「大神~~~」
翌日、大神グループが廊下でたむろしている姿を見かけた。
そして、あろうことか山田が大神に抱きついた。
えっ。
さすがにそれはやりすぎではないんですか?
「あっためて」
「あつくるしい」
「えー、この肌寒いときに何言っちゃってるんですかい?」
大神は山田を引きはがすこともなく、されるがままだ。
……いいな、俺も大神に抱きつきたい。
ってかなんで山田は大神に抱きつくことが許されているんだ。
俺だって大神に温めてほしいし。
あ、そうか。
大神は、白井が俺に抱きつくことをよく思ってなかった。
それって、こういう気持ちだったのかな。
たしかにイヤだな、好きな人が自分以外に抱きつかれている光景は。
……でも、それは俺が大神のことを好きだから、そう思うだけで、大神はどうなんだろう。
……どういう意味で大神は言ったんだ。
「いい加減離れろ」
大神がボコッと山田の頭を殴って、「いたああい」と山田が泣き真似をして離れていった。
きっと、大神は山田にするみたいに俺のことを殴ったりしない。
だからなのか、山田を羨ましく思ってしまう。
どう見ても、あのふたりは気心知れた仲だ。
いっそ、こっぴどく振られてしまえばよかった。
そうしたら、こんなに惨めな気持ちになることもなかっただろう。
大神に近づくこともできなくて、気持ちが伝わっても進展はなくて。
はっきり拒絶してくれたら、次に進めたかもしれない。
今の状況を、どうしたらいいのか分からない。
そもそも大神を好きになるって、やっぱいけないことだったのか。
教室に着くと、白井が「あ、やっと来た」となぜか出迎えられた。
「はい、これ」
渡されたのは白井には似つかわしくないピンクの封筒。
「白井ってこういう系統が好きなんだ」
「俺が選ぶとしたらファンシーすぎんだろ。姫にだって、他校の女子が」
「……は?」
俺に?
こんなこと今までなかった。
「とか言って、またじいさんの居残り案件だろ」
「こんな手の込んだことしねえわ」
「え、ガチで?」
「今日学校に来る前に校門の前で渡されたんだよ。お前に渡してほしいって」
一瞬俺にかと思ってさあ、と嘆く白井を横目に、俺は渡された封筒を見つめた。
嘘だろ。俺に? おそるおそる封筒を受け取る。
「……もしかして、他校の女の子からもからかわれてんのかな」
「それはあるかもな」
もう読むのが怖い。
「俺が読んでいいと思う?」
「俺の知ってる小鳩真尋ならいいんじゃね?」
「まあ、俺ってことにするか」
便せんには桜の花びらが描かれ、手紙には「好きです。十六時、北原高校の正門前で待っています」と書かれていた。
好きって、俺が知っている好きと同じ意味、だよな?
「この手紙、告白以外にどんな可能性がある?」
「素直に受け取れよ。まあ告発とか」
「こくは、まで同じなのに恐ろしい……!」
「お前から言ってきたんだろ。本気の告白かもしれねえぞ」
「そう、か」
でも、そうだったら、どうしよう。
女の子から告白されるようなシチュエーションを考えないわけではなかった。
それこそ、大神に出会うまでは。
付き合う云々は自然と女の子を想像していたし、いつか俺にも彼女ができるのかなと漠然と考えていたこともある。
だけど今、大神の存在を知ってしまった。
「……念のため、自惚れないほうがいいかな、白井」
「それは、いえすだな」
そして放課後。正門前で待機していた俺に、可愛らしい女の子が駆け寄ってきた。さらりとした黒髪をなびかせて、礼儀正しくお辞儀をした。
「……来てくれてありがとうございます」
「いや、こっちこそ」
手紙に名前は書かれていなかった。
彼女の頬が薄く桃色に染まっている。緊張しているのかもしれない。
これ、演技ってことはないよね?
誰かに言わされているとか、そんな雰囲気じゃなくて、本当に俺に好意を持ってくれてるやつだと伝わってくる。
そもそも女の子ひとりで男子校の前に来るなんて、勇気がいるはずだ。
疑ったりして申し訳ない。
「あの、手紙に書いたんですが……その、好きです。付き合ってください……!」
人生で初めての告白。
もし、これで俺が「お願いします」なんて答えたら、付き合うことになるんだろうか。
今日から俺はこの子の彼氏で、一か月とか、半年の記念日を過ごしていく……?
