「い……いたんだ」
「いたよ。小鳩の人生初めての告白現場」
「わざわざ言わなくても」
「そ? 名残惜しそうに見てたようだけど?」
名残惜しいという言葉が引っかかった。棘があるように聞こえたからだ。
「……そうかも、惜しいことしたかな」
「へえ?」
「ほら、初めての告白だったし。もう少しちゃんと受け止めたほうがよかったかも」
俺と大神の関係が曖昧で、だからムキになったところもある。
だって、もう大神次第だ。俺は好きって言った。大神も好きだって言ってくれたけど、それは友達としての好きかもしれない。
だとしたら、まだ戻れる。
クラスメイトでも、友達でもない関係になる前に、戻れるはずだ。
それで大神と前みたいに話せるなら、そっちのほうがいい。
「それ、俺への当てつけだったりすんの?」
言葉に詰まった。当てつけだったから。
でも、俺たちは友達として好きってことでいい。
いざ大神を前にして、こうして話せなくなる未来があると思うと怖くなった。
だったら、好きは、友達としてでいい。
「あー残念だなあ、うん、残念だ」
もういっそ、さっさと帰ってしまおう。じゃあ、と大神の横を通りすぎようとしたとき。
「なあ」
大神とは思えない低い声とともに、いきなり肩を強引に掴まれた。
「俺のこと好きなんじゃないのかよ」
大神のきれいな顔が迫って、それから逃げるように後ずさったら、今度は壁に押し付けられた。
「小鳩がよく分かんないんだけど」
……なんだ、これ。
「分かんないって……分かんないのは大神のほうだろ」
「……は?」
「俺の気持ち知ってるくせに」
帰ろうとしたのに、なんで引き止めるんだよ。これじゃあ、言いたくないことまで口にしてしまう。
「そっちは俺のこと友達だと思ってるかもしれないけど、俺は大神のこと好きだよ」
「それは俺だって答えただろ」
「大神と俺じゃ、好きがちがうんだよ!」
声が大きくなる。校門だ。誰かに見られたら終わりなのに、抑えつけていた感情がどんどん言葉になり、大神にぶつけてしまう。
「俺は大神のこと本気で……本気で、好きなんだよ」
あー……やぱい。なんか泣けてきた。ださい、すっごいださい。
こんなことで泣くとは思わなかった。高校生なのに。大神が目の前にいるのに。ふざけんなよ、俺。
「なんで……泣いてんの」
ふと聞こえた声に視線を上げると、なぜか大神がありえないほど狼狽えている。
クラスメイトが突然泣き出すから、どう対応したらいいか分からないのかもしれない。
だからって、涙はコントロールできるものじゃない。俺だって止めたいのに、ボロボロこぼれてくる。
「……大神には関係ない」
「あるだろ」
「ない」
「ある」
「ない」
「俺ら付き合ってるんじゃないの?」
「……え?」
付き合って……る?
聞こえてきた内容が信じられなくて大神を見上げた。
「好きって言っていたのは嘘だった?」
大神が切なそうに、俺を見つめている。
「う、嘘じゃない」
「俺も小鳩のこと好きって言ったじゃん。なんで友達として受け止めてんの」
「それは……」
信じられないからだ。
大神が俺のことを恋愛対象として好きだなんて。
「今だって女の子に告白されてるし」
「こ、断りました」
申し訳なかったけど、大神のことを好きだったし、気持ちに応えられないと言ったはずだ。
はあ、と大神がため息をつく。
「当たり前でしょ。小鳩は俺が好きなんだから」
「で、でも! 大神は俺のこと本気で――」
ぐっと顔が近づいたときには、もう大神の唇が当たっていた。
いろんな感情が頭の中で駆け巡っていく。それに、今起こっていることが信じられない。
俺、大神とキスしてんの?
柔らかくて、温かい唇が離れていく。
「言ったじゃん、キスする相手は誰でもいいわけじゃないって。彼女作らないのは小鳩がいるからだって」
「……だから、それは」
「小鳩が好きだってずっと言ってる。お前よりも先に好きなんだよ、こっちは」
「…………は?」
俺より先に好き? 大神が?
