一緒にごはんを食べて、一緒に後片付けして、リビングのこたつでアサヒナくんは宿題を始めた。
——えらいと思う。本当にえらいと思う。
冬休み初日に宿題を広げるアサヒナくんに驚いたし、驚く俺にアサヒナくんは驚いたし、極めつけは「先輩、宿題しないんですか?」という純粋無垢な問いかけに心が抉られた。
好きな子にかっこ悪いところを見せてしまった俺は、これ以上ダサい姿を見られたくなくて、アサヒナくんと一緒に宿題をやっている。
さて、アサヒナくんの前に湯気の立つマグカップを置き、自分の前にも同じものを置く。
顔を上げた彼は少しはにかんで、お礼を述べた。
その表情がたまらなくぐっときて、触れそうになった手を慌てて引っ込める。自分の顔まで火照ってくる。
時折雑談をはさんで、わからないところをスマホで調べて、かつてないほど真面目に取り組んだ。
正面にはアサヒナくんがいて、薄手のカーテンから透けた光がミルクティー色の髪を弾いて、まつ毛の先まで照らしている。
柔らかそうな頬に落ちたまつ毛の影が、瞬きの度に僅かに揺れる。
ふくらとした唇はきゅっと引き結ばれて、あたたかそうな色をしていた。
ぼう、と見詰めていた顔立ちが、淡く目元を染める。
上目にこちらを向いた瞳は、どこか恨めしそうだった。
「……先輩、見過ぎです」
「えぁっ! ごめん!」
あせあせと手元の問題集へ視線を戻す。が、しばらくすると、シャーペンの音はひとつになってしまう。
気まぐれにこたつに沈めた足を動かすと、ぶにゃっ、不機嫌そうな声が響いて焦った。
ふわふわのぬくもりに足が触れてしまい、慌ててこたつ布団をめくる。
「ごめん、くつした!」
ぐるるるん、どこから出ているのかわからない音を立てて、赤く照らされたこたつの中で、くつしたがうずまきを作り直す。
今度はぶつからないよう気をつけながら、足の位置を調整した。
とん、つま先がなにかに当たる。
「……ッ」
目の前から息を詰めるような音が聞こえ、見やると耳まで真っ赤になったアサヒナくんがいた。
瞬時に、さっきぶつかったのはアサヒナくんの足だと気づき、自分の耳が燃えているのではと疑うくらいに熱くなる。
「ごごごっごめん……」
「……いえ。座りにくいのでしたら、座椅子を出しましょうか?」
「ダイジョウブデス……」
触れたつま先が熱いのか、顔が熱いのか、脳が沸騰しそうなのか、わからないくらい身体中が熱い。
アサヒナくんは変わらずシャーペンを握っているけれど、火照った頬の赤みは引かず、参考書のページだけが右往左往していた。
*
軽く揺すられる肩と、控えめに呼びかける声に、微睡んでいた意識が浮上する。
けれど瞼は仲違いしたくないみたいで、無理やり両者の仲を引き裂くことができない。
「先輩、こたつで寝ると、風邪引いちゃいますよ」
——アサヒナくんの声だ。
声音からして、困っているみたいだ。
助けてあげたいけど、眠気は大きくあくびをしていて、おいでおいでとこちらを手招いている。
うとうとした状況は最高に居心地がよくて、抜け出すのは億劫だ。
「……どうしよう」
肩に触れていた手が離れ、ぬくもりが霧散する感覚が、ひどく寒く感じた。……心に隙間が空いたようだ。
再び誰かがそばに座って、ふわりと肩がぬくもりに包まれる。
ほっとするそれに頬を擦りつけて、深く息を吸い込んだ。
……このにおい、すきだなぁ。無意識に頭の中で、アサヒナくんの顔が像を結ぶ。
これ、アサヒナくんのにおいだ。
不意に、本当にささやかに頬を触れられ、ゆっくりとなぞられた。
それがくすぐったくて、むにゃりと唸りながら、それを掴んだ。
えっ、と耳に届いた声は驚愕と戸惑いに満ちていたが、構わずぬくもりの中へ引きずり込む。
「せ、先輩っ」
焦った声が遠くに聞こえる。
逃げ出そうともがくそれをしっかり掴んで、再び微睡みの底へ意識を手放した。
——夕方にアサヒナくんに叩き起こされた俺は、指のあとがくっきりとつくほどアサヒナくんの手を抱きしめて寝ていた。
慌てて謝り倒した。びっくりした!
アサヒナくんは首まで赤くなっていて、自分がなにか仕出かしたんじゃないかと疑った。
例えば寝言とか、いかがわしいこととか!
