不本意な姫ポジの俺とメンタル強めな一軍男子

「それに、小鳩は小鳩でしょ。姫枠とか関係ないから」
 顔こそはいつも通り爽やかなのに、どこか冷たい。
 そう思ったのは俺だけだったのか「そうそう!」と山田が便乗した。
「結局、小鳩が大神のほっぺにチューして終わったんだよ」
 なにその展開と女の子たちが笑う。俺も苦笑いだけする。でも大神は笑っていなかった。
 ボウリングの球をタオルで拭いたりして、会話から離脱した。言いたいことは済んだみたいな背中を見せて。
 ――小鳩は小鳩。
 それは、前に大神から言われたことがある言葉だ。
 正直、姫としてしか見られなかった俺の日常の中で、その言葉は新鮮だった。
「そうだぞ! 小鳩は小鳩だ!」
 なぜかこのタイミングで白井が会話に参戦してくる。じゃんけんでなにを出すのか決まったのだろう。あれだけ熱心に祈っていたのに、負けたら笑う。
「そっか、小鳩は小鳩だもんな! 俺も小鳩好きだったわ」
 そしてあっさりと山田は納得して、俺のことを好きだなんとかと言い出してくる。とりあえずそこはいつものノリだからどうでもいい。
 今日も大神の一言で場がきれいに収まった。
「ってことで、俺のかっこいい場面、今んとこゼロだから挽回させてもらいますっ!」
「どこで回収しようとしてんだ」
 大神が山田につっこむ。
「いいんだよ、細かいことは」
 そうして強制的に始まったじゃんけん大会。
 とりあえず三人に勝てばいい。山田が負けてくれたら一番いい。お前かよって誰もがツッコめる。
 「じゃんけーん」と山田が声を高らかに上げ、咄嗟にチョキを出した。
 その場に出てるのは、三人ともグーだった。
「ま、負けた……!」
「はい、姫のおごりね~!」
 いえーい、と山田が女の子たちとハイタッチしている。
 こういうときは言い出した奴が負ける説はなかったのか。なんで山田じゃないんだ。
 白井も「よっしゃ、金欠だから助かるんご」と謎の言葉で甘えてくる。気味が悪いからやめていただきたい。
「じゃあ、買ってくるよ。飲みたいものは……?」
 それぞれの希望を聞き出し、忘れないようにスマホにメモで残していく。
 あとは大神だけ、という状態になったとき、
「俺も行こうかな」
 すっと大神が立ち上がった。
「え? いや、大神は座ってていいよ。俺が負けたんだし」
「なにがあるか見て決めたいんだよね」
「あ……じゃあ一緒に行ったほうがいいか」
「そういうこと」
 ひとりで行くよりは寂しさは紛れるかも。
 それに、このタイミングで大神と話せたらいいなとかも思うし。
 さっきなにを考えていたのか、とか。俺が姫扱いされるのって引いていたりするのか、とか。
 ……いや、あまり弱気になるな。被害妄想だって可能性も高い。
「えええ、大神くん行っちゃうの~?」
 残念そうな女子の声が聞こえてくるが「俺がいるじゃん~」と山田がすかさず隣に座っていた。
 しばらく女の子たちを独占できるからか、かなりうれしそうな顔をしていた。
「小鳩、行こう」
「え、あ、うん」
 さっさと行ってしまう背中をなんとか追いかける。
 とりあえず、話はできそうだ。でもなんて切り出したらいいんだろう。
「まさかここで小鳩と会うとは思わなかった」
 悩んでいたら、大神から話しかけられた。
 そっか、いつの間にかしれっと合流していたから忘れてたけど、俺たちは別々でここに来たんだった。
「俺も思ってた。しかも大神の場合は女の子たちと一緒だし」
「本当は山田とふたりのはずだったんだけど。気づいたら女の子誘っていたらしい」
 ……ということは、大神が望んでいたわけではないと。
「そっか。山田らしいな」
 言ったら大神が来ないと踏んだのだろう。大正解かもしれない。
「俺、学校の外で結構大神を見かけたりしてるんだよ。この前とかゲーセン一緒だったし」
 一方的に見つけてるだけなんだけど。
「それなら、俺も小鳩と会ったりしてるよ」
「え?」
「この前もクレーンゲームで大負けしてたでしょ」
「えっ、もしかしてダイマルちゃんのビッグぬいぐるみ見てた!?」
 どうしても欲しくて三千円かけても取れなかったやつだ。
「あれ取れたとしても、どうやって持って帰るんだろうと思ってた。バスとか無理そうだし」
「それなら、おんぶして帰るつもりだったよ」
 こうやって、とぬいぐるみを背負った想定の真似をすると、大神の目はおどろいたように見開いた。
「あそこから家まで結構あるでしょ」
「一時間くらい?」
「一時間背負って帰るつもりだった?」
「うん、たまに休憩するつもりだったけど」
 耐えきれなくなったのか、大神はくすくすと笑い出す。
「一時間も背負って……絶対注目の的でしょ」
「でも家に持って帰るなら、そうするしかないし」
 じゃあさ、と大神がいいことを思いついたように言った。
「またチャレンジするときは俺呼んで」
「え、大神ってクレーンゲーム得意なの?」
「たまにやるけど、ほとんど取れるよ」
「そうなの!?」
 三千円かけても取れなかった俺が可哀想!
「で、取れたら小鳩の家まで持っていくし」
「大神が、あのばかでかぬいぐるみを持って……?」
 ショッキングイエローのダイマルちゃんを背負った大神を想像してみた。
「それこそ注目の的じゃない?」
「隣に小鳩がいるなら、注目は分散されるから問題ない」
 問題ないのか。大神が言うなら、まあそうなんだろうな。
 パコーン!と気持ちのいい音がボウリング会場に広がった。
 格好からしてプロ級の人たちが黙々と投げている。
「そういえば、大神ってボウリングもできちゃうんだな」
「遊んでたらできるよ」
「できないよ!?」
 ボウリングは回を重ねるごとに下手になっていくものだと俺は知った。
 いくら通ったところで上達しそうにない。白井に至っては「ボウリングができなくても人は生きていけるからな」と諦めていた。
「それだけなんでもできたら、そりゃあ女の子たちも大神に惚れるよ」
 山田がいても、女の子たちの視線は面白いほどに大神に注がれていた。
 あれでは山田がいじけたくなるのも分かる。かといって、女の子たちを呼んだのは山田本人なのだけど。
「うーん……どうだろうね」
 ふと、大神が見たこともないような笑い方をした。
 ……あれ、なんか。
 気のせいかもしれない。けど一瞬、今の大神はなんだか冷たかったような気がする。