「バスの中で小鳩から告られたとき、どれだけうれしかったか」
「う、うそだ……。だって、もし本当なら俺たちは付き合うとかそういう展開になってるはずで」
「小鳩を大事にしたいから、気安くそういうこと言えなかったってだけ」
静かに、けれど大きな熱を持った瞳で大神は俺を射貫いていた。
「俺は小鳩のこと好きだし、でも本気じゃないって思われるのが一番嫌だった」
「……本気じゃないって、なんで俺がそんなこと思うんだよ」
「顔で好きになったとか思われたくなかった」
「顔って……」
大神だけだった。俺のこと、顔についてからかってこないのは。
一貫してずっと「小鳩」だった。でもそこには、好きが隠されているなんて気づけるわけもない。
「さっきの告白だって、俺がどんな気持ちで聞いてたか小鳩に分かる?」
長いまつ毛が震えている。泣いてるわけじゃない。でも艶っぽいその瞳は、初めて見る大神だ。
「大事にしたい。でも俺、かなり嫉妬深いと思う」
「そうなの?」
「正直、白井には近づいてほしくないくらい」
「そ……それは、嫉妬深いね」
「だから、もう付き合うのは決定」
いい?と聞かれ、なんとかうなずく。
そっか、俺たち付き合ってるのか。いや、付き合っていたのか。
「白井とは仲良くしてもいいけど、こういうことはしないで」
顔を近づけられて、大神の顔があまりにもきれいで見惚れてしまった。
……こんなときでも、俺は大神のことで頭がいっぱいなんだな。
俺よりも背が高い大神の肩に手を伸ばして、それから今度はこっちからキスをする。
「こういうことは、大神としかしないよ」
「……不意打ちじゃん」
珍しく大神が照れた顔を見せる。
そうか、こんな顔するんだ。皆の前で見せる顔とは全然ちがうじゃん。
「大神に嫉妬してもらえるならうれしいよ。あ、変に嫉妬させたいわけじゃないんだけど」
「分かってる」
そう言って、今日初めて安心したような表情を浮かべた大神に、俺も胸をなでおろした。
大神の隣にいたい。
大神が見ている景色を、俺も見たい。同じものを見ていきたい。
もう遠くから見ているだけじゃ、足りないんだから。
「大神しか見えないくらい好きだよ」
「…………」
「大神?」
目は合ってる……よな?
下から覗き込むけど、どこからどう見てもフリーズしている。
「おーい、大神」
「……死にそー」
「え?」
「小鳩からの攻めはさすがに昇天もんだろ」
攻め?
昇天?
分からない単語がぽんぽん出されて追いつかない。
はあああ、と大神が両手で顔を覆った。
「……俺が悪かったです、ごめんなさい、小鳩が大正解です」
「ど、どうした?」
「生涯かけて愛していくし、小鳩より先には死なないように努力する」
「待て待て、話が飛躍してない!?」
愛とか死とか、普通の会話では出てこない。つか、大神ってこんなキャラだったっけ。
大神のものすごく整った顔が近づいて、思わずキスされると身構えたけど、そのまま俺の肩に顎をのせた。
「はあ、幸せ。俺、死ぬんかな」
「いや、さっき俺より先に死なないように努力とかなんとか言ってたよね?」
「だめだ、頭がパンクしてる。とりあえず好き」
「う、うん。俺も」
さすがにこの展開は想像してなかった。
「あのー……さ、大神」
「ん」
「ちょっと、これ、結構危ういって言いますか」
「どのあたりが?」
「これ! この、これ! 今さらだけど、ほかの人が見たらおどろくっていうか」
キスまでしといて何言ってんだって話だ。でも、冷静になったら、今までの時間、本当に危なかった。
「ちょっと待って。今、人生で最高な瞬間を噛みしめてるところだから」
「噛みしめてくれるのはありがたいけども……!」
幸い誰も通っていない。
一応、ここは学校の前で、誰もが通る場所のはず。
「小鳩はなんか余裕そうだね」
今度は額で肩をぐりぐりとされる。え、なに、不貞腐れてんの?
