「よっしゃああああ、ガーター!」
「どこで喜んでんだよ」
ってことで連れて行かれたボウリングでは、白井がガーターを連続で出していた。
もはやストライクを取るというよりも、すべてをガーターで終わらせてやろうという謎の気迫を感じる。それを呆れて見ているが、白井が躍起になるのも分からなくもなかった。
「え、北原高校なんですか?」
問題となっているのは、隣のレーンで合コンが開催されているということだ。
そしてそのグループには大神と山田がいた。
「なんでわざわざ隣の席で合コンすんだよ~リア充か」
白井が残念そうにつぶやく。俺もちらっと見たけど、大神は三人の女子に囲まれながらも愛想笑い程度で、あまり乗り気じゃなさそうに見えた。
……まあ、それでも十分絵になっていたけど。
「姫、見すぎだぞ」
「み、見てない!」
慌てて否定したけど、胸の奥がざわついているのは事実だった。
大神が女の子たちと笑っている。
それだけなのに、なんでこんなに落ち着かないんだろう。
「あれ、ボール戻ってこないんだけど」
白井が不思議そうにボールの吐き出し口を見ていた。
「店員さん呼んでくるよ」
受付へと向かい、店員に声をかける。すぐに対応してもらえたことにホッとしながらレーンに戻ると、ふと隣の席のレーンの女の子と目が合った。
「あの」
「は、はいっ」
緊張して声が裏返った。まさか話しかけられるとは思わなかった。
「いきなりすみません……その、あまりにも可愛かったので」
「あー……ありがとうございます」
つい苦笑が浮かぶ。やっぱりこの顔か。
可愛いと言われることはべつに嫌ではないけど、このあとに続く言葉も大体想像できる。
案の定、女の子は遠慮がちに言った。
「……あの、女の子じゃないですよね?」
ですよね。そうくると踏んでいました。
「男です、なんかすみません」
「あっ、ちがうんです! ごめんなさい、本当に可愛いなと思ってしまって」
「大丈夫です、いつものことなんで」
肩をすくめると、彼女は「でも」と急いで言葉を続けた。
「私が好きなアイドルに少しだけ似てて……」
「女の子ですか?」
「そうなんです。地下アイドルで夢に向かって一生懸命頑張ってて、でもファンとしては、守ってあげたくなるような姿もあったりして」
守ってあげたくなる、か。
アイドルに向けて言った言葉だとは理解していても、自分と重ねてしまう。
そんなに俺は、男に見えないのだろうか。
「すみません、似てると言っても私が勝手に言っていることなので気にしないでください」
「……ありがとうございます。応援してるアイドルの人、夢を掴めるといいですね」
女の子に間違われることはよくある。長めにしている髪も切ったほうがいいかもしれないけど、短いとなんか不安になる。
「こいつのあだ名、姫なんですよ~」
横から茶化すように声をかけたのは、ガーター連発の白井だった。
女の子も「姫?」と首を傾げている。
「ほら、髪の毛サラサラだし、ぱっと見が女の子だから。この前の体育のときなんか、こいつが着替えるだけで歓声あがったりして」
「いや、その話はいいから……」
恥ずかしくなって白井を止めようとするけど、女の子の反応はよかった。
「え、それは私もつい見ちゃうかも」
「でしょう? 姫の着替えとかレアなんで。なのにヤンキー座りとかして、最近はグレてるのがかっこいいなんて思うお年頃になっちゃって」
「そんなこと思ってないから」
「いいっていいって、恥ずかしがるなよ」
そういって肩を抱き寄せられて、ぐわんぐわんと揺らされる。
あー脳みそがやられる。
なんで俺の話で盛り上がるんだよ。
「ほら、照れてるとこも姫っぽい!」
「ほんとだ~」
まったく照れていない。白井はここぞとばかりに女の子と話している。
さらに笑いが広がり、なんだか居場所を失った気分になる。
白井たちから視線を逸らすと、ちょうど自分の番を終えた大神と目が合った。
かと思ったら、なぜかふいっと逸らされた。
……あれ。
なんで目逸らされたんだろう。なにかしらアクションがもらえると思っていた。それが自意識過剰だったのか?
でも、ちょっと傷ついた。
白井たちの笑い声が、さっきよりも遠くに聞こえる。居心地の悪さと、わけの分からない寂しさで、足元をぼんやり見つめる。
「おーい」
呼ばれて顔を上げると、白井が「どうした」と顔を覗き込んでくる。
「次だよ」
「あ、ごめん」
慌てて返事をして立ち上がる。けれど視界の端で、大神がちらりとこちらを見ていたのに気づいてしまった。ほんの一瞬で、すぐにまた視線を逸らされたけれど。
……わざとなのか?
