不本意な姫ポジの俺とメンタル強めな一軍男子

 次の日から、俺と大神との距離は、縮まったわけでもなかった。
 大神は相変わらず山田や、派手なメンバーとつるんでいて、俺は白井とゲームに勤しんでいる。
 俺は、大神をただの友達だとは思ってない。
 でも、大神はどうだったんだろう。
 連絡先も交換してない。大神はSNSをやってはいるけど、ほとんど更新していない。俺もほぼ動かしてないアカウントだけ存在している。
 だからどうしても、直接話しかけるしかなかった。
 でも、なんて話す?
 昨日ぶり? いや、不自然すぎる。
「姫、購買行くぞ~」
 すでに廊下へと出ていた白井。もしかしたら昼は大神と一緒に食ったりするのかなって期待したのに、大神はいつものメンバーで食い始めた。
 ……やっぱり、俺ってなんか勘違いしてる?
 昨日のあれは、クラスメイトとしての普通の会話だったりするのか。
 そもそも、告白だと思われてない?
 いや、「本気?」って聞かれた。
 大神は俺のことを、白井たちと同じように姫ポジとして見ているのだろうか。
 恋愛対象として見られてない?
 それは当たり前か。俺、女の子じゃないし。ただの男だし。
「姫~」
「俺は姫じゃない。男だ」
「おお、なんか急にやさぐれてんじゃん」
 どしたどしたと白井が顔を覗き込んでくる。
「……やさぐれてない」
「でも、朝からずっとソワソワしてない? 白井の目を見くびらないでいただきたい」
「……ごめん、見くびってた」
 見くびってたんか~い、あはははは、と謎のテンションで盛り上がる。
 そして、すん、と素の顔に戻った。
「分かった、今日は昼を奢(おご)ってやりたい気持ちは山々だが、いろいろと事情があってな」
「奢る気ないなら提案すんな」
 「怖いわねぇ」と横目で俺を見る。そして「さ、売り切れる前にダッシュ」と駆け出す背中。
 白井にちょこちょことついていきながら、大神のことばかり考える。
 ……たしかめよう、本人に。
 昨日の「そういうことで」という意味を教えてもらうしか、このモヤモヤは消えない。


「……って、そううまくいかねえよなあ」
 がっくしと、通学リュックに顔を伏せる。
 帰りは声をかけようって思っていたのに、大神の通学バッグもなくなってるから、今日はもう帰ったのかもしれない。
 ひとり教室で待っているのも虚しくなって、諦めて学校を出る。少し歩いたところで、ふと会話が聞こえた。
「付き合っている人いないなら、付き合えない理由をください」
 まさかとは思うけど、告白?
 じゃあ、ちょい待て。これってあいつがいるのか。
「……それ、余計に俺が無理なやつなんですけど」
 やっぱり大神か。
 つーか、この文脈からして、付き合っている人はいないって答えてたんか……。
「でも本当に好きなんです。大神くんしか好きになれない」
 そして女の子のほうも愛が重い。大神本人に、それだけの気持ちをぶつけることができるなんてすごい。
 ……いや、待てよ。
 大神ってこういう告白も今まで何回とされてきているよな?
 激重感情とかもぶつけられてきているわけじゃん?
 それなのに、昨日の俺の告白みたいなやつって、ふわっとしてなかったっけ。切羽詰まっているようなものでもなかったし、本人に伝えたいわけでもなかった。
 油断してぽろっと出たものが、たまたま大神に聞こえただけだ。
 ……じゃあ、俺の気持ちは恋愛感情として捉えられてなかったってことになるのか。
 俺に告られて大神は戸惑っただろうし。それなのに無視するわけでも、からかうわけでも、ネタにするわけでもなく、ただ受け止めてもらったんだ。
 なんだ、よかったじゃん。俺の気持ちは受け止めてもらえたんだし。
 はあ、スッキリスッキリ。俺ってば頭わりい。
 ……とか誤魔化そうとするのに、さすがに限界だった。
 俺はどうしたらいいんだろう。大神のこと、このまま好きでいていいのかな。
 大神はそれを迷惑だと思わないのかな。
「姫~~~」
「うをっ」
 どこから出てきたのか白井が登場した。そして抱きついてくる。
「はあ~お前はやっぱり癒しだよ。絶滅すんなよ、俺のオアシス」
「どう頑張ったら絶滅できるんだよ」
「彼女作ったら」
「あー……そういう意味では絶滅しないかも」
 初恋は大神だった。
 大神を超える人を、俺は見つけられない。さっきの女の子みたいに。
「つーか、姫のタイプってどんなん?」
「この流れでそれ?」
「いや、聞いたことねえなと思って」
 白井とはそういう会話を真面目にしたことはないかもしれない。
 話題に上がるとすれば、ガチャがどうとかのゲームの話ばかりだ。
 そういう空間が俺は好きだったし、白井もそうだったと思う。
 だから、あえて恋愛にツッコんだ話をしてなかった。
「タイプは……なんかずっと見ていられる人っていうか」
 脳裏にはやっぱり、大神の姿があった。
 こういうとき、パッと思い浮かんでしまうくらいには、大神が俺のタイプだった。
 もう、告白の声は聞こえてこない。バス停にもいないから、今日は歩いて帰ったのか。
「ああ、分かる。俺が姫に思うやつだ。恋愛対象ではねえけど」
「……どうも」
 俺はがっつり恋愛対象になっちゃったんだよな。
 ずっと胸に秘めておくものだと思っていたのに、よりにもよって本人に好きって言うなんて。
「はあ~~~」
「おお、珍しい。姫が落ち込んでる」
「振られたんかな」
「え、オアシス早速なくなりかけてんじゃん! だめだって」
 ……大神は、どういう子がタイプなんだろう。
 少なくとも好きなタイプが俺になることはない。そんなことは分かっているのに、大神が誰かと付き合うとなったら、ちゃんとショックを受けるのだと思う。
 誰のものにもならないでほしい。付き合えないなら、大神はずっとフリーでいてほしい。
 こんなことを思ってしまう俺は最低だ。好きな人の幸せさえも願えないようなヤツだ。
 大神は愛想がいいけど、なにを考えているか分からないような人間だった。
 単純に「明るい奴」でもないことを知った。見えなかったところが見えてくるたびに、どんどん惹かれていった。
 それを恋と認めることが怖かっただけだ。