8年後の告白

慶はスマホの手に取ったまま、しばらく画面を見つめていた。返信が来た瞬間から、何度も読め返していたそのメッセージ。

<<メッセージ、ありがとう。驚いたけど、少しうれしかったです>>

その言葉に、やっと一歩踏み出せた気がした。

 〔驚いたけど〕 という部分に彼女らしさが出ていると慶は少し微笑んだ。
八年ぶりの連絡。それを受け入れてくれたことが、すでに大きな一歩だ。

だがこれで終わりじゃない。
奏が本当に自分に心を開いてくれるかどうか、まだわからない。 

慶は深呼吸し、返信を打つことにした。

「よかった、驚かせてごめん。でも、うれしい。こんな形でも連絡取れて」

返信を送ると、胸の鼓動が少しだけ早くなる。
これが、再会への第一歩。

そのあと、少し考えてからメッセージを追加した。

「もしよかったら、今度会わない?8年ぶりに顔を見たくなって。」

送信ボタンを押した瞬間、再会のイメージがふと頭に浮かんだ。どこで会うか、何を話すか。そう考えたら、ちょっと胸が高鳴った。

数日後、返事が来た。何度も目をこすりながら、慶はその画面を見つめる。

<<会いたいと思っていた。慶くんもそう思ってくれてるなら、私も会いたい。>>

ほんの数行の言葉。それだけで、慶の心は一気に温かくなった。 

「よかった・・」
無意識に声が漏れた。だが、それだけでは足りなった。慶は少し悩んでから、再度メッセージを打った。

「ありがとう。じゃあ、今度の日曜日の午後に会わない?場所はお任せする。」

返信してから、しばらくスマホを握ったまま動けなかった。すべてが少し大きすぎて、心が高ぶった。

数日後、再会の日がやってきた。

慶は約束どおり、カフェの前で待ち合わせることにした。静かな春の午後、心の中では8年前のことが、まるで昨日のことのように浮かんできた。奏が現れるのは、少し遅れるかもしれない。そのことをわかっていても、慶は立ち上がることなく、ただじっと待っていた。

そのとき、彼女が歩いてきた。

彼女の姿を見た瞬間、慶の胸の中で何かが弾けた。
奏は、変わらず美しい顔立ちをしていたがどこが大人びていて8年という月日が彼女をどれだけ成長させたのが、すぐにわかった。
慶は、少しだけ息を呑んだ。
そして、奏が彼を見つけた瞬間。その目がゆっくりと慶に向かってきた。

「こんにちは、慶くん」
「久しぶり。こんな形で会えるとは思わなかったよ。」
会話は少しぎこちない。それでも、どこか懐かしさと安心感が混じった空気が漂っていた。

「私も、、こんな風に再会できるなんて、驚きました。でもうれしいです。」
奏が微笑むと、その笑顔がまるで昔のように、慶の心にずっと染みこんだ。

再会の瞬間が、ゆっくりと流れていった。

彼らの間には、八年という月日がある。でも、どこかでつながっていたことを感じることが出来た。

慶は静かに言った。
「こうして再会できたこと、心からうれしく思う。今までずっと思っていたんだ。」

「私も」

その言葉が、お互いにとっての小さな始まりであり、これからの未来への一歩になる予感がした。

カフェでの再会が進んでいく中、少し沈黙が流れた。慶が一歩踏み込んで言葉を続けた。

「でも、八年って長いよな。お互い、いろんなことがあったんだろうね」

奏は少しだけ視線を落としてから、ゆっくりと答えた。
「ええ、いろんなことがあったけど、、、今は、なんとか大丈夫よ」

慶が少しだけ驚いた表情を浮かべると、奏はそのことを気にした様子もなく続けた。

「実は、ここ八年ほど、心の調子が不安定で、、自分でも、たまにどうすればいいのか分からなくなることもあったの。」

慶は黙って開いていた。
その言葉に何も答えることが出来ず、ただ、心の中で何かが締め付けられるような気がした。

「だから、あの時、告白の返事が出来なかったのも、私がうまく自分をコントロールできてなかったから」
君に何かを伝えたかったけど、どんな言葉をかけていいのか分からなかった。

ここで奏が言葉を切る。少し言いにくそうに、彼女の目が一瞬遠くを見つめた。

慶は静かに、けれど温かく言った。
「でも、今は大丈夫なの?」 

奏は小さく息を吐き、そして少しだけ笑顔を見せた。
「今は、少しずつだけど、良くなってきてるの。こうして再会できたことも、すごく大きな一歩だと思ってる」

慶はその言葉を深くかみ締めた。
どこかで奏の強さに胸を打たれながら、同時に彼女が抱えてきた苦しみや孤独を感じていた。

「よかった・・本当によかった」
慶は素直にそういった。
奏が自分の弱さやつらさを打ち明けてくれたこと、それがどれだけ大きな意味を持つのか、今、彼はしっかりと感じていた。

この小さなやり取りが、二人の距離を少しだけ縮める。
そして、慶の心の中には、八年間の空白が、少しずつ埋まっていく間隔が広がった。

奏は