「よ、余裕じゃないよ。ただ、大神はトップだから」
「出た、トップ」
「しかも、大神はトップオブトップで」
「俺にとっても小鳩はトップオブトップ」
「うん、それは……は!?」
「あ、小鳩がそうなるんだ」
「俺がトップ……いや、もうちょっとくどくなってきたから言わないけどさ」
大神の背中が丸まって、なんかそれがちょっと可愛く思えて……ちょっとだけ撫(な)でてみたりする。
大神を可愛いって思う日がくるなんて。
「ま、とりあえずさ」
すっと、首筋を大神の長い指が滑っていく。「ひっ」と声を上げた俺を見て、楽しそうに笑いながら離れていく。
「これからよろしくね、小鳩」
大神は、ちょっと柔らかい言い方をして、今まで見たことのないような穏やかな顔で俺を見ていた。
「いたよ。小鳩の人生初めての告白現場」
「わざわざ言わなくても」
「そ? 名残惜しそうに見てたようだけど?」
名残惜しいという言葉が引っかかった。棘があるように聞こえたからだ。
「……そうかも、惜しいことしたかな」
「へえ?」
「ほら、初めての告白だったし。もう少しちゃんと受け止めたほうがよかったかも」
俺と大神の関係が曖昧で、だからムキになったところもある。
だって、もう大神次第だ。俺は好きって言った。大神も好きだって言ってくれたけど、それは友達としての好きかもしれない。
だとしたら、まだ戻れる。
クラスメイトでも、友達でもない関係になる前に、戻れるはずだ。
それで大神と前みたいに話せるなら、そっちのほうがいい。
「それ、俺への当てつけだったりすんの?」
言葉に詰まった。当てつけだったから。
でも、俺たちは友達として好きってことでいい。
いざ大神を前にして、こうして話せなくなる未来があると思うと怖くなった。
だったら、好きは、友達としてでいい。
「あー残念だなあ、うん、残念だ」
もういっそ、さっさと帰ってしまおう。じゃあ、と大神の横を通りすぎようとしたとき。
「なあ」
大神とは思えない低い声とともに、いきなり肩を強引に掴まれた。
「俺のこと好きなんじゃないのかよ」
大神のきれいな顔が迫って、それから逃げるように後ずさったら、今度は壁に押し付けられた。
「小鳩がよく分かんないんだけど」
……なんだ、これ。
「分かんないって……分かんないのは大神のほうだろ」
「……は?」
「俺の気持ち知ってるくせに」
帰ろうとしたのに、なんで引き止めるんだよ。これじゃあ、言いたくないことまで口にしてしまう。
「そっちは俺のこと友達だと思ってるかもしれないけど、俺は大神のこと好きだよ」
「それは俺だって答えただろ」
「大神と俺じゃ、好きがちがうんだよ!」
声が大きくなる。校門だ。誰かに見られたら終わりなのに、抑えつけていた感情がどんどん言葉になり、大神にぶつけてしまう。
「俺は大神のこと本気で……本気で、好きなんだよ」
あー……やぱい。なんか泣けてきた。ださい、すっごいださい。
こんなことで泣くとは思わなかった。高校生なのに。大神が目の前にいるのに。ふざけんなよ、俺。
「なんで……泣いてんの」
ふと聞こえた声に視線を上げると、なぜか大神がありえないほど狼狽えている。
クラスメイトが突然泣き出すから、どう対応したらいいか分からないのかもしれない。
だからって、涙はコントロールできるものじゃない。俺だって止めたいのに、ボロボロこぼれてくる。
「……大神には関係ない」
「あるだろ」
「ない」
「ある」
「ない」
「俺ら付き合ってるんじゃないの?」
「……え?」
付き合って……る?
聞こえてきた内容が信じられなくて大神を見上げた。
「好きって言っていたのは嘘だった?」
大神が切なそうに、俺を見つめている。
「う、嘘じゃない」
「俺も小鳩のこと好きって言ったじゃん。なんで友達として受け止めてんの」
「それは……」
信じられないからだ。
大神が俺のことを恋愛対象として好きだなんて。
「今だって女の子に告白されてるし」
「こ、断りました」
申し訳なかったけど、大神のことを好きだったし、気持ちに応えられないと言ったはずだ。
はあ、と大神がため息をつく。
「当たり前でしょ。小鳩は俺が好きなんだから」
「で、でも! 大神は俺のこと本気で――」
ぐっと顔が近づいたときには、もう大神の唇が当たっていた。
いろんな感情が頭の中で駆け巡っていく。それに、今起こっていることが信じられない。
俺、大神とキスしてんの?
柔らかくて、温かい唇が離れていく。
「言ったじゃん、キスする相手は誰でもいいわけじゃないって。彼女作らないのは小鳩がいるからだって」
「……だから、それは」
「小鳩が好きだってずっと言ってる。お前よりも先に好きなんだよ、こっちは」
「…………は?」
俺より先に好き? 大神が?
