大神と俺に特別な接点はなかった。
ただ同じクラスであるということ。それだけが俺と大神の関係性を表現する上で最も適したものだったけど。
六月という中途半端な時期に突然、通学バスが一緒になった。
俺が乗る次のバス停で、大神が乗ってくる。
どうやら大神とは、学区が違うだけで家が近かったということが判明した。中学まではお互いの存在すら知らなかったけど、家はチャリなら五分もかからなかったらしい。
クラスでは席が近くなったことはなかったけど、バスでは席が前後になる。俺がまず一番後ろの右隅を陣取り、その次に乗ってくる大神が俺の前に座る。
軽く挨拶はするけど、会話というものはほとんどない。
何度か大神が寝過ごして、いつも降りるバス停で起こしたことはあった。
だからってそれで仲良くなったかと聞かれれば答えはノーだ。
大神が前の席に座るようになって、自然と大神を見る時間が増えた。
学校ではありえない近さだったし、まじまじと見ても許されるような時間だった。
一度だけ、耳にピアスがついているのを見つけたことがある。あの大神が?と意外で、ほかにもピアスの穴がいくつか開いているのを知った。休日はやんちゃ大神なのかもしれない。
外し忘れたのか、なんだか新鮮で、これはこれでギャップだなと密かに思ったりもした。
そのときついていたのは、シルバーのフープピアス。よく似合っているけど、これから学校に行くし、一応伝えたほうがいいかもしれない。
トントンと肩を叩くと、大神が振り返った。
「ピアス、学校につけてく?」
校則で禁止されているけど、そんなことは大神も分かっているだろう。
ああ、と気づいたようにピアスに触れた。
「忘れてた、ありがと」
そう言って笑った顔が、男の俺でも見惚れてしまうくらいきれいだった。慣れた手つきでピアスを外す長い指は、しなやかだ。
いつも通りアクセサリーがついていない耳を眺めながら、この男は一体どういう人と付き合うのだろうかと気になったりもする。
これだけのモテ要素を持ち合わせておきながら、誰かと付き合っているという話は聞いたことがない。
大神と同じ中学だった奴がクラスにいるけど、そいつも「大神はずっとフリーなんだよな」と不思議そうに首を傾げていた。
大神が今後誰かと付き合うようなことは、卒業まであるんだろうか。
……それにしても、いつもスマホに触らないんだよな。
大神はバスの中で、窓の外を眺めたり、寝てることがほとんどだ。
俺はすぐにスマホに入れているゲームか漫画のアプリを開いてしまう。
大神には趣味というものがないのか。
なんて考えるくらいには、大神のことを気になっていたりはする。それでも気軽に話せるような間柄ではないから、いつも後ろ姿を眺めるだけ。
そんな時間がこれからも続くのだろうなと思っていた。
ゲーセンで白井と解散し、近くのバス停に行くと、フェンスにもたれる大神がいた。
昨日の王様ゲームのことがあったから、このタイミングで会うのは気まずすぎる。
一本バスを遅らせるか?
でも次のバスを逃せば、五十分は待つんだよなぁ。
ひとまず大神に見つかる前に考えようと、その場から離れたようとしたところで、足元から砂利と靴が擦れる音が聞こえた。
バスが来る方向を見ていた大神は、気づいたように俺を見た。
……考える時間もないじゃん。
見つかってしまったからには、ここから立ち去るのもおかしな話だ。
「よ」とぎこちなく手をあげた俺に、大神は「おう」と爽やかに返してくれた。
大神の後ろに、少しスペースを空けて並ぶ。バス停には大神とふたりだ。
空が夕焼け色に染まり、電線にはカラスが数羽止まっていた。
いつも見るような光景を、大神と見ていることが不思議で、当たり前だけど大神ってこの世に存在するんだなと漠然と実感した。
俺からすると、大神は雲の上の存在だった。
気安く話しかけられるような人ではないし、大神からすれば俺なんてその他大勢のひとりにしか思われていないんだろう。
「小鳩ってさ」
そんなことを考えていたら話しかけられて、おどろいて「えっ」と思わず声が出ていた。
「昨日のこと、怒ってたりする?」
そして聞かれた内容が心底理解できないものだった。
王様ゲームのことだよな? でも、大神に対して俺が怒ることなんてなにもないし、そもそも俺は助けてもらった側だ。
「いやっ、むしろ感謝してるっていうか……その、ごめん」
「なんで小鳩が謝んの」
