「やっほー! アサヒナくん!」
「……どうも」
約束通り11時にコバタ前に向かうと、ダッフルコートを着た昨日の店員の男の子がいた。
気安く手を振り、隣に立って驚く。
俺の身長は175センチの伸び盛りだが、アサヒナくんは小さい。
頭一個分は言い過ぎだが、頭半個分くらいは目線が下にある。
こんな子が22時を過ぎた夜の街を歩いてるの? 現代社会は危険だぞ???
ぺこりと頭を下げたアサヒナくんは、少しばかり複雑そうな顔で、ファミレスの外扉の取手を掴む。
「寒いですし、入りませんか?」
「そうだな」
店内はランチ前のためか、人は少なかった。
入店音に促された店員の女の子が挨拶し、アサヒナくんを見て一瞬驚いたあと、にまりと表情を崩す。
……アサヒナくんはここでバイトしてるから、彼女はバイト仲間なのだろう。
何やら耳打ちされたアサヒナくんは不服そうで、店員さんは飛び切りの笑顔をこちらへ向けた。
「お席へご案内いたします!」
「隅の席にしてください」
「えぇ〜? 見えないじゃん」
「仕事中ですよ」
「はぁい」
ちぇー、と唇を尖らせる女の子の様子から、バイト仲間の関係は良好なのだと窺える。
店員さんを無視して、空いている隅の席へ向かうアサヒナくんに、店員さんはペロッと舌を出した。
テーブルについた俺たちへ水とメニューを置いて、にこにこ笑顔で腰を折る。
「ごゆっくりどうぞ!」
「もうっ、バックヤードで勝手なこと言わないでくださいよ!」
「事実しかいいませ〜ん」
小声でたしなめるアサヒナくんへ澄ました彼女は、最後にこちらへウインクして、颯爽とホールへ戻って行った。
嵐のような一連の様子に、アサヒナくんは両手で顔を覆って項垂れている。
「アットホームな職場じゃん」
「からかってるだけですよ……ううっ、だからシフト外で来たくなかったんだ……」
「えっとー、ごめん?」
「いいえ。すべて身から出た錆なので」
顔を上げたアサヒナくんはコートを脱ぎ、水を飲んだ。まだほっぺが赤い。
俺もコートを脱いで、そういえば未だに名乗っていなかったことを思い出した。
「改めて、俺は佑月 静。大鳥高校2年の佑月な。アサヒナくんは?」
「……朝日奈です」
「そんだけ!?」
電話口でも聞いた自己紹介しかしてもらえず、もっと他にあるだろうと身を乗り出す。
心持ちソファの背もたれへ身を寄せたアサヒナくんは、どこか気難しそうな顔で視線を落とした。
「要件さえ終われば、無関係になるので」
「え、なんで? 俺これからアサヒナくんと、めちゃくちゃ遊ぶつもりだけど」
「ええ……?」
信じられない生物を目の当たりにしたと言わんばかりの目で、アサヒナくんがこちらを見上げる。
俺としては、電話番号を交換して、土曜日にこうして遊んでいるのだから、しっかりバッチリ友達のはずなのだが。
まあいい! まずはお昼ごはんだ!
「ほら、アサヒナくんどれにする?」
「これが陽キャ……」
「そうだ、今日はお兄さんがドリンクバーを奢ってあげよう!」
「いりません」
「もう頼んじゃった」
「……先輩って、マイペースですね」
俺が開いたメニューへ向けていた目を、じとりとこちらへ向けられる。
それより『先輩』という響きに、俺の口元はにやにやとデレそうだ。
「……先輩って響き、やっぱいいよな」
「先輩って、相変わらずそういう感じなんですね」
呆れたような半眼を瞬かせ、アサヒナくんは肩を落としている。
——うん? 『相変わらず』そういう感じ?
俺とアサヒナくんは、今日はじめましてをした関係のはずだが?
