王国最強魔術師はお堅い監査官を放っておかないー研究棟で発生した結界密室ミステリーを暴けー

 カイはオッドアイでミュヨンを見つめたまま、不敵に口角をつり上げる。

「――完璧だったはずの容疑者の計画は崩された。優秀な監査官さんの手によって」
「それを言うなら、カイさんもだと思います」
「俺?」
「カイさんは最初からただの事故ではないと踏んでいました。空気中の微量の魔力残滓には気づけなかったと思います」

 ミュヨンだけでも、カイだけでも到達できなかった魔力暴走事故の真相に近づこうとしている。
 魔術監査局の監査官と国家指定魔術師。
 通常は交わらない二人の視点が重なったからこそ、完璧に思われたトリックは、今まさに白日の下に曝されようとしていた。

「――それは容疑者にとっては災難だったな」
「ええ。その災難だった人物にたどり着かなくてはいけません」

 ミュヨンとカイは目線を交差させて、示し合わせていないにも関わらず同時に頷いた。

「一つだけ、疑問点が残ります」
「何が?」
「どうして、容疑者はこの魔術を知り得たのでしょうか?」

 確認手順を利用して魔術式を仕込み、結界を破ることなく時間差で発動させる。
 そんな方法は、思いつくだけで実行できるものではない。
 
「禁術指定されている魔術の内容は国家管理で人目には触れません。監査局でも情報が厳重に保管されています。私も詳細までは今の権限で見られません」
「――確かに、研究者だとしても魔術理論だけでは到達しない」
「はい。そのうえに、この方法は高危険魔術に該当しますので、仕込むにしても危険すぎますよね」
「危険を冒してでも、副主任を消したかった――ってとこか」

 二人の間にしばらく沈黙が横たわった。

「……時間差で発動する魔術式を仕掛けたことが、何らかの方法で証明できればいいのですが」
「監査官さんって記録や資料を丁寧に読み込むよね」
「記録は嘘をつきません」
「監査官ってみんなそう?」
「他の方はわからないですが、証拠が揃わなければ、立証できません。子どもの頃、証拠が足りなかったせいで、不正が見逃されたのを目撃しました」
「トリックがわかっただけでは証拠にならない」
「……おっしゃる通りです」

 表情が曇って、長い睫毛を斜め下に伏せたミュヨンをカイは暫しの間、黙って見つめていた。

「監査官さん」
「はい」
 
 カイが声を発したのに反応してミュヨンは閉じかけていた瞼を上げた。
 口許に緩く弧を描くカイは、どこか悪戯を思いついた子どものようにも見えた。
 
(カイさんらしい余裕を滲ませる表情……)

 そのカイの飄々とした態度に隠された実力に裏づけられた自信。
 いつの間にか無意識のうちに心強くさせられる。

「――だったら、向こうから、名乗りでてもらおっか」