今度は大神が首を傾げていた。
ただ同じクラスであるということ。それだけが俺と大神の関係性を表現する上で最も適したものだったけど。
六月という中途半端な時期に突然、通学バスが一緒になった。
俺が乗る次のバス停で、大神が乗ってくる。
どうやら大神とは、学区が違うだけで家が近かったということが判明した。中学まではお互いの存在すら知らなかったけど、家はチャリなら五分もかからなかったらしい。
クラスでは席が近くなったことはなかったけど、バスでは席が前後になる。俺がまず一番後ろの右隅を陣取り、その次に乗ってくる大神が俺の前に座る。
軽く挨拶はするけど、会話というものはほとんどない。
何度か大神が寝過ごして、いつも降りるバス停で起こしたことはあった。
だからってそれで仲良くなったかと聞かれれば答えはノーだ。
大神が前の席に座るようになって、自然と大神を見る時間が増えた。
学校ではありえない近さだったし、まじまじと見ても許されるような時間だった。
一度だけ、耳にピアスがついているのを見つけたことがある。あの大神が?と意外で、ほかにもピアスの穴がいくつか開いているのを知った。休日はやんちゃ大神なのかもしれない。
外し忘れたのか、なんだか新鮮で、これはこれでギャップだなと密かに思ったりもした。
そのときついていたのは、シルバーのフープピアス。よく似合っているけど、これから学校に行くし、一応伝えたほうがいいかもしれない。
トントンと肩を叩くと、大神が振り返った。
「ピアス、学校につけてく?」
校則で禁止されているけど、そんなことは大神も分かっているだろう。
ああ、と気づいたようにピアスに触れた。
「忘れてた、ありがと」
そう言って笑った顔が、男の俺でも見惚れてしまうくらいきれいだった。慣れた手つきでピアスを外す長い指は、しなやかだ。
いつも通りアクセサリーがついていない耳を眺めながら、この男は一体どういう人と付き合うのだろうかと気になったりもする。
これだけのモテ要素を持ち合わせておきながら、誰かと付き合っているという話は聞いたことがない。
大神と同じ中学だった奴がクラスにいるけど、そいつも「大神はずっとフリーなんだよな」と不思議そうに首を傾げていた。
大神が今後誰かと付き合うようなことは、卒業まであるんだろうか。
……それにしても、いつもスマホに触らないんだよな。
大神はバスの中で、窓の外を眺めたり、寝てることがほとんどだ。
俺はすぐにスマホに入れているゲームか漫画のアプリを開いてしまう。
大神には趣味というものがないのか。
なんて考えるくらいには、大神のことを気になっていたりはする。それでも気軽に話せるような間柄ではないから、いつも後ろ姿を眺めるだけ。
そんな時間がこれからも続くのだろうなと思っていた。
ゲーセンで白井と解散し、近くのバス停に行くと、フェンスにもたれる大神がいた。
昨日の王様ゲームのことがあったから、このタイミングで会うのは気まずすぎる。
一本バスを遅らせるか?
でも次のバスを逃せば、五十分は待つんだよなぁ。
ひとまず大神に見つかる前に考えようと、その場から離れたようとしたところで、足元から砂利と靴が擦れる音が聞こえた。
バスが来る方向を見ていた大神は、気づいたように俺を見た。
……考える時間もないじゃん。
見つかってしまったからには、ここから立ち去るのもおかしな話だ。
「よ」とぎこちなく手をあげた俺に、大神は「おう」と爽やかに返してくれた。
大神の後ろに、少しスペースを空けて並ぶ。バス停には大神とふたりだ。
空が夕焼け色に染まり、電線にはカラスが数羽止まっていた。
いつも見るような光景を、大神と見ていることが不思議で、当たり前だけど大神ってこの世に存在するんだなと漠然と実感した。
俺からすると、大神は雲の上の存在だった。
気安く話しかけられるような人ではないし、大神からすれば俺なんてその他大勢のひとりにしか思われていないんだろう。
「小鳩ってさ」
そんなことを考えていたら話しかけられて、おどろいて「えっ」と思わず声が出ていた。
「昨日のこと、怒ってたりする?」
そして聞かれた内容が心底理解できないものだった。
王様ゲームのことだよな? でも、大神に対して俺が怒ることなんてなにもないし、そもそも俺は助けてもらった側だ。
「いやっ、むしろ感謝してるっていうか……その、ごめん」
「なんで小鳩が謝んの」
今度は大神が首を傾げていた。


