俺と同じことを思い出しているのなら、それは山田が強引に開催した王様ゲームのときからだろう。
そして「俺のことよく見てる」というのは図星だった。
自然と目で追いかけてしまうことが増えて、大神が普段どんなふうに過ごしているのか気になるようになった。
「ごめん……見てる、かも」
「素直か」
「俺が見てるって気づいてたんだ」
「気づくよ、あんなに見られてたら」
あんなにって……そんなに見てたつもりはないけど、無意識でガン見していたのかもしれない。
俺の視線なんか、無視してくれればいいのに。
「……大神は、いろんな人からの視線もあるでしょ」
「それは小鳩も一緒じゃない?」
「俺?」
「小鳩もよく見られてるでしょ」
姫と呼ばれるようになって、たしかに可愛がられているポジションだけど、大神みたいに憧れの視線は一度も感じたことはない。
みんな、俺のことを男子校にいる、女子の代わりの男としか見てない。
「俺と大神じゃ、視線の意味が違うっていうか」
「そうかな? 小鳩はすげえ人気なんだなって思ってたけど」
「ガチか。そう思ってくれてたことはありがたい」
「ありがたいのか」
本気で人の視線を奪う意味では、大神に勝てる人なんて誰もいない。
とにかくかっこいいし、色気だって持ち合わせているんだから、俺とは正反対すぎて、だからこそ気になる存在なのかもしれない。
「大神こそが、真の人気者だと思うよ」
「真の人気者ってなんだよ」
ふっと、力が抜けたような笑い方は、あまり学校では見ない。大神を見ていると、人って笑顔だけでもいろいろな種類があるんだなと思い知る。
「まあ、よく見られてるなって思うことはあるけど、それでも小鳩からの視線は熱すぎたかな」
「え……俺、そんなに見てた?」
「自覚ないんだ。見られすぎてこっちが恥ずくなるくらいだったんだけど」
「……自分でも引いた。ごめん、そんなつもりなくて」
なにしてんだよ、俺。大神を困らせてるんじゃん。
自分では盗み見るくらいだと思っていた。大神を照れさせるほどの熱烈な視線を送っている自覚はなかった。
「大神って、彼女とかできたら大変だな」
「えーなんで?」
「彼女だったら大変だよ。こんなにモテる彼氏を持って」
どうかなあ、と大神は笑った。この笑いは、さっきとはまた違っているように思うけど、これもまた気のせいなのか。
「大神って、なんで彼女作らないの?」
何気なく、聞いていた。
大神が俺を見た。あ、やばいな。俺が女で、この顔で見つめられたら、一発で落ちる自信がある。
「なんでって」
そう言いながら、大神はチラシを貼り終えた。
「こんな感じでどう?」
「へ? あ、うん。いい感じ」
「おけ。じゃあ次行こ」
その場から立ち去るように、スタスタと歩いていく背中。
あれ……話を逸らされた?