分からないまま、ボールを握りしめる。
なんだよ、なんかリアクションとかしてくれてもいいだろ。
もしかして、ここでも姫扱いされていることに呆れているとか?
いや、大神ってそんなこと気にするような男ではないと思うけど。
指先が汗で滑るくらい、大神のことが気になって仕方ない。
案の定、結果は散々だった。
ボールは狙ったところに届かず、力加減もめちゃくちゃで、笑い声が背中に突き刺さる。
ああ、やっぱりこうなるよな。
ちらりと視線を向けても、大神はいつものように笑顔を振り撒いていた。だけど、作り笑いのように見えてしまう。
なにを考えているのか、相変わらず読めない横顔。
からかってくる白井の声よりも、大神の視線が俺と合わないことのほうが気掛かりで仕方ない。
もしかして、本当に呆れているのか?
「姫」だなんて呼ばれる俺のことを、本当は馬鹿馬鹿しいと思っていたりして。
しばらくすると、俺に話しかけてきた女の子は「バイトの時間でした」と言って慌ただしくその場を去って行った。
「はあ、結局またいつものメンバーになったな」
白井が残念そうにつぶやく。さっきまで女の子と意気投合していたから、華がなくなってつまらないのだろう。
でも、どこかでホッとしている自分もいた。
あの女の子を前にしたとき、なんとなく、これが大神だったら……なんて考えていた。
大神から謎に避けられているくせに、そんなふうに感じていることにも納得できなかったし、とにかく早くここから立ち去ってしまいたかった。
「大神くんってボウリング得意なんですか~?」
「あー、普通かな」
相変わらず隣の席では、女の子たちの視線が大神に集中していた。
やたらと大神から離れていこうとしない。そこに山田が「ちょいちょい俺も~」なんて割って入ろうとする。そのメンタルは心底見習いたいものだ。山田、すげえな。
「ああああ、くっそ。一本ピンが倒れた」
そしてこちらでは永遠に白井のターンになっている。そしてピンを倒したことを嘆いている。普通は喜ぶところだろう。
「はあ、姫~慰めてくれよ~」
「はいはい、おつかれ」
「雑っ!」
隣ではキャッキャッと盛り上がり、こっちでは男同士でむさくるしいじゃれあいを続けている。
「どこで喜んでんだよ」
ってことで連れて行かれたボウリングでは、白井がガーターを連続で出していた。
もはやストライクを取るというよりも、すべてをガーターで終わらせてやろうという謎の気迫を感じる。それを呆れて見ているが、白井が躍起になるのも分からなくもなかった。
「え、北原高校なんですか?」
問題となっているのは、隣のレーンで合コンが開催されているということだ。
そしてそのグループには大神と山田がいた。
「なんでわざわざ隣の席で合コンすんだよ~リア充か」
白井が残念そうにつぶやく。俺もちらっと見たけど、大神は三人の女子に囲まれながらも愛想笑い程度で、あまり乗り気じゃなさそうに見えた。
……まあ、それでも十分絵になっていたけど。
「姫、見すぎだぞ」
「み、見てない!」
慌てて否定したけど、胸の奥がざわついているのは事実だった。
大神が女の子たちと笑っている。
それだけなのに、なんでこんなに落ち着かないんだろう。
「あれ、ボール戻ってこないんだけど」
白井が不思議そうにボールの吐き出し口を見ていた。
「店員さん呼んでくるよ」
受付へと向かい、店員に声をかける。すぐに対応してもらえたことにホッとしながらレーンに戻ると、ふと隣の席のレーンの女の子と目が合った。
「あの」
「は、はいっ」
緊張して声が裏返った。まさか話しかけられるとは思わなかった。
「いきなりすみません……その、あまりにも可愛かったので」
「あー……ありがとうございます」
つい苦笑が浮かぶ。やっぱりこの顔か。
可愛いと言われることはべつに嫌ではないけど、このあとに続く言葉も大体想像できる。
案の定、女の子は遠慮がちに言った。
「……あの、女の子じゃないですよね?」
ですよね。そうくると踏んでいました。
「男です、なんかすみません」
「あっ、ちがうんです! ごめんなさい、本当に可愛いなと思ってしまって」
「大丈夫です、いつものことなんで」
肩をすくめると、彼女は「でも」と急いで言葉を続けた。
「私が好きなアイドルに少しだけ似てて……」
「女の子ですか?」
「そうなんです。地下アイドルで夢に向かって一生懸命頑張ってて、でもファンとしては、守ってあげたくなるような姿もあったりして」
守ってあげたくなる、か。
