監査記録の閲覧申請を出した三日後に提出されている。
申請が承認されて、実際に書類を閲覧して、すぐに複写依頼を出した。
そう考えればスケジュールの辻褄は合う。
「依頼していたのは監査局の勧告記録ですね」
事故概要でも被害状況でもなく、ヤニスは勧告理由部分の複写依頼を出している。
「魔力増幅理論……今、取り組んでいる実験と第一次実証実験に重なる部分があって、何かをヤニス氏は気づいていた……」
「たぶん――」
カイは断定しない。
けれど、調査すればするほど、ヤニスの行動は実験を止めようと一貫している。
「問題は」
カイがレミリアから渡された書類の一枚を手に取る。
研究計画見直し要請書。
「副主任は誰に話していたのか……ですね?」
「そ。もしくは誰に話そうとしていたのか」
”共同確認者”に入るはずだった名前。
未提出のままになった要請書。
その相手がわかれば、真相に一歩近づける。
「同じ研究室の誰かでしょうか?」
「――可能性は高い」
ミュヨンが投げた質問にカイは頷く。
「では、同じチームの研究員である、あの3名に再聴取する必要があります」
「調査って地道な積み重ねの反復――って本当なんだね」
「ええ。反復して証拠を揃えた先にこそ真実が見つかると思っています。国家指定魔術師の性分には合いませんか?」
「――本来はね」
隣同士でカイのオッドアイと視線が絡む。
蒼と金の美しいカイと目が合うと、誘われるように自然と魅入ってしまった。
「楽しいよ」
「楽しい?」
「うん。監査官さんと一緒だからかな」
数秒、カイのセリフを咀嚼するように考えを巡らせていたミュヨン。
クエスチョンマークを頭上に掲げているようなミュヨンの顔を眺めて、カイの唇が愉悦を語るように弧を描く。
「じゃあ、監査官さん。一緒に靴底をすり減らしに行こうか?」
先に椅子から立ち上がったカイは退室すべく扉に向かって歩き出す。
「待ってください」
ミュヨンは机上の書類を素早くまとめて、バッグへとしまうと急ぎ足でカイの背中を追いかけた。
管理区画の廊下を歩むカイの隣へと並ぶ。
「あの、昨日も言いましたけど、調査に楽しいって単語は不謹慎だと思います」
「やっぱり監査官さんって真面目」
「それ、もう今日は言わないって、さっき言いました」
「そうだっけ?」
「そうです」
「ごめん。気をつける」
少しも悪びれていそうもないカイの様子にミュヨンは内心で溜め息をつく。
(私もカイさんと一緒に調査できていて心強いのは本当だわ……。親密とは呼べないかもしれないけど)
2階の研究室は扉が開いていた。
レミリアの姿は見えず、マイロが自席で資料を整理している。
「失礼します」
ミュヨンが挨拶をして入室すると、マイロが顔を上げた。
丸めがねの奥の目がミュヨンとカイに向けられる。
「ああ。監査局の……」
「お忙しいところ申し訳ありません。また少しお話を聞かせていただきたくて」
「構いませんよ」
昨日の聴取でマイロだけがヤニスに対する見解が違っていた。
どこかヤニスのやり方に不満を持っている様子だったボルトラとレミリアに対してマイロはヤニスを非難したりはしなかった。
年齢を一番重ねているからなのだろうか。
調査に先入観は禁物だが、研究員3名の中では一番有力であるとミュヨンは感じていた。
ミュヨンはマイロの机上へと研究計画見直し要請書の用紙を置いた。
「こちらはご存じでいらっしゃいますか?」
マイロは書類に視線を落として、細い双眸を限界まで見開いていた。
「マイロさんは知っていましたか?」
「いえ。最近のヤニス……ヤニス副主任なら書きそうだと思っていました」
「この部分が空欄なのですが……」
ミュヨンは共同確認者の部分を指さす。
「残念ながら、私ではありません」
「ではヤニス氏だったら誰に相談しようとしていたと思いますか?」
マイロはシンキングタイムに入ったのか沈黙を守る。
「……わかりません」
やがて落ち着いた声でそう告げた。
「ただ研究においては議論するのが好きなタイプでした」
「議論……」
「割と白熱することもありました。相手を論破するのが好きなタイプでしたので。最終判断は自分でくだしていたかと」
昨日ボルトラが魔術式をラボメンバーで議論しながらまとめるとは言っていた。
最後にヤニスが必ず直すとも。
「副主任と最後に話したのは?」
今度はカイがマイロへと聞く。
マイロは記憶を辿っているようだ。
しっかり考えて、適当に言葉を発することのない慎重なタイプの研究員のようだ。
「事故が起きた前日……だったと思います」
「どんな話をされたのですか?」
「研究のことで、変な質問をされたので記憶に残っていました」
「変……?」
「――もし研究の前提そのものが間違っていたらどうする……と」
