話はしてくれるし、笑っていたりもする。だけど、なんでこんな違和感が残るんだろう。
俺の勘違いでなければ、一緒にチラシを貼ってくれたときは、和やかな時間だったはずだ。
急に距離が近くなったと思ったのに……。しかも。
『小鳩がいるから』
あの言葉の意味は今もまだ分からないけど。
あれから、ちょくちょく話すようになって、安心していた。でも、大神と俺の間には、どこか見えない壁がある気がしてならない。
「俺もボウリングによく来るけど、上達しないよ」
白井がガーターを連発する中、俺も同じような結果ばかり出していた。
「あー、フォームが悪いからそれ直したほうがいいかも」
大神が、思い出すように言った。
「なるほど、フォームが問題だったのか……ん?」
さらっと言われたけど、それって俺のこと見てたってことだよな?
そうじゃないと、フォームがどうこうなんて言えなくないか?
「もしかして、俺のこと見ててくれた?」
「隣だから見えるよ。なんでそんな意外そうなの」
「いや、少なくとも俺のことは見てないかなって」
というよりも、俺の行動を見ていた人間なんていたのだろうか。
白井でさえ、自分のターンじゃないときは恨めしそうに隣のレーンを見ていた。
「俺のプレーに興味ある人なんて――」
「さすがに両手投げはレアだったけど」
「それも見てた!?」
見てたよ、と大神は目を細めて笑う。
あんなかっこ悪いところ、誰にも見られたくなかった。
「いつもは、あんな投げ方しないんだよ……」
両手投げなどという可愛らしいものを披露したかったわけではなかった。ただいろいろな不運が重なった成れの果てが両手だったというだけだ。
「いいんじゃない? 小鳩には小鳩の投げ方があって」
「頼むからそのテンションでマジレスしないで」
はたからすれば、俺がいつも両手で投げる人みたいになってるじゃん。
……いや、両手投げはいいと思う。
できれば、もうちょっとかっこいい投げ方がしたかっただけの話だ。
「っいた」
いきなり額を小突かれて、何事!?と大神を見上げた。犯人は俺を見て片眉を上げている。
「いろいろ考えていることを吹っ飛ばそうかなと思って」
「……大神ってエスパーかなにかなの?」
「あ、本当だったんだ」
「考えることが増えるんだよ、大神を前にしたら」
女の子たちに囲まれていたのに、なんで俺のこと見てたのかなとか。
俺がいるから、彼女を作らないとか。
そういうことを、考えたくなくても考えてしまう。
「俺?」
首を傾げた顔天才が、二、三歩と俺に歩み寄った。
「具体的にどういうことを考えていたのか聞きたいんだけど」
「……ち、近い」
「小鳩が気になること言うから」
さすがに男の俺でも、この近距離は耐えられそうにない。
変に動けば、それこそ唇にキスを――。
「あ、呼ばれてるわ」
なんて考えていたら、大神は呆気なく離れていった。
俺の後ろを見ていた大神につられて振り返ると、その先には「は・や・く」と急かす山田がいる。
「山田のやつ、今なら両手に花なのにな」
意地悪そうに微笑む横顔を見て、あえて早く戻らないんだなと気づいたりする。
いつの間にか白井はいなくなっている。どこ行ったんだ。もしかしたら、山田ひとりでは場が持たなくなってきているのかもしれない。
あまり大神を独占してもだめだよな。
「買いに行こうか」
本当は、大神とまだ一緒にいたい。
なんでだろう、大神は友達なのに。白井にはこんなこと思ったりしないのに。
ああ、だめだ。大神を前にすると、おかしくなる。
自販機にはあっという間に着いてしまった。なんか残念だ。
大神が自販機の前に立つ。ただ飲み物を選んでいるだけなのに、つい見惚れてしまう。
……いい匂い。どこの香水使ってんだろ。なんか気持ちが持っていかれそう。柔らかく甘い、でも爽やかさもある香り。香水なのか、それともシャンプーの香りなのか。
「……なに?」
「えっ」
気づけば大神との距離が近かった。
なんでこんなことに⁉ バカじゃん俺‼
絶対引かれた。最悪だ。大神もさすがにそっぽを向いてしまった。
「ご、ごめん。あの、なんか香水使ってんのかなって」
「使ってないけど」
「使ってないの!?」
え、じゃあ素でその匂いってこと?