答えたくなかったのかも……と、大神の後ろ姿を見て気づいた。デリカシーないな、俺。
とりあえず手元にあったチラシは大神のおかげで全部貼り終えた。
大神と一緒に校舎を出て、最寄のバス停に向かった。
「小鳩、ベンチ空いてるけど座らないの?」
「あ、うん。立ってるほうが好きっていうか」
そう言ったら、大神は俺と同じようにフェンスにもたれかかった。
「俺も立ってるほうが好き」
それは知っていた。バス停で大神がベンチに座っているところを見たことがなかったから。
バスが来るまで、あと七分。今日も夕空を見つめながら、さっき何気なく呼ばれた「小鳩」を思い出した。
大神は俺のことを姫扱いしない。
自意識過剰かと思われそうだけど、最近は姫扱いのノリが当たり前になっていたからちょっと意外だ。
大神だけは、俺のことをずっと「小鳩」と呼んでいる。
変に甘やかすことも、過剰に遠ざけることもなく、ただ普通に接してくれている。
その距離感が、不思議と居心地がよかった。
「大神って、ほんと誰とでも普通に話せるんだな」
「え、褒められてる?」
「もちろん! 俺とかほとんど話したことなかったのに、こうして話してくれてるし」
気恥ずかしさを隠すように、つい口から出てしまった。
大神はおどろいたように目を丸くしてから、すぐに笑顔を浮かべる。
「変?」
「ぜんぜん。大神らしいなとは思ったりするし、尊敬する。俺も大神になりたいなって」
「ならなくていいよ」
小さく、大神は言った。
「小鳩は小鳩。ほかの誰にもないものを持ってるんだから、誰かになる必要なんてないでしょ」
胸の奥がまたざわつく。
……やっぱり、大神だけは、俺を姫扱いしないんだな。
周りがどう見ていようと、大神の目には「俺」が映っている。
それが、どうしようもなくうれしい。
「はい、あげる」
大神がごそごそとポケットから取り出したのは、棒つきキャンディーだった。
「意外なものが出てきた」
「地味にひどくない?」
「えっ、あ、ごめん。変な意味じゃなくて……その、ギャップだなって」
このタイミングでキャンディーを渡してくるところが大神らしいのか、らしくないのか。
「ありがとう……もらいます」
大神からオレンジ色のキャンディーを受け取り、口に入れた。
「久しぶりに食べた……美味しいな」
「妹と弟が好きなんだよ。昨日会ったから渡そうと思ってたやつ忘れてた」
「大神に兄弟いたんだ?」
「五歳の双子」
「ちっさ! つか一緒に住んでないの?」
「あーうん。離れて暮らしてて」
離れて……ってところに、あまり触れないほうがいいのかな。
家庭環境はそれぞれだろう。俺も姉がふたりいるけど、どっちも世話が焼けるし、積極的に家族の話をすることはない。
それにしても大神の妹と弟……え、しかも双子?
想像してみたら、とびきり可愛いキッズたちが想像できた。うん、絶対やばいくらい可愛いはずだ。
そして「俺のことよく見てる」というのは図星だった。
自然と目で追いかけてしまうことが増えて、大神が普段どんなふうに過ごしているのか気になるようになった。
「ごめん……見てる、かも」
「素直か」
「俺が見てるって気づいてたんだ」
「気づくよ、あんなに見られてたら」
あんなにって……そんなに見てたつもりはないけど、無意識でガン見していたのかもしれない。
俺の視線なんか、無視してくれればいいのに。
「……大神は、いろんな人からの視線もあるでしょ」
「それは小鳩も一緒じゃない?」
「俺?」
「小鳩もよく見られてるでしょ」
姫と呼ばれるようになって、たしかに可愛がられているポジションだけど、大神みたいに憧れの視線は一度も感じたことはない。
みんな、俺のことを男子校にいる、女子の代わりの男としか見てない。
「俺と大神じゃ、視線の意味が違うっていうか」
「そうかな? 小鳩はすげえ人気なんだなって思ってたけど」
「ガチか。そう思ってくれてたことはありがたい」
「ありがたいのか」
本気で人の視線を奪う意味では、大神に勝てる人なんて誰もいない。
とにかくかっこいいし、色気だって持ち合わせているんだから、俺とは正反対すぎて、だからこそ気になる存在なのかもしれない。
「大神こそが、真の人気者だと思うよ」
「真の人気者ってなんだよ」
ふっと、力が抜けたような笑い方は、あまり学校では見ない。大神を見ていると、人って笑顔だけでもいろいろな種類があるんだなと思い知る。
「まあ、よく見られてるなって思うことはあるけど、それでも小鳩からの視線は熱すぎたかな」
「え……俺、そんなに見てた?」
「自覚ないんだ。見られすぎてこっちが恥ずくなるくらいだったんだけど」
「……自分でも引いた。ごめん、そんなつもりなくて」
なにしてんだよ、俺。大神を困らせてるんじゃん。
自分では盗み見るくらいだと思っていた。大神を照れさせるほどの熱烈な視線を送っている自覚はなかった。
「大神って、彼女とかできたら大変だな」
「えーなんで?」
「彼女だったら大変だよ。こんなにモテる彼氏を持って」
どうかなあ、と大神は笑った。この笑いは、さっきとはまた違っているように思うけど、これもまた気のせいなのか。
「大神って、なんで彼女作らないの?」
何気なく、聞いていた。
大神が俺を見た。あ、やばいな。俺が女で、この顔で見つめられたら、一発で落ちる自信がある。
「なんでって」
そう言いながら、大神はチラシを貼り終えた。
「こんな感じでどう?」
「へ? あ、うん。いい感じ」
「おけ。じゃあ次行こ」
その場から立ち去るように、スタスタと歩いていく背中。
あれ……話を逸らされた?
