***
レミリアは3階の管理区画の一角にある記録保管室へミュヨンとカイを案内した。
二重認証が必須な高度セキュリティエリアだからか、事件があったのと同じ区画だからか緊迫感が自然と高まる。
記録保管室の両側にはぎっしりと棚に紙媒体の資料ファイルが保管されていた。
中央には作業台があり、部屋の奥にはノートパソコン端末が複数台置かれ、レミリアがその前に座って操作をしていく。
「先に念のため結界実験室の結界解除ログから見せていただけると助かります」
「かしこまりました」
ミュヨンの指示に従い、レミリアが両指を弾いていく。
電子文字が正面の大型モニターに表示された。
「解除時刻は19:23」
ミュヨンが文字を読み上げる。
ルーレンが外部観測装置で異常を確認したのが19:15頃。
2階の研究室にレミリアとボルトラを呼びに行って、このフロアに戻ってきて管理権限で結界を解除となると、時間的に辻褄はあっている。
――少なくとも記録上は。
ミュヨンは考え込みながら頬へ片手を添える。
「――3階の管理区画への入退室ログ出して」
カイがレミリアに指示を出す。
レミリアがキーボードを弾くと、大型モニターぎっしりに数字と文字が並ぶ。
「ここ1ヶ月のものになります」
今日登録されたばかりのミュヨンの名前も表示されている。
ルーレン、レミリア、ボルトラ、マイロ、ヤニス……
事件だけで馴染みになった名前が何度も表示されている。
「……え……団長……」
ミュヨンは思わず声に出ていた。
――ヴァレリウス・グレイストン
王立魔術師団のトップの名前が想定よりも多く記録されている。
「どう見ても多いよね」
カイは口許で笑いながらも、目つきは鋭く画面を見据えていた。
団長の名前が何度も表示されている。
一度や二度ではない。
監査や視察――そう呼ぶには通常と呼べない回数だった。
研究員たちも団長の訪問が多かったことは証言している。
管理区画はセキュリティの高さゆえ、研究員ですら頻繁に出入りする場所ではない。
ましてや団長ともなれば、通常は報告を受ける立場だ。
自ら足を運ぶ必要性が薄い。
「この記録が間違っているということはないでしょうか?」
念のためにミュヨンはレミリアに尋ねる。
レミリアは静かに首を横に振った。
「ありません。監査官様もご存じのように、指紋認証と魔力紋認証を用いた二重記録です」
「記録を改ざん出来たりはしますか?」
「不可能ではありませんが、限りなく0に近いです。アクセスできる人間も限られますし、それこそ天才的なハッカーでもない限りは……」
レミリアの回答に頷く。
少なくとも現段階では本物と考えるべきだ。
カイは表示された記録を眺めている。
「レミリアさん。部屋別の利用記録は出せますか?」
「もちろんです」
ミュヨンの指示でレミリアが端末を操作すると、モニターの表示が変わる。
団長が過去一か月に渡って管理区画のどこに出入りしていたのかが示された。
この場所である記録保管室。
管制室。
結界実験室。
様々な場所に出入りしている。
「――副主任も出して」
カイがレミリアに伝えると、すぐにヤニスの利用履歴も表示される。
記録保管室へ頻繁に入室していた。
「ヤニス氏は何らかの調べ物をしていたと考えて間違いなさそうですね」
「だろうね」
「何を調べていたんでしょうか?」
「どうかな」
カイは明言を避ける。
ミュヨンは研究室のホワイトボードを思い出していた。
書き直された式。
消された計算。
追記された数式。
あの動きもヤニスが何かを調べ確かめようとしていた動きに見える。
ミュヨンがふとカイを見ると、ある一点で視線が留まっていた。
「何か気になりますか?」
「うん」
また、はぐらかされるかと思えば、カイはあっさり認めた。
事件前日の団長の入退室記録。
記録保管室に行ってから、結界実験室。
利用時間は2時間を超えていた。
研究者でもない団長自身がなぜ結界実験室に長時間滞在していたのか疑問が募る。
「団長は結界実験室で何をしていたのでしょうか?」
「どうだろう」
口調は軽くても、カイのオッドアイが鋭く光ったように見えた。
「閲覧資料の記録は残っていますか?」
ミュヨンが尋ねるとレミリアは頷いた。
「残っています。危険研究や禁術級理論も保管されていますから、管理区画内の資料は全て識別紋が付与されていて端末に自動記録されます」
管理区画らしい厳重な運用だった。
入退室だけではなく、資料の閲覧そのものも管理されている。
「まずヤニス氏の記録を出していただけますか?」
「はい」
レミリアが滑らかに端末を操作しモニターに新たな一覧が表示される。
研究資料。
実験報告書。
理論検証記録。
どれも魔力増幅理論に関するものばかりであった。
ふとミュヨンは一点で視点を縫いとめられた。
「第一次実証実験報告書……?」