フローラルも自然に放っちゃう系?
「そんなびっくりしなくても」
ふっと呆れたように笑って、大神は自販機からコーヒーの缶を取り出した。
……ブラックまで飲めるとかかっこよすぎだろ。
「じゃあ、どんどん渡していくから」
大神が自販機ボタンをどんどん押していく。出てくる飲み物はさっき要望で聞いたものばかりだ。
「あっ、待って! お金、俺が出すから」
「ほら早く」
なんだろう、この笑顔の圧。
受け取る瞬間、大神の指先に触れた。たったそれだけなのに、妙に意識してしまって、かっと顔が熱くなる。
……単純だ、俺。
ってか、俺がじゃけんで負けたのに、大神にお金出してもらうなんてやっぱりだめだ。
「大神、お金返すから」
受け取ったばかりの飲み物を近くに置こうとして、「小鳩」と耳元で呼ばれた。
「こういうときくらい、かっこつけさせてよ」
大神の目しか見えないくらい近くて、あまりにもきれいで、長いまつ毛が当たりそうだった。
「分かった?」
「わ、分かった……」
なんとか答えたら、満足そうにその顔は「ん」と満足そうにうなずいた。
結局、大神が全部飲み物を買ってくれた。
最初から最後までかっこいい。
「あれ……ひとり足りない」
お願いされたものを全部確認したところで、ひとり分足りないことに気づく。
「これは山田で、それからこれは……誰だっけ」
「小鳩が自分で選んでたよ」
「えっ!? あ、そっか。これ俺か」
「なんで自分が選んだやつ忘れるんだよ」
「……それどころじゃなかったんだよ」
大神の顔が近かったりして、そのすぐあとだったから、目についたものを選んでしまった。
「あ、白井の分がないのか」
危ない。すっかり友達の分を買い忘れるところだった。
俺の勘違いでなければ、一緒にチラシを貼ってくれたときは、和やかな時間だったはずだ。
急に距離が近くなったと思ったのに……。しかも。
『小鳩がいるから』
あの言葉の意味は今もまだ分からないけど。
あれから、ちょくちょく話すようになって、安心していた。でも、大神と俺の間には、どこか見えない壁がある気がしてならない。
「俺もボウリングによく来るけど、上達しないよ」
白井がガーターを連発する中、俺も同じような結果ばかり出していた。
「あー、フォームが悪いからそれ直したほうがいいかも」
大神が、思い出すように言った。
「なるほど、フォームが問題だったのか……ん?」
さらっと言われたけど、それって俺のこと見てたってことだよな?
そうじゃないと、フォームがどうこうなんて言えなくないか?