アイドルに向けて言った言葉だとは理解していても、自分と重ねてしまう。
そんなに俺は、男に見えないのだろうか。
「すみません、似てると言っても私が勝手に言っていることなので気にしないでください」
「……ありがとうございます。応援してるアイドルの人、夢を掴めるといいですね」
女の子に間違われることはよくある。長めにしている髪も切ったほうがいいかもしれないけど、短いとなんか不安になる。
「こいつのあだ名、姫なんですよ~」
横から茶化すように声をかけたのは、ガーター連発の白井だった。
女の子も「姫?」と首を傾げている。
「ほら、髪の毛サラサラだし、ぱっと見が女の子だから。この前の体育のときなんか、こいつが着替えるだけで歓声あがったりして」
「いや、その話はいいから……」
恥ずかしくなって白井を止めようとするけど、女の子の反応はよかった。
「え、それは私もつい見ちゃうかも」
「でしょう? 姫の着替えとかレアなんで。なのにヤンキー座りとかして、最近はグレてるのがかっこいいなんて思うお年頃になっちゃって」
「そんなこと思ってないから」
「いいっていいって、恥ずかしがるなよ」
そういって肩を抱き寄せられて、ぐわんぐわんと揺らされる。
あー脳みそがやられる。
なんで俺の話で盛り上がるんだよ。
「ほら、照れてるとこも姫っぽい!」
「ほんとだ~」
まったく照れていない。白井はここぞとばかりに女の子と話している。
さらに笑いが広がり、なんだか居場所を失った気分になる。
白井たちから視線を逸らすと、ちょうど自分の番を終えた大神と目が合った。
かと思ったら、なぜかふいっと逸らされた。
……あれ。
なんで目逸らされたんだろう。なにかしらアクションがもらえると思っていた。それが自意識過剰だったのか?
でも、ちょっと傷ついた。
白井たちの笑い声が、さっきよりも遠くに聞こえる。居心地の悪さと、わけの分からない寂しさで、足元をぼんやり見つめる。
「おーい」
呼ばれて顔を上げると、白井が「どうした」と顔を覗き込んでくる。
「次だよ」
「あ、ごめん」
慌てて返事をして立ち上がる。けれど視界の端で、大神がちらりとこちらを見ていたのに気づいてしまった。ほんの一瞬で、すぐにまた視線を逸らされたけれど。
……わざとなのか?
分からないまま、ボールを握りしめる。
なんだよ、なんかリアクションとかしてくれてもいいだろ。
もしかして、ここでも姫扱いされていることに呆れているとか?
いや、大神ってそんなこと気にするような男ではないと思うけど。
指先が汗で滑るくらい、大神のことが気になって仕方ない。
案の定、結果は散々だった。
ボールは狙ったところに届かず、力加減もめちゃくちゃで、笑い声が背中に突き刺さる。
ああ、やっぱりこうなるよな。
ちらりと視線を向けても、大神はいつものように笑顔を振り撒いていた。だけど、作り笑いのように見えてしまう。
なにを考えているのか、相変わらず読めない横顔。
からかってくる白井の声よりも、大神の視線が俺と合わないことのほうが気掛かりで仕方ない。
もしかして、本当に呆れているのか?
「姫」だなんて呼ばれる俺のことを、本当は馬鹿馬鹿しいと思っていたりして。
しばらくすると、俺に話しかけてきた女の子は「バイトの時間でした」と言って慌ただしくその場を去って行った。
「はあ、結局またいつものメンバーになったな」
白井が残念そうにつぶやく。さっきまで女の子と意気投合していたから、華がなくなってつまらないのだろう。
でも、どこかでホッとしている自分もいた。
あの女の子を前にしたとき、なんとなく、これが大神だったら……なんて考えていた。
大神から謎に避けられているくせに、そんなふうに感じていることにも納得できなかったし、とにかく早くここから立ち去ってしまいたかった。
「大神くんってボウリング得意なんですか~?」
「あー、普通かな」
相変わらず隣の席では、女の子たちの視線が大神に集中していた。
やたらと大神から離れていこうとしない。そこに山田が「ちょいちょい俺も~」なんて割って入ろうとする。そのメンタルは心底見習いたいものだ。山田、すげえな。
「ああああ、くっそ。一本ピンが倒れた」
そしてこちらでは永遠に白井のターンになっている。そしてピンを倒したことを嘆いている。普通は喜ぶところだろう。
「はあ、姫~慰めてくれよ~」
「はいはい、おつかれ」
「雑っ!」
隣ではキャッキャッと盛り上がり、こっちでは男同士でむさくるしいじゃれあいを続けている。