申請が承認されて、実際に書類を閲覧して、すぐに複写依頼を出した。
そう考えればスケジュールの辻褄は合う。
「依頼していたのは監査局の勧告記録ですね」
事故概要でも被害状況でもなく、ヤニスは勧告理由部分の複写依頼を出している。
「魔力増幅理論……今、取り組んでいる実験と第一次実証実験に重なる部分があって、何かをヤニス氏は気づいていた……」
「たぶん――」
カイは断定しない。
けれど、調査すればするほど、ヤニスの行動は実験を止めようと一貫している。
「問題は」
カイがレミリアから渡された書類の一枚を手に取る。
研究計画見直し要請書。
「副主任は誰に話していたのか……ですね?」
「そ。もしくは誰に話そうとしていたのか」
”共同確認者”に入るはずだった名前。
未提出のままになった要請書。
その相手がわかれば、真相に一歩近づける。
「同じ研究室の誰かでしょうか?」
「――可能性は高い」
ミュヨンが投げた質問にカイは頷く。
「では、同じチームの研究員である、あの3名に再聴取する必要があります」
「調査って地道な積み重ねの反復――って本当なんだね」
「ええ。反復して証拠を揃えた先にこそ真実が見つかると思っています。国家指定魔術師の性分には合いませんか?」
「――本来はね」
隣同士でカイのオッドアイと視線が絡む。
蒼と金の美しいカイと目が合うと、誘われるように自然と魅入ってしまった。
「楽しいよ」
「楽しい?」
「うん。監査官さんと一緒だからかな」
数秒、カイのセリフを咀嚼するように考えを巡らせていたミュヨン。
クエスチョンマークを頭上に掲げているようなミュヨンの顔を眺めて、カイの唇が愉悦を語るように弧を描く。
「じゃあ、監査官さん。一緒に靴底をすり減らしに行こうか?」
先に椅子から立ち上がったカイは退室すべく扉に向かって歩き出す。
「待ってください」
ミュヨンは机上の書類を素早くまとめて、バッグへとしまうと急ぎ足でカイの背中を追いかけた。
管理区画の廊下を歩むカイの隣へと並ぶ。
「あの、昨日も言いましたけど、調査に楽しいって単語は不謹慎だと思います」
「やっぱり監査官さんって真面目」
「それ、もう今日は言わないって、さっき言いました」
「そうだっけ?」
「そうです」
「ごめん。気をつける」
少しも悪びれていそうもないカイの様子にミュヨンは内心で溜め息をつく。
(私もカイさんと一緒に調査できていて心強いのは本当だわ……。親密とは呼べないかもしれないけど)
2階の研究室は扉が開いていた。
レミリアの姿は見えず、マイロが自席で資料を整理している。
「失礼します」
ミュヨンが挨拶をして入室すると、マイロが顔を上げた。
丸めがねの奥の目がミュヨンとカイに向けられる。
「ああ。監査局の……」
「お忙しいところ申し訳ありません。また少しお話を聞かせていただきたくて」
「構いませんよ」
昨日の聴取でマイロだけがヤニスに対する見解が違っていた。
どこかヤニスのやり方に不満を持っている様子だったボルトラとレミリアに対してマイロはヤニスを非難したりはしなかった。
年齢を一番重ねているからなのだろうか。
調査に先入観は禁物だが、研究員3名の中では一番有力であるとミュヨンは感じていた。
ミュヨンはマイロの机上へと研究計画見直し要請書の用紙を置いた。
「こちらはご存じでいらっしゃいますか?」
マイロは書類に視線を落として、細い双眸を限界まで見開いていた。
「マイロさんは知っていましたか?」
「いえ。最近のヤニス……ヤニス副主任なら書きそうだと思っていました」
「この部分が空欄なのですが……」
ミュヨンは共同確認者の部分を指さす。
「残念ながら、私ではありません」
「ではヤニス氏だったら誰に相談しようとしていたと思いますか?」
マイロはシンキングタイムに入ったのか沈黙を守る。
「……わかりません」
やがて落ち着いた声でそう告げた。
「ただ研究においては議論するのが好きなタイプでした」
「議論……」
「割と白熱することもありました。相手を論破するのが好きなタイプでしたので。最終判断は自分でくだしていたかと」
昨日ボルトラが魔術式をラボメンバーで議論しながらまとめるとは言っていた。
最後にヤニスが必ず直すとも。
「副主任と最後に話したのは?」
今度はカイがマイロへと聞く。
マイロは記憶を辿っているようだ。
しっかり考えて、適当に言葉を発することのない慎重なタイプの研究員のようだ。
「事故が起きた前日……だったと思います」
「どんな話をされたのですか?」
「研究のことで、変な質問をされたので記憶に残っていました」
「変……?」
「――もし研究の前提そのものが間違っていたらどうする……と」