「もしかして、俺のこと見ててくれた?」
「隣だから見えるよ。なんでそんな意外そうなの」
「いや、少なくとも俺のことは見てないかなって」
というよりも、俺の行動を見ていた人間なんていたのだろうか。
白井でさえ、自分のターンじゃないときは恨めしそうに隣のレーンを見ていた。
「俺のプレーに興味ある人なんて――」
「さすがに両手投げはレアだったけど」
「それも見てた!?」
見てたよ、と大神は目を細めて笑う。
あんなかっこ悪いところ、誰にも見られたくなかった。
「いつもは、あんな投げ方しないんだよ……」
両手投げなどという可愛らしいものを披露したかったわけではなかった。ただいろいろな不運が重なった成れの果てが両手だったというだけだ。
「いいんじゃない? 小鳩には小鳩の投げ方があって」
「頼むからそのテンションでマジレスしないで」
はたからすれば、俺がいつも両手で投げる人みたいになってるじゃん。
……いや、両手投げはいいと思う。
できれば、もうちょっとかっこいい投げ方がしたかっただけの話だ。
「っいた」
いきなり額を小突かれて、何事!?と大神を見上げた。犯人は俺を見て片眉を上げている。
「いろいろ考えていることを吹っ飛ばそうかなと思って」
「……大神ってエスパーかなにかなの?」
「あ、本当だったんだ」
「考えることが増えるんだよ、大神を前にしたら」
女の子たちに囲まれていたのに、なんで俺のこと見てたのかなとか。
俺がいるから、彼女を作らないとか。
そういうことを、考えたくなくても考えてしまう。
「俺?」
首を傾げた顔天才が、二、三歩と俺に歩み寄った。
「具体的にどういうことを考えていたのか聞きたいんだけど」
「……ち、近い」
「小鳩が気になること言うから」
さすがに男の俺でも、この近距離は耐えられそうにない。
変に動けば、それこそ唇にキスを――。
「あ、呼ばれてるわ」
なんて考えていたら、大神は呆気なく離れていった。
俺の後ろを見ていた大神につられて振り返ると、その先には「は・や・く」と急かす山田がいる。
「山田のやつ、今なら両手に花なのにな」
意地悪そうに微笑む横顔を見て、あえて早く戻らないんだなと気づいたりする。
いつの間にか白井はいなくなっている。どこ行ったんだ。もしかしたら、山田ひとりでは場が持たなくなってきているのかもしれない。
あまり大神を独占してもだめだよな。
「買いに行こうか」
本当は、大神とまだ一緒にいたい。
なんでだろう、大神は友達なのに。白井にはこんなこと思ったりしないのに。
ああ、だめだ。大神を前にすると、おかしくなる。
自販機にはあっという間に着いてしまった。なんか残念だ。
大神が自販機の前に立つ。ただ飲み物を選んでいるだけなのに、つい見惚れてしまう。
……いい匂い。どこの香水使ってんだろ。なんか気持ちが持っていかれそう。柔らかく甘い、でも爽やかさもある香り。香水なのか、それともシャンプーの香りなのか。
「……なに?」
「えっ」
気づけば大神との距離が近かった。
なんでこんなことに⁉ バカじゃん俺‼
絶対引かれた。最悪だ。大神もさすがにそっぽを向いてしまった。
「ご、ごめん。あの、なんか香水使ってんのかなって」
「使ってないけど」
「使ってないの!?」
え、じゃあ素でその匂いってこと?
フローラルも自然に放っちゃう系?
「そんなびっくりしなくても」
ふっと呆れたように笑って、大神は自販機からコーヒーの缶を取り出した。
……ブラックまで飲めるとかかっこよすぎだろ。
「じゃあ、どんどん渡していくから」
大神が自販機ボタンをどんどん押していく。出てくる飲み物はさっき要望で聞いたものばかりだ。
「あっ、待って! お金、俺が出すから」
「ほら早く」
なんだろう、この笑顔の圧。
受け取る瞬間、大神の指先に触れた。たったそれだけなのに、妙に意識してしまって、かっと顔が熱くなる。
……単純だ、俺。
ってか、俺がじゃけんで負けたのに、大神にお金出してもらうなんてやっぱりだめだ。
「大神、お金返すから」
受け取ったばかりの飲み物を近くに置こうとして、「小鳩」と耳元で呼ばれた。
「こういうときくらい、かっこつけさせてよ」
大神の目しか見えないくらい近くて、あまりにもきれいで、長いまつ毛が当たりそうだった。
「分かった?」
「わ、分かった……」
なんとか答えたら、満足そうにその顔は「ん」と満足そうにうなずいた。
結局、大神が全部飲み物を買ってくれた。
最初から最後までかっこいい。
「あれ……ひとり足りない」
お願いされたものを全部確認したところで、ひとり分足りないことに気づく。
「これは山田で、それからこれは……誰だっけ」
「小鳩が自分で選んでたよ」
「えっ!? あ、そっか。これ俺か」
「なんで自分が選んだやつ忘れるんだよ」
「……それどころじゃなかったんだよ」
大神の顔が近かったりして、そのすぐあとだったから、目についたものを選んでしまった。
「あ、白井の分がないのか」
危ない。すっかり友達の分を買い忘れるところだった。


