手”ですよ。結界発生器の起動を任されたこともありますし。あれ手順が面倒なんですよね」
「危険が伴う実験に安全確認はつきものだ。それを面倒だと言っているから研究者に昇格できないんだ」
「ボルトラさん辛辣。今、関係ないでしょ」
「二人とも話が逸れています。でも、おっしゃる通り、今日の事故の後も、魔術管理部の現場検証は行われた後ですね」
ルーレンに釣られるように、ボルトラとレミリアも続いて会話を交わしている。
ミュヨンは彼らを静かに見守った後、マイロへと視線を移す。
「マイロさん。研究者の方の目線でも”結界発生器に触れそうだったから”ではカイさんの行動を止めた理由にはならないようです」
ミュヨンは事実だけを積み重ねていく。
「改めて、お伺いします。どうして、マイロさんは今カイさんの行動を止めたのでしょうか?」
マイロは唇を引き結んでいた。
答えを探して逡巡しているようだった。
「彼が国家指定魔術師だからです」
「国家指定魔術師だから……ですか?」
後付けの理由だとわかっていたが、ミュヨンはマイロの考えを探るべく聞き返す。
「国家指定魔術師は常人とは比較にならないほど規格外の魔力を有しています。万が一、近づくことで結界発生器が反応してしまったらと、無意識に身体が動いてしまいました。事故原因が明らかになっていない以上、リスクは予め排除しておくべきかと……」
マイロが言葉を断つと、誰も口を開かなかった。
「――へえ。俺の魔力に反応するリスクか」
カイが謎めいた笑みを浮かべて、口を開く。
「俺って実験室の装置に近づくと魔力暴走を引き起こす可能性があるほど、危険人物らしいよ。監査官さん」
「危険人物なのは否定しませんが」
カイとミュヨンのやりとりにレミリアだけが下を向けて軽く吹き出した。
ルーレンは自分も笑っていいのか困惑しており、ボルトラは難しい表情をし続けている。
「カイさんは私と何度もこの実験室に一緒に入っています。私が今日ここで魔力暴走に遭遇したのは私が一人だった時です」
ミュヨンは穏やかにマイロの逃げ道を塞いでいく。
「事故原因が不明であること。カイさんが国家指定魔術師であること。それは事故当日から今日にいたるまで何も変わっていません」
「……」
「それでも、なお今回、カイさんの行動を止めた理由は何でしょうか?」



