不本意な姫ポジの俺とメンタル強めな一軍男子

 だって大神がこれなんだから。
「言っとくけど、すごいワガママで可愛さの欠片もないよ」
「えっ、可愛さはあるだろ」
「もし会ったら懐かれるかもな。小鳩、子ども受けよさそうだから」
「そう……かな?」
 たしかに子どもは可愛くて好きだ。普段は小さい子と接する機会はあまりないけど。
「小鳩って、子どもに混じって遊んでそうなイメージある」
「イメージって……」
「ほら、公園の砂場とかで一緒に山作ってそう」
「え! 作りたい!」
「ふっ……即答すぎるだろ」
「絶対楽しい。城とか作れるよ、俺」
「プレゼンしなくていいから」
 公園の砂場なんて、もう何年も遊んでないけど、懐かしくなるときはある。
 高校生がひとりで遊ぶわけにはいかないから、ただ見て通りすぎるだけ。
「いいなあ、大神の妹と弟と遊べたら」
「そんなこと言うの小鳩くらい。たまに公園に付き合わされるけど、退屈でしかないよ」
「そう?」
「最低でも二、三時間は付き合わされるから」
「長いな! あ、でも俺も子どものときはそれくらい遊んでたか」
「小鳩が公園? なんか想像つかないな」
「鬼ごっことかすごい好きだった。あ……でも謎に、女の子たちのおままごとの仲間入りさせられてたけど」
「あー……それは想像つくかも」
 納得された。まあ、そうだよな。そういうキャラだし。
「でも、俺も小鳩と鬼ごっこしたかったかも」
「え?」
「速攻で捕まえられる自信ある」
「なんでだよ、俺だって足速い方だったよ」
 思わずむきになって返すと、大神は「へえ?」と、わざとらしく首を傾げてきた。
「でも、小鳩って逃げるより捕まる方が似合う」
「ど、どういう意味だよそれ!」
「そのまんま。だって、追いかけられてる顔がもう浮かぶもん」
「そんな想像すんな!」
「いや、想像しなくても分かるんだよ」
 どこか、からかうような口調と表情は、納得がいかないけどサマになっている。
「……大神って意地悪だったんだ」
「褒め言葉として受け取っとく」
「褒めてないって……」
 つか俺、大神と普通に話せてるじゃん。
 散々悩んでいたのが嘘みたいに、緊張することなく会話のラリーを続けることができていた。
 たぶん、考えすぎたんだろうな。昔からそういう悪い癖がある。
 ひとりであれこれ悩んで、いざ蓋を開けてみればそこまで悩まなくてもよかったみたいなことが。
 今回もそういうことだったのかもしれない。
 よかったよかった、一件落着か。
「さっきのことだけど」
 なんて、自分で解決させていたところで、大神に切り出された。一瞬なんのことか分からなくて「さっき」となぞれば、大神と目が合った。
「なんで彼女作らないのかって話」
「……ああ! そういえば聞いてたな、俺」
 うん、と大神は笑う。それから――。
「小鳩がいるから」
「え」
 ……解決から、また一歩、遠のいた。
 なんでそんなことになった?
 大神は俺がいるから、彼女は作らないらしい。
 それって、俺が大神のほっぺにキスをしたからなのか。それとも、別になにかがあったのか。
 どちらにしても、大神が冗談でこんなことを言っているわけではない。
「俺がいるから、彼女を作らないの?」
「そうなると思うけど」
 日本語が難しい⁉
 答えは返ってきたけど、納得がいくものでもない。
「俺のこと、からかってたりします?」
「はは、なんでいきなりそんな話が出るの」
「だって、大神が言ってること全然分からないし……俺を困らせたいみたいなことしてます?」
「してないって。まあ、困る小鳩も見てみたいけど」
「えっ、ちょっとドS気質入ってるじゃん」
 そもそも告られて笑いながら振る時点で、うすうす感じてたけど。
「否定はしないかも」
「え、してよ!」
「小鳩から言い出したんじゃん」
「いやいや、普通は否定する流れでしょ」
「だって、俺の中ではべつに否定するほどのことじゃないし」
 あっけらかんとした顔で大神は笑う。
 爽やかに白い歯を見せながら、言っていることは容赦ない。
「ほら、やっぱりそういうとこだよ!」
「ん?」
「人を混乱させる天才っていうか……なんか、俺がひとりで勝手に転がされてる感じになるんだよ」
「へえ。小鳩が勝手に転がってくれるなら、俺としては楽でいいけど」
「なにそれ!」
 食い気味に言うと、大神は肩をすくめる。
「小鳩のそういう反応、見てて飽きないんだよな」
 目を細めて、優しさで満ちたような瞳で俺を見つめる。
「さっきも言ったけどさ、彼女作らないんじゃなくて」
 ぐっと顔が近くなり、大神を見上げる姿勢になって。
「小鳩がいるから、ほかの誰かを好きになろうと思わないんだよ」
 一瞬で呼吸が止まった。
 軽口みたいに言ったくせに、目だけは真剣そのものだ。
「……そういうの、サラッと言うの反則じゃない?」
「うーん、俺ってドSらしいからさ」
「その答え、逆にずるくない?」
「あ、バス来た」
 タイミングがいいのか悪いのか、またしてもバスによって会話が終了させられた。
 前回同様、なにも解決はしていない。
 大神がバスに乗り込むのを見つめながら、さっきの言葉が忘れられなかった。
 結局、真相をはぐらかされたような気がする。
 相変わらず俺たちは前後に座って、バスは静かに走り出したのだった。