「あ、ありがとうございます。その、なんで俺だったりするか聞いてもいいですか……?」
告白されたのはうれしい。だけど、今まで女の子にとって俺は、ほとんど異性ではかった。
男として扱われることなんてなく、ただ可愛いものとして見られるだけ。
それなのに、告白をしてもらえるなんて正直信じられない。
女の子ははっとしたようにうつむいて、それから視線を俺の後ろへと移した。追えば、少し離れたところにバス停がある。
「私の家、ここから近いんです。北原高校から近いバス停がある道もよく通るんですが、ベンチ座らないんだって思って」
ああ、と少し古くなったベンチを思い出す。
「誰もいないのに、いつも立って待っているのを見てて」
なるほど。
特別な理由はない。ただ立って待っていたというだけだ。
でも立っているのは俺だけじゃない。最近では、その隣に大神がいた。
この子には大神が見えていなかったのだろうか。俺が大神しか見えていなかったように、この子は俺のことだけを見ていてくれたのかもしれない。
それはとても、うれしいことだ。
女の子から好意をもたれることは初めてだから、ちゃんとした言葉で返事しなきゃと思う。
「優しそうだなっていうところから……だんだん好きになりました」
理由から、この子の誠実さがうかがえる。
この子もきっと、同じような状況になったとき、ベンチに座らないんだろうなって。
付き合うなら、そういう子がいいって思う。優しくて、礼儀正しくて、自分よりも身長が低くて。
付き合えたら、きっと幸せな時間を過ごせるんだろうなって、ものすごく簡単に想像できるのに。
「うれしいけど、……ごめんなさい」
それなのに、目の前の彼女をどんどん上書きしていくみたいに大神のことが忘れられない。
大神と付き合える世界線なんてどこにもないのに。
それでも大神が頭から離れない。
「彼女、作る気ない感じですか?」
「……俺も、好きな人がいて」
たとえ叶わなくても、それでも大神のことを想いながら誰かと付き合うなんてことはできない。
心に大神がいる限り、俺はこの子のことをいつまでも裏切り続けてしまう。
だって、この子への好きが大神よりも上回ることはないから。
「気持ちに応えらなくて……ごめんなさい」
「どうして謝るんですか」
「好きって言うのは勇気がいるのに、こんな答えしかできないから」
大神は、女の子たちを振るとき、いつもどんな気持ちでいるんだろう。
申し訳ないなって思ったりするんだろうか。今の俺みたいに。
こんなときでも、やっぱり大神のことばかり考えている。
「……そんなに、好きなんですね」
「うん」
「好きな人のことを忘れなくてもいいから、それでも付き合ってほしいって言ってもダメですか?」
分かるよ、その気持ち。
俺も大神に振られていたら、同じようなことを思ったかもしれない。
だけど、それはダメなんだ。
「自分を大切にしないと」
「……そういうところが、好きになったんだと思います」
女の子は深く息を吐くと、ここに到着したばかりのときに見せたきれいなお辞儀をして去っていった。
その背中は凛としていて、強い後ろ姿に憧れた。
「みーちゃった」
その声が聞こえた瞬間、勢いよく振り返る。
校舎を囲うフェンスにもたれていたのは大神だ。いつからここにいたのだろうか。
翌日、大神グループが廊下でたむろしている姿を見かけた。
そして、あろうことか山田が大神に抱きついた。
えっ。
さすがにそれはやりすぎではないんですか?
「あっためて」
「あつくるしい」
「えー、この肌寒いときに何言っちゃってるんですかい?」
大神は山田を引きはがすこともなく、されるがままだ。
……いいな、俺も大神に抱きつきたい。
ってかなんで山田は大神に抱きつくことが許されているんだ。
俺だって大神に温めてほしいし。
あ、そうか。
大神は、白井が俺に抱きつくことをよく思ってなかった。
それって、こういう気持ちだったのかな。
たしかにイヤだな、好きな人が自分以外に抱きつかれている光景は。
……でも、それは俺が大神のことを好きだから、そう思うだけで、大神はどうなんだろう。
……どういう意味で大神は言ったんだ。
「いい加減離れろ」
大神がボコッと山田の頭を殴って、「いたああい」と山田が泣き真似をして離れていった。
きっと、大神は山田にするみたいに俺のことを殴ったりしない。
だからなのか、山田を羨ましく思ってしまう。
どう見ても、あのふたりは気心知れた仲だ。
いっそ、こっぴどく振られてしまえばよかった。
そうしたら、こんなに惨めな気持ちになることもなかっただろう。
大神に近づくこともできなくて、気持ちが伝わっても進展はなくて。
はっきり拒絶してくれたら、次に進めたかもしれない。
今の状況を、どうしたらいいのか分からない。
そもそも大神を好きになるって、やっぱいけないことだったのか。
教室に着くと、白井が「あ、やっと来た」となぜか出迎えられた。
「はい、これ」
渡されたのは白井には似つかわしくないピンクの封筒。
「白井ってこういう系統が好きなんだ」
「俺が選ぶとしたらファンシーすぎんだろ。姫にだって、他校の女子が」
「……は?」
俺に?
こんなこと今までなかった。
「とか言って、またじいさんの居残り案件だろ」
「こんな手の込んだことしねえわ」
「え、ガチで?」
「今日学校に来る前に校門の前で渡されたんだよ。お前に渡してほしいって」
一瞬俺にかと思ってさあ、と嘆く白井を横目に、俺は渡された封筒を見つめた。
嘘だろ。俺に? おそるおそる封筒を受け取る。
「……もしかして、他校の女の子からもからかわれてんのかな」
「それはあるかもな」
もう読むのが怖い。
「俺が読んでいいと思う?」
「俺の知ってる小鳩真尋ならいいんじゃね?」
「まあ、俺ってことにするか」
便せんには桜の花びらが描かれ、手紙には「好きです。十六時、北原高校の正門前で待っています」と書かれていた。
好きって、俺が知っている好きと同じ意味、だよな?
