「よっ、大神ファイト」
山田の声で隣のレーンを見ると、ちょうど大神がボールを構えていた。
もしここでガーターとか出したら、さすがの女の子も大神に引くんだろうか。
とかなんとか思っていたら、パコーンと小気味良い音が聞こえてきた。きれいに並んでいたボウリングのピンがひとつも残っていない。つまり全部倒したということで。
「ストライクかい!」
白井が悔しそうにつぶやいた。
「……ボウリングまで上手いんかい」
俺も俺でつぶやいてしまいたくなる。
あんなにも恵まれた顔を持ちながら、ボウリングまで上手ければ女の子がより一層大神から離れなくなる。
それはそれで悲しい。
あれ、悲しいってなんでだ?
大神が女の子にモテるのは今に始まったわけではない。
それなのに、悲しいなんて思ったりして。
……もしかして、あれか?
大神と少し仲良くなれたからって、見境なく嫉妬しているとか。その嫉妬した相手が、いよいよ女の子にまで飛んでしまっているとか。
いやあ、それはない……とは言えないか。
大神が誰かと話していると、心がちょっとざわっとする。
つい目で追ってしまうし、俺に見せていた顔とはちょっと違うなんて気にしたりもする。
大神と仲良くなりたいけど、これ以上仲良くなったら、友達ではなくなる。
だって、白井が誰と仲良くしていようが、正直興味がない。
顔が広いなって思ったりするくらいだ。
それなのに、大神に対しては、そう思えない自分がいる。
大神がボールを投げるまでの光景が目に焼きついていた。
血管が出た手の甲、肩甲骨のライン、Eライン最強の横顔。そういうものに見惚れていたと気づかされる。
「はいはい! ジュースじゃんけんやりまーす!」
大神にかっこいいところを奪われた反動か、山田の声がスタート時よりかなり大きくなっていた。そしてそのじゃんけんに、なぜか偶然居合わせただけの俺たちまで巻き込まれた。
王様ゲームといい、山田にはしょっちゅう巻き込まれてばかりだ。俺の意見なんて聞いてもらったためしがない。
白井に関しては「俺チョキ出すから、君はパー出してね」ととんでもない発言を女の子たちにしていた。男気がなさすぎる。負けてもらう前提で挑もうとしているなんて。
「あのさ、山田。俺も参加したほうがいいの?」
「なに言ってんだよ、まひめ! 人数多いほうが楽しいだろ。俺たちトモダチじゃん」
都合のいいところで発動される『トモダチ』。
仕方ない。山田は言い出したらしつこい。ここは潔く諦めたほうが身のため。
正直、じゃんけんの参加者は俺を合わせて六人いる。
ということは、負ける確率は六分の一。
こういうのは言い出した奴が負ける。だから山田が負けるはずだ。
そうだ、山田が負けたら一番ハッピーなんじゃないか?
盛り上がるだろうし、みんな遠慮なく山田にお願いできるだろうし。
「あ、ちょっと待った!」
いきなり山田が声を荒げた。何事かと思っていれば、急に「いいことひらめいたわ」なんて切り出す。
「ここは男だけでやったほうがよくね?」
……おいおい、俺の作戦が見事に打ち砕かれたじゃないか。
男だけということは、四人に絞られたということだ。
つまり確率も俺が負ける可能性がさっきよりも増えた。
山田はかっこつけたいのか、「え、悪いよ」と言っていた女の子たちの参加を認めなかった。
「男は黙って金を出せって、うちの母さんがうるせえんだよ」
このときばかりは「山田くん最高」と女の子たちからもてはやされていた。
「大神も参加だからな」
山田が大神の肩を強引に組むと「だろうね」と笑った。
「俺も女の子でいたかったけど」
「がっつり男だから……あ、小鳩は別か。姫枠だもんな」
山田にいきなり話を振られて戸惑った。ここにいる全員の視線が俺に集まる。
「え、姫って呼ばれてるんだ!」
さっき別の女の子とした話題がここでもくり返される。
白井がまた着替えの話を持ちだしてきそうで、きっと強く睨む。
「なんだよ、まだ話してねえって」
「話す気ではいたんじゃん」
聞いて呆れる。誰が男の着替えで盛り上がった男たちの話を聞きたいのだろうか。
「ねえ、本当に男の子なの?」
髪をゆるく巻いた子に、まあ、と苦笑が浮かぶ。
「戸籍上は男、かな」
ここで愛嬌でも振りまいて「俺は姫枠なんで、見逃してほしいな」などと言ってウインクするようなキャラだったらよかったのかもしれない。あいにく、俺にそこまでの度胸はない。
「うわっ、小鳩が男って言うの違和感!」
そして正直者の山田は、ズケズケと突っ込んでくる。
「姫は男子校のオアシスだからさ。ガチで姫のこと好きな奴もいるんだよ」
「えー本当に!?」
俺に答えを求めるかのように、女の子たちからの期待に満ちた視線が飛んでくる。
「いや……ネタで言ってるだけだから。男子校ならではのノリっていうか」
「いいや! ネタと見せかけて姫のガチ恋はいるね! なあ、白井」
山田がヒートアップして白井に声をかけたけど、聞いていなかったのか「ちょっと声かけんな」とじゃんけんに勝てるよう、自分の手を見つめて祈っている。
「この前も、俺と姫でディープキスすることになって――」
女の子たちの「えー!!」という甲高い声に、頬が痙攣しそうになっていると。
「俺は小鳩好きだけどね」
山田の話を遮るように、腕を組んで立っていた大神が言った。
山田の声で隣のレーンを見ると、ちょうど大神がボールを構えていた。
もしここでガーターとか出したら、さすがの女の子も大神に引くんだろうか。
とかなんとか思っていたら、パコーンと小気味良い音が聞こえてきた。きれいに並んでいたボウリングのピンがひとつも残っていない。つまり全部倒したということで。
「ストライクかい!」
白井が悔しそうにつぶやいた。
「……ボウリングまで上手いんかい」
俺も俺でつぶやいてしまいたくなる。
あんなにも恵まれた顔を持ちながら、ボウリングまで上手ければ女の子がより一層大神から離れなくなる。
それはそれで悲しい。
あれ、悲しいってなんでだ?