答えたくなかったのかも……と、大神の後ろ姿を見て気づいた。デリカシーないな、俺。
とりあえず手元にあったチラシは大神のおかげで全部貼り終えた。
大神と一緒に校舎を出て、最寄のバス停に向かった。
「小鳩、ベンチ空いてるけど座らないの?」
「あ、うん。立ってるほうが好きっていうか」
そう言ったら、大神は俺と同じようにフェンスにもたれかかった。
「俺も立ってるほうが好き」
それは知っていた。バス停で大神がベンチに座っているところを見たことがなかったから。
バスが来るまで、あと七分。今日も夕空を見つめながら、さっき何気なく呼ばれた「小鳩」を思い出した。
大神は俺のことを姫扱いしない。
自意識過剰かと思われそうだけど、最近は姫扱いのノリが当たり前になっていたからちょっと意外だ。
大神だけは、俺のことをずっと「小鳩」と呼んでいる。
変に甘やかすことも、過剰に遠ざけることもなく、ただ普通に接してくれている。
その距離感が、不思議と居心地がよかった。
「大神って、ほんと誰とでも普通に話せるんだな」
「え、褒められてる?」
「もちろん! 俺とかほとんど話したことなかったのに、こうして話してくれてるし」
気恥ずかしさを隠すように、つい口から出てしまった。
大神はおどろいたように目を丸くしてから、すぐに笑顔を浮かべる。
「変?」
「ぜんぜん。大神らしいなとは思ったりするし、尊敬する。俺も大神になりたいなって」
「ならなくていいよ」
小さく、大神は言った。
「小鳩は小鳩。ほかの誰にもないものを持ってるんだから、誰かになる必要なんてないでしょ」
胸の奥がまたざわつく。
……やっぱり、大神だけは、俺を姫扱いしないんだな。
周りがどう見ていようと、大神の目には「俺」が映っている。
それが、どうしようもなくうれしい。
「はい、あげる」
大神がごそごそとポケットから取り出したのは、棒つきキャンディーだった。
「意外なものが出てきた」
「地味にひどくない?」
「えっ、あ、ごめん。変な意味じゃなくて……その、ギャップだなって」
このタイミングでキャンディーを渡してくるところが大神らしいのか、らしくないのか。
「ありがとう……もらいます」
大神からオレンジ色のキャンディーを受け取り、口に入れた。
「久しぶりに食べた……美味しいな」
「妹と弟が好きなんだよ。昨日会ったから渡そうと思ってたやつ忘れてた」
「大神に兄弟いたんだ?」
「五歳の双子」
「ちっさ! つか一緒に住んでないの?」
「あーうん。離れて暮らしてて」
離れて……ってところに、あまり触れないほうがいいのかな。
家庭環境はそれぞれだろう。俺も姉がふたりいるけど、どっちも世話が焼けるし、積極的に家族の話をすることはない。
それにしても大神の妹と弟……え、しかも双子?
想像してみたら、とびきり可愛いキッズたちが想像できた。うん、絶対やばいくらい可愛いはずだ。