レミリアは3階の管理区画の一角にある記録保管室へミュヨンとカイを案内した。
二重認証が必須な高度セキュリティエリアだからか、事件があったのと同じ区画だからか緊迫感が自然と高まる。
記録保管室の両側にはぎっしりと棚に紙媒体の資料ファイルが保管されていた。
中央には作業台があり、部屋の奥にはノートパソコン端末が複数台置かれ、レミリアがその前に座って操作をしていく。
「先に念のため結界実験室の結界解除ログから見せていただけると助かります」
「かしこまりました」
ミュヨンの指示に従い、レミリアが両指を弾いていく。
電子文字が正面の大型モニターに表示された。
「解除時刻は19:23」
ミュヨンが文字を読み上げる。
ルーレンが外部観測装置で異常を確認したのが19:15頃。
2階の研究室にレミリアとボルトラを呼びに行って、このフロアに戻ってきて管理権限で結界を解除となると、時間的に辻褄はあっている。
――少なくとも記録上は。
ミュヨンは考え込みながら頬へ片手を添える。
「――3階の管理区画への入退室ログ出して」
カイがレミリアに指示を出す。
レミリアがキーボードを弾くと、大型モニターぎっしりに数字と文字が並ぶ。
「ここ1ヶ月のものになります」
今日登録されたばかりのミュヨンの名前も表示されている。
ルーレン、レミリア、ボルトラ、マイロ、ヤニス……
事件だけで馴染みになった名前が何度も表示されている。
「……え……団長……」
ミュヨンは思わず声に出ていた。
――ヴァレリウス・グレイストン
王立魔術師団のトップの名前が想定よりも多く記録されている。
「どう見ても多いよね」
カイは口許で笑いながらも、目つきは鋭く画面を見据えていた。
団長の名前が何度も表示されている。
一度や二度ではない。
監査や視察――そう呼ぶには通常と呼べない回数だった。
研究員たちも団長の訪問が多かったことは証言している。
管理区画はセキュリティの高さゆえ、研究員ですら頻繁に出入りする場所ではない。
ましてや団長ともなれば、通常は報告を受ける立場だ。
自ら足を運ぶ必要性が薄い。
「この記録が間違っているということはないでしょうか?」
念のためにミュヨンはレミリアに尋ねる。
レミリアは静かに首を横に振った。
「ありません。監査官様もご存じのように、指紋認証と魔力紋認証を用いた二重記録です」
「記録を改ざん出来たりはしますか?」
「不可能ではありませんが、限りなく0に近いです。アクセスできる人間も限られますし、それこそ天才的なハッカーでもない限りは……」
レミリアの回答に頷く。
少なくとも現段階では本物と考えるべきだ。
カイは表示された記録を眺めている。
「レミリアさん。部屋別の利用記録は出せますか?」
「もちろんです」
ミュヨンの指示でレミリアが端末を操作すると、モニターの表示が変わる。
団長が過去一か月に渡って管理区画のどこに出入りしていたのかが示された。
この場所である記録保管室。
管制室。
結界実験室。
様々な場所に出入りしている。
「――副主任も出して」
カイがレミリアに伝えると、すぐにヤニスの利用履歴も表示される。
記録保管室へ頻繁に入室していた。
「ヤニス氏は何らかの調べ物をしていたと考えて間違いなさそうですね」
「だろうね」
「何を調べていたんでしょうか?」
「どうかな」
カイは明言を避ける。
ミュヨンは研究室のホワイトボードを思い出していた。
書き直された式。
消された計算。
追記された数式。
あの動きもヤニスが何かを調べ確かめようとしていた動きに見える。
ミュヨンがふとカイを見ると、ある一点で視線が留まっていた。
「何か気になりますか?」
「うん」
また、はぐらかされるかと思えば、カイはあっさり認めた。
事件前日の団長の入退室記録。
記録保管室に行ってから、結界実験室。
利用時間は2時間を超えていた。
研究者でもない団長自身がなぜ結界実験室に長時間滞在していたのか疑問が募る。
「団長は結界実験室で何をしていたのでしょうか?」
「どうだろう」
口調は軽くても、カイのオッドアイが鋭く光ったように見えた。
「閲覧資料の記録は残っていますか?」
ミュヨンが尋ねるとレミリアは頷いた。
「残っています。危険研究や禁術級理論も保管されていますから、管理区画内の資料は全て識別紋が付与されていて端末に自動記録されます」
管理区画らしい厳重な運用だった。
入退室だけではなく、資料の閲覧そのものも管理されている。
「まずヤニス氏の記録を出していただけますか?」
「はい」
レミリアが滑らかに端末を操作しモニターに新たな一覧が表示される。
研究資料。
実験報告書。
理論検証記録。
どれも魔力増幅理論に関するものばかりであった。
ふとミュヨンは一点で視点を縫いとめられた。
「第一次実証実験報告書……?」



