俺のたまんなく可愛い後輩の朝日奈くんは、猫を描く

冬休みだ!
例年ならこの短くて貴重な休暇期間を、友達と遊び倒して終えていたが、今年は違う!
「冬休み? バイトと課題をします」と涼しく言ってのけたアサヒナくんと可能な限り一緒にいたくて、お願いし倒した。
戸惑いと渋さに満ちた顔で了承を得られたので、俺はほとんどの日をアサヒナくんと過ごす権利をもぎ取ったんだ!
これで浮かれない方がおかしい!

アサヒナくんは土曜日と同じく、冬休み期間中は14時までバイトをしている。
なのでその時間まで、弟子入りした母師匠から料理を教わることにした。
昼は俺が作って、代わりに夕方はアサヒナくんが晩ごはんを作ってくれる。
これには最早新婚なのでは? と錯覚している。過言じゃないと思う。
食材の買い出しにふたりでスーパーへ赴いたときなんて、たまらないときめきイベントだ。
夕暮れの、若干星のチラつく茜空を見上げて、荷物を分け合いながら帰路につくとき。
青く滲んだ景色を眺めるアサヒナくんは、とても穏やかな顔をしているのだから、このひと時を守りたいと毎回切望してしまう。

今でも覚束ない手で包丁を握って、度々痛かったり熱かったり散々な思いをするけど、アサヒナくんの喜んだ顔を想像するだけで、いくらでも頑張れるのだから不思議だ。
母師匠は突然の俺の変貌に驚いていたけど、昼食の完成品をいそいそとタッパーへ詰める姿を見て、何かを察したのかにやにやしている。
最近は「アサヒナくん、和風と洋風どっちが好きなの?」「アサヒナくんはパスタ好き? それとも中華系かしら?」と探りを入れてくるようになり、非常に居心地が悪いし恥ずかしい。
しかし、「ごはん、全部おいしい!!」くらいの感性しかない俺にとって、母師匠の指標は非常に頼りになるので、邪険にすることもできない。
ぐぬぬ、悔しい……

けれど、ほとんど毎日一緒にごはんを食べているからか、最近のアサヒナくんは顔色が改善されきてホッとしている。
かさついていた唇もふっくらとしてきて、気づいたらじっと見詰めているから、我に返る度に心臓が激しく自己主張する。
どっど、と脈打つ動悸はことあるごとにやましさを表明するから、いつかアサヒナくんに聞かれるんじゃないかと心配だ。

そんなこんなで今日のお昼ごはんは、ブタの生姜焼きともやしのナムルを詰めてきた。
ちなみに「ナムルってなに?」と母師匠へ尋ねたら、「あんたの板で調べなさい」とスマホを指された。
ごもっともだ。
ブタの生姜焼きの仕上がりは、初回のハンバーグの大失敗から比べれば、格段に上達が見られる。
ちょっと焦がしたり、なかなかフライパンの焦げが落ちなかったり大変だったが、母師匠のお昼ごはんで合格点をもらえたので、早くアサヒナくんに食べてもらいたい。

アサヒナくんを迎えに行くためにコバタへ向かうと、丁度春風さんとアサヒナくんが出てくるところだった。
彼らへにこやかに手を振るが、内心面白くない。
でも俺はコバタのスタッフではないし、毎日コバタへ通う財力もない。
……悔しい。アサヒナくんを独り占めしたいのに。

「うひゃあぁぁぁ! さぶいぃぃぃ!!」と悲鳴を上げた春風さんは、こちらに気づくと人懐こそうに手を振り返した。
そして何やらアサヒナくんへ耳打ちしている。
途端、アサヒナくんのほっぺが真っ赤に染まった。
——そんな顔を見ちゃったら、俺の内心なんて動揺の嵐だ! なんの話をしたんだ!?
お願いだから、外で可愛い顔の安売りをしないで!!

「えっへへ。ゆづき先輩、朝日奈くんのお届けでぇす!」
「え!? ありがとう!!」

アサヒナくんの背中を押した春風さんが、イタズラっぽく笑う。
「じゃ、また次のシフトでね!」とアサヒナくんへ笑いかけ、颯爽と自転車へ飛び乗り、うひゃあぁぁぁっ、と寒さに悲鳴を上げながら走り去った。
春風さんを見ていると、すごく元気が出る。これがムードメーカーか。

「春風さんって、愉快だよな」
「先輩が言います?」
「俺って愉快なの!?」

未だ頬をほんのりと染めたアサヒナくんは、どこか恨めしそうにこちらを見上げている。
……そういえば、この頃アサヒナくんの凍え具合がマシになってる気がする。
気づいた事実ににこにこして、勝手に頬が緩んでしまった。ぷいとそっぽを向かれる。

「なあ。さっき春風さんと、なんの話してたの?」
「……天気の話です」
「誠に?????」

天気の話で、真っ赤になっちゃうの????
疑問に首を捻る俺を置いて、アサヒナくんの足は自宅へ向けて進み始める。
慌てて彼の横へ並び、眼下の頭へ笑いかけた。

「バイトお疲れ。今日どうだった?」

こちらを見上げたアサヒナくんは、どこか面映そうに目線を逸らした。
返答はいつも質素で素っ気ないけど、この表情がたまらなく心をうずかせるから、毎回聞いてしまう。
アサヒナくんの家までそこそこの距離があるはずなのに、気がついたらいつもマンション下に辿り着いている。
多分、すんごく浮かれてるからなんだと思う。