不本意な姫ポジの俺とメンタル強めな一軍男子

「ありがとうございます、でも彼女はいらないんで」
 翌日、友達に誘われてやってきたゲーセンで、大神の声が聞こえた。
 向かい合っているのは恥ずかしそうに顔を赤らめる他校の女子。
 ……おお、また告られてるよ大神は。
 高身長で容姿も整っているから、こうして告白されるのも珍しくない。
 おそらくこの次に待ち構えているのは「誰とも付き合う気がない」だろう。案の定、そっくりそのままの言葉が聞こえてくるものだから、定型文にも程がある。
 そんな光景を眺めながら、自販機の前でペットボトルが開かず苦戦していると、ひょいっと手元からそれがなくなった。
「姫は握力もない、と」
「いや、変なこと覚えなくていいから」
 高校に入ってすぐ友達になった白井(しらい)だ。黒髪の短髪で凛々しい顔立ちをしているが、人懐っこい性格で高校に入ってすぐ友達になった。
 きゅっと、独特な音を出しながらすぐにキャップは回った。今回は手が滑っただけで、握力は普通だと主張したい。男子の平均よりもちょい下かもしれないけども。
「自然と覚えるもんなんだよ、姫と、ほら、あそこにいる大神のことは」
「なんでだよ」
「俺らのスターだからな」
 当たり前の顔でドヤられながら、ペットボトルが戻ってくる。ありがとうと伝えながら口に含んだところで、白井にじっと見つめられた。
「……なに?」
「いや、何回見ても、小鳩真尋(まひろ)改め姫の顔って天才的な作りだよな。神様、どんな配合したんだよ」
「フルネームで言うな」
「自称身長一六七センチと、きれいな顔立ちで北高の姫ポジ。特殊な層からは熱烈な愛を受ける毎日。愛されてるよ、お前は」
「……自称はいらない」
「俺が女だったら真っ先に友達になるね」
「今と変わんないじゃん」
 それもそうか、と納得した顔で、白井は大神がいた方向を見る。
「そんで、あそこにいる大神清春(きよはら)も顔がすげえんだよ。身長一八二センチっていう高身長も高ポイントだよな。入学当初からやべえやつがいるって噂になるほどの顔面だし、爽やかなイケメン委員長として人気を博し、姫と同じく大注目の一年だから」
 羨ましい要素しかねえわ、とつぶやいた白井がわざとらしくため息をついた。
 この男から「姫」と呼ばれるようになり、本名である小鳩真尋をもじって「まひめ」と、周りからも呼ばれるようになった。面倒だから放置している。
「俺、お試しで付き合うってよく分からないんですよ。気軽に返品できるようなものでもないし」
 おっと、大神への告白はまだ続いていた。
 今のところ告っている女の子の声はハッキリと聞こえてこない。けれど、鼻をすする音はしている。勇者よ、ご愁傷様だ。
「今日も笑顔でバッサリだなあ、大神サン」
「あー……顔と声だけは爽やかなんだけど」
 軽く微笑んでいるのに、実際に言っていることは辛辣だ。
 大神は人気者で友達も多い。常に誰かに話しかけられていて、ひとりでいるほうが珍しいくらいだ。
 他校の女子から告られているのもよく見かける。そのたびに大神は笑顔で振ることでも有名だった。
「大神って前世なにしたんだろ」
「人類ざっと一億は救ってねえとあれにはなれねえだろ」
「だよな」
 ふっと、視界の端で大神のさらりとした髪が見えた。
 どうやら退散するらしい。女の子は置き去りだ。大神が俺の目の前を横切っていく。
 ……この頬に、俺はこの前キスしたんだよな。
 そんなことを考えて、すぐに視線を逸らす。
 断トツの人気を誇りながら、本人は彼女を作る気が全くないらしい。
「なんで俺は大神じゃないんだろ」
 生まれてこのかた、異性から告白されたことがない。
 はあ、とため息をつきしゃがみこむと白井が「おいおい」とげんなりした顔を見せた。
「姫がそんなヤンキー座りすんなよ。俺の理想が壊れるだろうが」
 すると一緒にゲーセンに来ていたクラスメイトたちが同調するように「そうだそうだ」と声をあげる。
「姫はヤンキーになるもんじゃないよ」
「姫は可愛いままでいてくれよ」
「俺たちにはお前しかオアシスがないんだから」
 そして俺は姫扱いをされる始末。
 望んでそのポジションを獲得しにいったわけではない。ただ、男子校だからという理由で、この地位についてしまった。
「なあ、まひめ~」
 大神と一緒にゲーセンに来ていた山田が絡んできた。背後から思いっきり抱きしめられ、あまりの力強さに息ができない。
「なっ、ぐるじい……力加減バグっでる」
「振られた俺を慰めてくれよお」
 この短時間で、告白されている人間と振られた人間がいるのか。あまりにも世界が狭い。そして天と地の差がある。
 無事に山田から解放され、「誰に?」と一応話に付き合ってやる。
金城(かねしろ)高校の柚丸(ゆずまる)さん」
「え、金城って……」
 たしか、大神に告白していた女の子の制服があそこだ。もう姿がなくなっているけど。
「もしかして、大神に告ってたって相手って……?」
「ばっか、傷口を広げてくるんじゃねえよ!」
 バシッと背中を叩かれた。
 つまるところ、俺と同じように告白現場を見ていたらしい。そして間接的に振られたというわけだ。
「でも、山田はまだ告ったわけじゃないんでしょ?」
「ないけど、好きな人の好きな人が大神だったら(いくさ)には挑まねえよ」
 山田はよく大神と一緒にいる。ニコイチみたいなものだと山田が豪語していた。「そういうの無理」と大神は笑っていたけど。
 正直、片思いすら経験していない俺にとって、告白とは無縁の世界だ。
 それでも大神と勝負することになったら、山田のように諦めてしまう気持ちは分かる。
「なんであいつなんだよ。顔がよくて性格もいいだけじゃねえか」
「それで十分だろうとも」
「まひめも大神派なのか!!」
「いや、なんていうか、顔がいいっていうのは本能的にも惹かれるところはあるだろうし」
「じゃあ顔がいい基準を俺にしてくれよ~なんで大神なんだよ~」
 今日の山田の構ってぶりはひどい。
 たしかに大神はモテすぎてしまう。これでもかというほど、女の子たちに告白されるくせに、自分のテリトリーには入れない。
 俺だったら、とりあえず「いいよ」と答えてしまいそうだ。
 誰に対しても平等で、ああいう男が生徒会長とかしたら、学校は簡単に平和になる気がする。とりあえず、みんながまず大神を好きになって、大神のことしか考えられなくなって、毎日楽しく学校に通えるはずだ。うん、俺がそうだ。
 でも、なんで大神は彼女を作らないんだろう。
 彼女っていう存在に縛られたくないとか? ひとりがよっぽど好きという可能性もある。
 それか、恋愛に興味がないとかトラウマがあるとか。
 いずれにせよ、その理由は仲がいいメンバーにも明かされていないらしい。
 ついさっき、横切っていった大神の姿を思い出す。
 ……一瞬、目が合ったような気がしたけど、あれは俺の気のせいだろうか。