不本意な姫ポジの俺とメンタル強めな一軍男子

「あのままだったら、山田とディープだったから」
「俺とキスすることになったけどね」
「いや、大神のほっぺだし……キスではないかと」
 軽いもので済んで本当によかった。山田となんて黒歴史になるところだった。いつかの同窓会でからかわれる鉄板のネタになっていたに違いない。
「あのとき大神がいなかったらって思うと、今でもゾッとするよ」
「山田はさすがにな」
「うん、山田はさすがに」
 山田に対しての共通認識が一緒で、ふっと笑ってしまう。山田は嫌いじゃないけど、さすがにキスはできない。
「山田は残念がってたけどな、小鳩とできなくて」
「ああいうのは男子だけでやるもんじゃないよ……」
 ノリが悪化していくだけだ。ストッパーがいなければ、どんどん加速していた。
「それもそうだ」
 はは、と大神が笑う。
 ……大神って顎のラインきれいだよな。スッとしてるし、鼻も高いし、造形が美しいっていうか。
 夕日に照らされた大神を見ていたら、その顔が俺を見た。
「男とキスすることに抵抗はないの?」
「え?」
 とんでもない角度からの質問につい狼狽えてしまった。
「小鳩、山田とのキスを拒まなかったから」
「いやいや! さすがに抵抗はあったよ! でも、俺が断って変な空気にしたくなかったし」
「それは優しすぎじゃない?」
「優しくは……ないよ」
 どっちかって言ったら、白けた空気に耐えられそうになかったという方が正しい。誰よりも俺が耐えられないだけだ。
 姫なんて言われているけど、学校でのポジションは大神みたいにいいわけじゃない。何を言っても許されるのは大神くらいだ。
「……大神はすごいよ、どんなときでもかっこよく動けるから」
 俺だったら王様ゲームで困っている人がいても、あんなふうに誰かを助けることなんてできなかった。まして自分が盾になるなんて……。大神は自分の頬を犠牲にして俺を助けてくれた。
 これからは大神を崇めて生きていこう。
「…………」
 密かに決意していたとき、大神からの返答がないことに気づいた。
 あれ、俺なにかまずいことでも言った……?
 俺の返しが大神の気に障ったのかもしれない。
「あ! その、大神は俺とキスすることになって最悪だっただろうけど」
 大事なことを忘れていた。俺は助けてもらったけど、大神からしたら不快でしかなかったかもしれない。
「それは本当ごめん」
「……ううん、俺から仕掛けてるから」
 よかった、返事してくれた。無視されていたわけではないことに安堵する。
「じゃあ、改めてだけどありがとう」
 本人に直接お礼を言えてよかった。
 気分が軽くなっていると、「ふっ」と大神が小さく笑った。
「え、なに……?」
「いや、ごめん。俺にだってキスしたくなかったはずなのに、お礼言われたなと思って」
「大神は善意でしてくれたじゃん。山田とは違って」
「……善意、ね」
「ん?」
 ううん、と大神はゆるく首を振った。「こっちの話」と切り上げられてしまえば、それ以上踏み込むこともできない。
 なにか意味が含まれていたように思うけど、俺の考えすぎかも。
「まあ、唇のキスは、今後も大事な人としてくださいよ」
 秋らしい涼し気な風とともに、大神がどこかへ視線を投げて言った。
 その横顔を見つめながら、まだ俺と話してくれることにホッとした。
「俺、ファーストキスはまだなんだよね」
「…………は?」
 かなりの時間を置いて、どこかを見ていたきれいな瞳が、ゆっくりと俺に移った。
 そこまで衝撃を受けるものだろうか。
 あ、高一にもなってまだ?という話か。だとしたら、周りが早すぎる。
「ガチで?」
「うん。あ、昨日のはもちろんカウントしないから。大神も数えられたくないだろうし」
「なんでそっちが配慮してくんだよ」
「いや、だって大神のほうが、俺のファーストキス相手とか思われるのはイヤだろうし」
 大神に迷惑はかけたくない気持ちはもちろんある。俺にとって、神のような存在だ。本物の神よりも大神に感謝している。
「ってことは、どう考えても俺が謝らないといけないやつじゃん」
 片手で顔を覆った大神は、どこか申し訳なさそうな言い方をした。
 あれ、こういう大神は新鮮だ。
 どんなときでも困った顔を見せることはないのに、今の大神はどうしたらいいか分からないような顔をしていた。
「え、大神が謝る必要ないよ。このままだとキスを経験することなく人生終わるかもって思ったとこあったし。ちょうどよかったっていうか、いや、言い方悪いか……ごめん、言いたいことはべつにあって」
 気持ちが焦ってしまう。正しい感情を伝えられないもどかしさを感じながらも、伝えるべきことを整える。
「ほっぺにキスをさせてもらえたことは、感謝しないといけないっていうか」
 整えたつもりが、ただの変態になってしまった。
 なに言ってんだよ、俺‼