「もしかしてアサヒナくん、俺のこと前から知ってた?」
微かな違和を見つけた名探偵の心地で、キュピリと発言を指摘する。
薄茶の瞳を僅かに伏せた彼は、次の瞬間にはこれまで通りの無表情へ戻っていた。
「当然じゃないですか。南西奥のボックス席。いつも4人で来店してるじゃないですか」
「ハイ。その通りデス」
鋭い反論にぐうの音も出ず、胸を押さえてさする。
店員さんに顔を覚えられるのって、ちょっと恥ずかしいな……
しかし狼狽える俺に構わず、アサヒナくんの追撃は止まらない。
「ぼくだけでなく、夕方シフトの皆さんは先輩たちのことをご存じですよ」
「俺らそんなに有名人なの!?」
「いつも面白おかしく楽しそうだね、と春風さんも証言してます」
「誰、春風さん!?」
「ここまで案内してくれた女の子です」
「すごく可愛い名前だね! ありがとう!!」
実名まで出された証言に、光速で普段の行いを振り返って悔い改める。
そこまでおかしなことは、してないはず……!!
チラリと正面を窺うと、スマホから注文を終えたアサヒナくんは、悠々と水を飲んでいた。
「アサヒナくん、なに頼んだの?」
「パンです」
「なんで!?」
「用意も楽で、洗うのも楽。おまけに安いので」
「バイト目線……!!」
しれっとしたアサヒナくんこそ、マイペースじゃないかな……?
本当に用意が楽だったのだろう。
平皿にふたつのロールパンを載せた先ほどの女の子、春風さんがにこにこ笑顔でテーブルへ運んでくれた。
「お待たせしました、ロールパンです!」
「……なにも話してませんよね?」
「えへへ! それより朝日奈くん、また節約?」
「仕事中ですよ」
「はぁい」
こそこそとアサヒナくんと話した春風さんは、にこりと微笑んで「ドリンクバーには、スープもございまぁす」と間延びした声でお辞儀した。
席を立ったアサヒナくんを、目で追いかける。
「先輩、飲みものなにがいいです? ついでに取ってきますよ」
「俺も行く!」
「……先輩って、いつもドリンクいろいろ混ぜてますよね」
「ご存じだった……!!!!」
涼しいアサヒナくんの目に晒され、過去のはしゃいだ蛮行を白日の下に公開された処刑人の心地に陥る。
ドリンクバーで、一心不乱にぶどうジュースを注ぐ俺を、「今日はオレンジぶどうコーラ割りしないんですか?」と淡々と尋ねられ、今後の行いを改めようと心に誓った。
「……どうも」
約束通り11時にコバタ前に向かうと、ダッフルコートを着た昨日の店員の男の子がいた。
気安く手を振り、隣に立って驚く。
俺の身長は175センチの伸び盛りだが、アサヒナくんは小さい。
頭一個分は言い過ぎだが、頭半個分くらいは目線が下にある。
こんな子が22時を過ぎた夜の街を歩いてるの? 現代社会は危険だぞ???
ぺこりと頭を下げたアサヒナくんは、少しばかり複雑そうな顔で、ファミレスの外扉の取手を掴む。
「寒いですし、入りませんか?」
「そうだな」
店内はランチ前のためか、人は少なかった。
入店音に促された店員の女の子が挨拶し、アサヒナくんを見て一瞬驚いたあと、にまりと表情を崩す。
……アサヒナくんはここでバイトしてるから、彼女はバイト仲間なのだろう。
何やら耳打ちされたアサヒナくんは不服そうで、店員さんは飛び切りの笑顔をこちらへ向けた。
「お席へご案内いたします!」
「隅の席にしてください」
「えぇ〜? 見えないじゃん」
「仕事中ですよ」
「はぁい」
ちぇー、と唇を尖らせる女の子の様子から、バイト仲間の関係は良好なのだと窺える。
店員さんを無視して、空いている隅の席へ向かうアサヒナくんに、店員さんはペロッと舌を出した。
テーブルについた俺たちへ水とメニューを置いて、にこにこ笑顔で腰を折る。
「ごゆっくりどうぞ!」
「もうっ、バックヤードで勝手なこと言わないでくださいよ!」
「事実しかいいませ〜ん」
小声でたしなめるアサヒナくんへ澄ました彼女は、最後にこちらへウインクして、颯爽とホールへ戻って行った。
嵐のような一連の様子に、アサヒナくんは両手で顔を覆って項垂れている。
「アットホームな職場じゃん」
「からかってるだけですよ……ううっ、だからシフト外で来たくなかったんだ……」
「えっとー、ごめん?」
「いいえ。すべて身から出た錆なので」
顔を上げたアサヒナくんはコートを脱ぎ、水を飲んだ。まだほっぺが赤い。
俺もコートを脱いで、そういえば未だに名乗っていなかったことを思い出した。
「改めて、俺は佑月 静。大鳥高校2年の佑月な。アサヒナくんは?」
「……朝日奈です」
「そんだけ!?」
電話口でも聞いた自己紹介しかしてもらえず、もっと他にあるだろうと身を乗り出す。
心持ちソファの背もたれへ身を寄せたアサヒナくんは、どこか気難しそうな顔で視線を落とした。
「要件さえ終われば、無関係になるので」
「え、なんで? 俺これからアサヒナくんと、めちゃくちゃ遊ぶつもりだけど」
「ええ……?」
信じられない生物を目の当たりにしたと言わんばかりの目で、アサヒナくんがこちらを見上げる。
俺としては、電話番号を交換して、土曜日にこうして遊んでいるのだから、しっかりバッチリ友達のはずなのだが。
まあいい! まずはお昼ごはんだ!
