8年後の告白

あの日から、三日が経った。

再会の瞬間は、何かの幻だったようにも思えるけれど、頭の片隅から、彼の顔も、声も、うまく消えてくれなかった。

「・・・また」

あの最後の言葉が、何度も脳内でリピートされる。

〔また〕 って何?

〔また〕 なんて、あるの?

それとも、ただのあいさつだった?

ーーわからない。

朝、目が覚めて、しばらく天井を見つめていた。スマホのアラームは止めたまま、通知もほとんどない。
 
何も変わらない 
でも、何かが変わった気がする。そう感じてしまうこと自体が、少ししんどい。 

午前中は通院
受付で番号札を受け取って、名前を呼ばれるまで待つ。まるでルーティーンのように、流れていく時間。 

「変わりありませんか?」
主治医にそう聞かれて、奏は少し迷った。

「・・ちょっとだけ、変な夢を見ました。」
「変な夢?」
「・・過去にあった人が、目の前に現れて、でも何もっ話せなかった夢です。」

うそではなかった。
夢じゃなく現実だったけれど、うまく言葉に出来なかった。

診察が終わり、薬局で処方箋を出して、帰りにまた川沿いを歩く。

土手の桜は、もうだいぶ散ってしまっていた。地面には薄紅のじゅうたんができていて、風が吹くといっせいに舞い上がる。。

あの日、ここで彼とすれ違った。
何を話したか、正直ほとんど覚えていない。でも、自分の中の何かが、、あの瞬間から少しずつ騒がしくなった。

帰宅後、玄関のドアを閉めて鍵をかけると、空気がまたとまる。 
静かだ、静か過ぎる。

机の引き出しの奥にある便箋の束。八年前と同じレターセット。もう使うことはないと思っていた。
あのとき書いた手紙のことを思い出すたびに胸がぎゅっとなる。

返事が来なかった、じゃない。
届かなかったのかもしれない。
そんな風に、ふと考える。

でも、真相なんて、聞く勇気はまだない。

ソファに座り込んで、毛布をかぶる。部屋は明るいのに、心は静かなままだ。

そして、また、あの声が脳裏に浮かぶ。 

「奏?」
それだけで、胸が痛むのだから。
私はきっとまだ、終わっていない。