「この手紙、告白以外にどんな可能性がある?」
「素直に受け取れよ。まあ告発とか」
「こくは、まで同じなのに恐ろしい……!」
「お前から言ってきたんだろ。本気の告白かもしれねえぞ」
「そう、か」
でも、そうだったら、どうしよう。
女の子から告白されるようなシチュエーションを考えないわけではなかった。
それこそ、大神に出会うまでは。
付き合う云々は自然と女の子を想像していたし、いつか俺にも彼女ができるのかなと漠然と考えていたこともある。
だけど今、大神の存在を知ってしまった。
「……念のため、自惚れないほうがいいかな、白井」
「それは、いえすだな」
そして放課後。正門前で待機していた俺に、可愛らしい女の子が駆け寄ってきた。さらりとした黒髪をなびかせて、礼儀正しくお辞儀をした。
「……来てくれてありがとうございます」
「いや、こっちこそ」
手紙に名前は書かれていなかった。
彼女の頬が薄く桃色に染まっている。緊張しているのかもしれない。
これ、演技ってことはないよね?
誰かに言わされているとか、そんな雰囲気じゃなくて、本当に俺に好意を持ってくれてるやつだと伝わってくる。
そもそも女の子ひとりで男子校の前に来るなんて、勇気がいるはずだ。
疑ったりして申し訳ない。
「あの、手紙に書いたんですが……その、好きです。付き合ってください……!」
人生で初めての告白。
もし、これで俺が「お願いします」なんて答えたら、付き合うことになるんだろうか。
今日から俺はこの子の彼氏で、一か月とか、半年の記念日を過ごしていく……?
「あ、ありがとうございます。その、なんで俺だったりするか聞いてもいいですか……?」
告白されたのはうれしい。だけど、今まで女の子にとって俺は、ほとんど異性ではかった。
男として扱われることなんてなく、ただ可愛いものとして見られるだけ。
それなのに、告白をしてもらえるなんて正直信じられない。
女の子ははっとしたようにうつむいて、それから視線を俺の後ろへと移した。追えば、少し離れたところにバス停がある。
「私の家、ここから近いんです。北原高校から近いバス停がある道もよく通るんですが、ベンチ座らないんだって思って」
ああ、と少し古くなったベンチを思い出す。
「誰もいないのに、いつも立って待っているのを見てて」
なるほど。
特別な理由はない。ただ立って待っていたというだけだ。
でも立っているのは俺だけじゃない。最近では、その隣に大神がいた。
この子には大神が見えていなかったのだろうか。俺が大神しか見えていなかったように、この子は俺のことだけを見ていてくれたのかもしれない。
それはとても、うれしいことだ。
女の子から好意をもたれることは初めてだから、ちゃんとした言葉で返事しなきゃと思う。
「優しそうだなっていうところから……だんだん好きになりました」
理由から、この子の誠実さがうかがえる。
この子もきっと、同じような状況になったとき、ベンチに座らないんだろうなって。
付き合うなら、そういう子がいいって思う。優しくて、礼儀正しくて、自分よりも身長が低くて。
付き合えたら、きっと幸せな時間を過ごせるんだろうなって、ものすごく簡単に想像できるのに。
「うれしいけど、……ごめんなさい」
それなのに、目の前の彼女をどんどん上書きしていくみたいに大神のことが忘れられない。
大神と付き合える世界線なんてどこにもないのに。
それでも大神が頭から離れない。
「彼女、作る気ない感じですか?」
「……俺も、好きな人がいて」
たとえ叶わなくても、それでも大神のことを想いながら誰かと付き合うなんてことはできない。
心に大神がいる限り、俺はこの子のことをいつまでも裏切り続けてしまう。
だって、この子への好きが大神よりも上回ることはないから。
「気持ちに応えらなくて……ごめんなさい」
「どうして謝るんですか」
「好きって言うのは勇気がいるのに、こんな答えしかできないから」
大神は、女の子たちを振るとき、いつもどんな気持ちでいるんだろう。
申し訳ないなって思ったりするんだろうか。今の俺みたいに。
こんなときでも、やっぱり大神のことばかり考えている。
「……そんなに、好きなんですね」
「うん」
「好きな人のことを忘れなくてもいいから、それでも付き合ってほしいって言ってもダメですか?」
分かるよ、その気持ち。
俺も大神に振られていたら、同じようなことを思ったかもしれない。
だけど、それはダメなんだ。
「自分を大切にしないと」
「……そういうところが、好きになったんだと思います」
女の子は深く息を吐くと、ここに到着したばかりのときに見せたきれいなお辞儀をして去っていった。
その背中は凛としていて、強い後ろ姿に憧れた。
「みーちゃった」
その声が聞こえた瞬間、勢いよく振り返る。
校舎を囲うフェンスにもたれていたのは大神だ。いつからここにいたのだろうか。