「ほら、アサヒナくんどれにする?」
「これが陽キャ……」
「そうだ、今日はお兄さんがドリンクバーを奢ってあげよう!」
「いりません」
「もう頼んじゃった」
「……先輩って、マイペースですね」
俺が開いたメニューへ向けていた目を、じとりとこちらへ向けられる。
それより『先輩』という響きに、俺の口元はにやにやとデレそうだ。
「……先輩って響き、やっぱいいよな」
「先輩って、相変わらずそういう感じなんですね」
呆れたような半眼を瞬かせ、アサヒナくんは肩を落としている。
——うん? 『相変わらず』そういう感じ?
俺とアサヒナくんは、今日はじめましてをした関係のはずだが?
「もしかしてアサヒナくん、俺のこと前から知ってた?」
微かな違和を見つけた名探偵の心地で、キュピリと発言を指摘する。
薄茶の瞳を僅かに伏せた彼は、次の瞬間にはこれまで通りの無表情へ戻っていた。
「当然じゃないですか。南西奥のボックス席。いつも4人で来店してるじゃないですか」
「ハイ。その通りデス」
鋭い反論にぐうの音も出ず、胸を押さえてさする。
店員さんに顔を覚えられるのって、ちょっと恥ずかしいな……
しかし狼狽える俺に構わず、アサヒナくんの追撃は止まらない。
「ぼくだけでなく、夕方シフトの皆さんは先輩たちのことをご存じですよ」
「俺らそんなに有名人なの!?」
「いつも面白おかしく楽しそうだね、と春風さんも証言してます」
「誰、春風さん!?」
「ここまで案内してくれた女の子です」
「すごく可愛い名前だね! ありがとう!!」
実名まで出された証言に、光速で普段の行いを振り返って悔い改める。
そこまでおかしなことは、してないはず……!!
チラリと正面を窺うと、スマホから注文を終えたアサヒナくんは、悠々と水を飲んでいた。
「アサヒナくん、なに頼んだの?」
「パンです」
「なんで!?」
「用意も楽で、洗うのも楽。おまけに安いので」
「バイト目線……!!」
しれっとしたアサヒナくんこそ、マイペースじゃないかな……?
本当に用意が楽だったのだろう。
平皿にふたつのロールパンを載せた先ほどの女の子、春風さんがにこにこ笑顔でテーブルへ運んでくれた。
「お待たせしました、ロールパンです!」
「……なにも話してませんよね?」
「えへへ! それより朝日奈くん、また節約?」
「仕事中ですよ」
「はぁい」
こそこそとアサヒナくんと話した春風さんは、にこりと微笑んで「ドリンクバーには、スープもございまぁす」と間延びした声でお辞儀した。
席を立ったアサヒナくんを、目で追いかける。
「先輩、飲みものなにがいいです? ついでに取ってきますよ」
「俺も行く!」
「……先輩って、いつもドリンクいろいろ混ぜてますよね」
「ご存じだった……!!!!」
涼しいアサヒナくんの目に晒され、過去のはしゃいだ蛮行を白日の下に公開された処刑人の心地に陥る。
ドリンクバーで、一心不乱にぶどうジュースを注ぐ俺を、「今日はオレンジぶどうコーラ割りしないんですか?」と淡々と尋ねられ、今後の行いを改めようと心に誓った。