アサヒナくんは終始「なんでもありません」と繰り返していたが、目は合わないし、顔は真っ赤だし、やっぱりなにか仕出かしたんじゃないかと心配になる。
それはそれとして、手首をぐるりと周る指のあとから目は離せないし、俺の指が余ることをまざまざと見せつけられて、すごく胸がドキドキして、口の中へ入れたくなった。
——えらいと思う。本当にえらいと思う。
冬休み初日に宿題を広げるアサヒナくんに驚いたし、驚く俺にアサヒナくんは驚いたし、極めつけは「先輩、宿題しないんですか?」という純粋無垢な問いかけに心が抉られた。
好きな子にかっこ悪いところを見せてしまった俺は、これ以上ダサい姿を見られたくなくて、アサヒナくんと一緒に宿題をやっている。
さて、アサヒナくんの前に湯気の立つマグカップを置き、自分の前にも同じものを置く。
顔を上げた彼は少しはにかんで、お礼を述べた。
その表情がたまらなくぐっときて、触れそうになった手を慌てて引っ込める。自分の顔まで火照ってくる。
時折雑談をはさんで、わからないところをスマホで調べて、かつてないほど真面目に取り組んだ。
正面にはアサヒナくんがいて、薄手のカーテンから透けた光がミルクティー色の髪を弾いて、まつ毛の先まで照らしている。
柔らかそうな頬に落ちたまつ毛の影が、瞬きの度に僅かに揺れる。
ふくらとした唇はきゅっと引き結ばれて、あたたかそうな色をしていた。
ぼう、と見詰めていた顔立ちが、淡く目元を染める。
上目にこちらを向いた瞳は、どこか恨めしそうだった。
「……先輩、見過ぎです」
「えぁっ! ごめん!」
あせあせと手元の問題集へ視線を戻す。が、しばらくすると、シャーペンの音はひとつになってしまう。
気まぐれにこたつに沈めた足を動かすと、ぶにゃっ、不機嫌そうな声が響いて焦った。
ふわふわのぬくもりに足が触れてしまい、慌ててこたつ布団をめくる。
「ごめん、くつした!」
ぐるるるん、どこから出ているのかわからない音を立てて、赤く照らされたこたつの中で、くつしたがうずまきを作り直す。
今度はぶつからないよう気をつけながら、足の位置を調整した。
とん、つま先がなにかに当たる。
「……ッ」
目の前から息を詰めるような音が聞こえ、見やると耳まで真っ赤になったアサヒナくんがいた。
瞬時に、さっきぶつかったのはアサヒナくんの足だと気づき、自分の耳が燃えているのではと疑うくらいに熱くなる。
「ごごごっごめん……」
「……いえ。座りにくいのでしたら、座椅子を出しましょうか?」
「ダイジョウブデス……」
触れたつま先が熱いのか、顔が熱いのか、脳が沸騰しそうなのか、わからないくらい身体中が熱い。
アサヒナくんは変わらずシャーペンを握っているけれど、火照った頬の赤みは引かず、参考書のページだけが右往左往していた。
*
軽く揺すられる肩と、控えめに呼びかける声に、微睡んでいた意識が浮上する。
けれど瞼は仲違いしたくないみたいで、無理やり両者の仲を引き裂くことができない。
「先輩、こたつで寝ると、風邪引いちゃいますよ」
——アサヒナくんの声だ。
声音からして、困っているみたいだ。
助けてあげたいけど、眠気は大きくあくびをしていて、おいでおいでとこちらを手招いている。
うとうとした状況は最高に居心地がよくて、抜け出すのは億劫だ。
「……どうしよう」
肩に触れていた手が離れ、ぬくもりが霧散する感覚が、ひどく寒く感じた。……心に隙間が空いたようだ。
再び誰かがそばに座って、ふわりと肩がぬくもりに包まれる。
ほっとするそれに頬を擦りつけて、深く息を吸い込んだ。
……このにおい、すきだなぁ。無意識に頭の中で、アサヒナくんの顔が像を結ぶ。
これ、アサヒナくんのにおいだ。
不意に、本当にささやかに頬を触れられ、ゆっくりとなぞられた。
それがくすぐったくて、むにゃりと唸りながら、それを掴んだ。
えっ、と耳に届いた声は驚愕と戸惑いに満ちていたが、構わずぬくもりの中へ引きずり込む。
「せ、先輩っ」
焦った声が遠くに聞こえる。
逃げ出そうともがくそれをしっかり掴んで、再び微睡みの底へ意識を手放した。
——夕方にアサヒナくんに叩き起こされた俺は、指のあとがくっきりとつくほどアサヒナくんの手を抱きしめて寝ていた。
慌てて謝り倒した。びっくりした!
アサヒナくんは首まで赤くなっていて、自分がなにか仕出かしたんじゃないかと疑った。
例えば寝言とか、いかがわしいこととか!
アサヒナくんは終始「なんでもありません」と繰り返していたが、目は合わないし、顔は真っ赤だし、やっぱりなにか仕出かしたんじゃないかと心配になる。
それはそれとして、手首をぐるりと周る指のあとから目は離せないし、俺の指が余ることをまざまざと見せつけられて、すごく胸がドキドキして、口の中へ入れたくなった。