大神が女の子にモテるのは今に始まったわけではない。
それなのに、悲しいなんて思ったりして。
……もしかして、あれか?
大神と少し仲良くなれたからって、見境なく嫉妬しているとか。その嫉妬した相手が、いよいよ女の子にまで飛んでしまっているとか。
いやあ、それはない……とは言えないか。
大神が誰かと話していると、心がちょっとざわっとする。
つい目で追ってしまうし、俺に見せていた顔とはちょっと違うなんて気にしたりもする。
大神と仲良くなりたいけど、これ以上仲良くなったら、友達ではなくなる。
だって、白井が誰と仲良くしていようが、正直興味がない。
顔が広いなって思ったりするくらいだ。
それなのに、大神に対しては、そう思えない自分がいる。
大神がボールを投げるまでの光景が目に焼きついていた。
血管が出た手の甲、肩甲骨のライン、Eライン最強の横顔。そういうものに見惚れていたと気づかされる。
「はいはい! ジュースじゃんけんやりまーす!」
大神にかっこいいところを奪われた反動か、山田の声がスタート時よりかなり大きくなっていた。そしてそのじゃんけんに、なぜか偶然居合わせただけの俺たちまで巻き込まれた。
王様ゲームといい、山田にはしょっちゅう巻き込まれてばかりだ。俺の意見なんて聞いてもらったためしがない。
白井に関しては「俺チョキ出すから、君はパー出してね」ととんでもない発言を女の子たちにしていた。男気がなさすぎる。負けてもらう前提で挑もうとしているなんて。
「あのさ、山田。俺も参加したほうがいいの?」
「なに言ってんだよ、まひめ! 人数多いほうが楽しいだろ。俺たちトモダチじゃん」
都合のいいところで発動される『トモダチ』。
仕方ない。山田は言い出したらしつこい。ここは潔く諦めたほうが身のため。
正直、じゃんけんの参加者は俺を合わせて六人いる。
ということは、負ける確率は六分の一。
こういうのは言い出した奴が負ける。だから山田が負けるはずだ。
そうだ、山田が負けたら一番ハッピーなんじゃないか?
盛り上がるだろうし、みんな遠慮なく山田にお願いできるだろうし。
「あ、ちょっと待った!」
いきなり山田が声を荒げた。何事かと思っていれば、急に「いいことひらめいたわ」なんて切り出す。
「ここは男だけでやったほうがよくね?」
……おいおい、俺の作戦が見事に打ち砕かれたじゃないか。
男だけということは、四人に絞られたということだ。
つまり確率も俺が負ける可能性がさっきよりも増えた。
山田はかっこつけたいのか、「え、悪いよ」と言っていた女の子たちの参加を認めなかった。
「男は黙って金を出せって、うちの母さんがうるせえんだよ」
このときばかりは「山田くん最高」と女の子たちからもてはやされていた。
「大神も参加だからな」
山田が大神の肩を強引に組むと「だろうね」と笑った。
「俺も女の子でいたかったけど」
「がっつり男だから……あ、小鳩は別か。姫枠だもんな」
山田にいきなり話を振られて戸惑った。ここにいる全員の視線が俺に集まる。
「え、姫って呼ばれてるんだ!」
さっき別の女の子とした話題がここでもくり返される。
白井がまた着替えの話を持ちだしてきそうで、きっと強く睨む。
「なんだよ、まだ話してねえって」
「話す気ではいたんじゃん」
聞いて呆れる。誰が男の着替えで盛り上がった男たちの話を聞きたいのだろうか。
「ねえ、本当に男の子なの?」
髪をゆるく巻いた子に、まあ、と苦笑が浮かぶ。
「戸籍上は男、かな」
ここで愛嬌でも振りまいて「俺は姫枠なんで、見逃してほしいな」などと言ってウインクするようなキャラだったらよかったのかもしれない。あいにく、俺にそこまでの度胸はない。
「うわっ、小鳩が男って言うの違和感!」
そして正直者の山田は、ズケズケと突っ込んでくる。
「姫は男子校のオアシスだからさ。ガチで姫のこと好きな奴もいるんだよ」
「えー本当に!?」
俺に答えを求めるかのように、女の子たちからの期待に満ちた視線が飛んでくる。
「いや……ネタで言ってるだけだから。男子校ならではのノリっていうか」
「いいや! ネタと見せかけて姫のガチ恋はいるね! なあ、白井」
山田がヒートアップして白井に声をかけたけど、聞いていなかったのか「ちょっと声かけんな」とじゃんけんに勝てるよう、自分の手を見つめて祈っている。
「この前も、俺と姫でディープキスすることになって――」
女の子たちの「えー!!」という甲高い声に、頬が痙攣しそうになっていると。
「俺は小鳩好きだけどね」
山田の話を遮るように、腕を組んで立っていた大神が言った。