「バスの中で小鳩から告られたとき、どれだけうれしかったか」
「う、うそだ……。だって、もし本当なら俺たちは付き合うとかそういう展開になってるはずで」
「小鳩を大事にしたいから、気安くそういうこと言えなかったってだけ」
静かに、けれど大きな熱を持った瞳で大神は俺を射貫いていた。
「俺は小鳩のこと好きだし、でも本気じゃないって思われるのが一番嫌だった」
「……本気じゃないって、なんで俺がそんなこと思うんだよ」
「顔で好きになったとか思われたくなかった」
「顔って……」
大神だけだった。俺のこと、顔についてからかってこないのは。
一貫してずっと「小鳩」だった。でもそこには、好きが隠されているなんて気づけるわけもない。
「さっきの告白だって、俺がどんな気持ちで聞いてたか小鳩に分かる?」
長いまつ毛が震えている。泣いてるわけじゃない。でも艶っぽいその瞳は、初めて見る大神だ。
「大事にしたい。でも俺、かなり嫉妬深いと思う」
「そうなの?」
「正直、白井には近づいてほしくないくらい」
「そ……それは、嫉妬深いね」
「だから、もう付き合うのは決定」
いい?と聞かれ、なんとかうなずく。
そっか、俺たち付き合ってるのか。いや、付き合っていたのか。
「白井とは仲良くしてもいいけど、こういうことはしないで」
顔を近づけられて、大神の顔があまりにもきれいで見惚れてしまった。
……こんなときでも、俺は大神のことで頭がいっぱいなんだな。
俺よりも背が高い大神の肩に手を伸ばして、それから今度はこっちからキスをする。
「こういうことは、大神としかしないよ」
「……不意打ちじゃん」
珍しく大神が照れた顔を見せる。
そうか、こんな顔するんだ。皆の前で見せる顔とは全然ちがうじゃん。
「大神に嫉妬してもらえるならうれしいよ。あ、変に嫉妬させたいわけじゃないんだけど」
「分かってる」
そう言って、今日初めて安心したような表情を浮かべた大神に、俺も胸をなでおろした。
大神の隣にいたい。
大神が見ている景色を、俺も見たい。同じものを見ていきたい。
もう遠くから見ているだけじゃ、足りないんだから。
「大神しか見えないくらい好きだよ」
「…………」
「大神?」
目は合ってる……よな?
下から覗き込むけど、どこからどう見てもフリーズしている。
「おーい、大神」
「……死にそー」
「え?」
「小鳩からの攻めはさすがに昇天もんだろ」
攻め?
昇天?
分からない単語がぽんぽん出されて追いつかない。
はあああ、と大神が両手で顔を覆った。
「……俺が悪かったです、ごめんなさい、小鳩が大正解です」
「ど、どうした?」
「生涯かけて愛していくし、小鳩より先には死なないように努力する」
「待て待て、話が飛躍してない!?」
愛とか死とか、普通の会話では出てこない。つか、大神ってこんなキャラだったっけ。
大神のものすごく整った顔が近づいて、思わずキスされると身構えたけど、そのまま俺の肩に顎をのせた。
「はあ、幸せ。俺、死ぬんかな」
「いや、さっき俺より先に死なないように努力とかなんとか言ってたよね?」
「だめだ、頭がパンクしてる。とりあえず好き」
「う、うん。俺も」
さすがにこの展開は想像してなかった。
「あのー……さ、大神」
「ん」
「ちょっと、これ、結構危ういって言いますか」
「どのあたりが?」
「これ! この、これ! 今さらだけど、ほかの人が見たらおどろくっていうか」
キスまでしといて何言ってんだって話だ。でも、冷静になったら、今までの時間、本当に危なかった。
「ちょっと待って。今、人生で最高な瞬間を噛みしめてるところだから」
「噛みしめてくれるのはありがたいけども……!」
幸い誰も通っていない。
一応、ここは学校の前で、誰もが通る場所のはず。
「小鳩はなんか余裕そうだね」
今度は額で肩をぐりぐりとされる。え、なに、不貞腐れてんの?
「よ、余裕じゃないよ。ただ、大神はトップだから」
「出た、トップ」
「しかも、大神はトップオブトップで」
「俺にとっても小鳩はトップオブトップ」
「うん、それは……は!?」
「あ、小鳩がそうなるんだ」
「俺がトップ……いや、もうちょっとくどくなってきたから言わないけどさ」
大神の背中が丸まって、なんかそれがちょっと可愛く思えて……ちょっとだけ撫(な)でてみたりする。
大神を可愛いって思う日がくるなんて。
「ま、とりあえずさ」
すっと、首筋を大神の長い指が滑っていく。「ひっ」と声を上げた俺を見て、楽しそうに笑いながら離れていく。
「これからよろしくね、小鳩」
大神は、ちょっと柔らかい言い方をして、今まで見たことのないような穏やかな顔で俺を見ていた。


