「ほら、さっさと1番名乗り出ろって」
高校一年の秋、教室を掃除していたら、王様ゲームに巻き込まれた。
ちなみにここ北原高校は男子校なので、野郎しかいない。
ここまでの流れでも最悪だったのに、俺の手の中には一枚の紙がある。折りたたまれたそこには、堂々と数字の1が書かれているわけで、つまりは絶体絶命だった。
鬼畜王が出した命令は「1と6がディープキス」。6はお調子者の山田で、「あっついキスしてやるからよお!」と周囲を盛り上げている。
このままではバレるのも時間の問題だろう。諦めておずおずと手を挙げたら、野太い歓声が上がった。
「小鳩くんじゃん」
「姫のご登場でーす」
入学してから半年。可愛いと言われてきた人生で、ついに高校生では「姫」というあだ名までついた。最近では名前で呼ばれることのほうが少なくなってきている。
自分では普通だと思っているし、姫なんて大げさだとも思っているけど、反応するのも面倒だからそのままにしている。
「あーやばい。姫が女の子に見えてきた」
こいつやべえぞ、と周りのボルテージも上がっていく一方で、俺のテンションはだだ下がりだ。誰か止めてくれないかと期待するが、山田がまんざらでもなさそうだから困る。
面倒なのは、仮に俺がここで断ったとしても、この場が白けるのにも耐えられないことだ。
唇を突き出して山田がキスをしようとしてくる。ああ、最悪だ。こんなところでファーストキスが奪われるなんて――。
「えっ」
絶望していたところで、勢いよく後ろに引き寄せられた。体の重心が傾いて、次に見えたのは大神の顔だった。なんで、と思ったところで、唇になにかが当たった。触れたのは肌だ。
近距離で大神と目が合う。あ、かっこいい。
「おい!」と山田が慌てて入ってきたことで我に返った。俺は今、大神の頬にキスをしたらしい。
「なにしてんだよ、大神! 俺の姫を!!」
興奮している山田に、大神はずいっと手元の紙を見せた。
「俺、6なんだけど」
「え!?……ってどこからどう見ても9じゃねえか!」
山田のツッコミで、この一連の流れがすべて笑いへと昇華されていく。
俺が大神のほっぺにキスをしたということは思ったよりも騒がれることなく、大神ひとりの言動に注目が集まっていた。
大神が持っていた紙には、俺が見ても9としか思えない数字が書かれている。
「なんだ、間違えた」
「間違えたって……つか、どうせするなら唇にするだろうがい! 唇に!」
「しないでしょ。こういうところでするもんじゃないし」
いつも通り爽やかに笑いながら大神は通学バッグを肩にかけた。
「大神どこ行くん」
「もう帰ろうぜ。担任に別のところも掃除してこいって言われる可能性あるし」
それはやべえということになり、あっという間にお開きとなった。
勝手に巻き込まれ、勝手に解散されるという嵐のような時間が呆気なく過ぎていく。とりあえず俺は大神のおかげで助かった。
人生で初めてのキスが好きでもない相手とディープなんて、二度と思い出したくなかっただろう。
指先で唇に触れる。……大神の肌の感触が、まだ残っていた。
高校一年の秋、教室を掃除していたら、王様ゲームに巻き込まれた。
ちなみにここ北原高校は男子校なので、野郎しかいない。
ここまでの流れでも最悪だったのに、俺の手の中には一枚の紙がある。折りたたまれたそこには、堂々と数字の1が書かれているわけで、つまりは絶体絶命だった。
鬼畜王が出した命令は「1と6がディープキス」。6はお調子者の山田で、「あっついキスしてやるからよお!」と周囲を盛り上げている。
このままではバレるのも時間の問題だろう。諦めておずおずと手を挙げたら、野太い歓声が上がった。
「小鳩くんじゃん」
「姫のご登場でーす」
入学してから半年。可愛いと言われてきた人生で、ついに高校生では「姫」というあだ名までついた。最近では名前で呼ばれることのほうが少なくなってきている。
自分では普通だと思っているし、姫なんて大げさだとも思っているけど、反応するのも面倒だからそのままにしている。
「あーやばい。姫が女の子に見えてきた」
こいつやべえぞ、と周りのボルテージも上がっていく一方で、俺のテンションはだだ下がりだ。誰か止めてくれないかと期待するが、山田がまんざらでもなさそうだから困る。
面倒なのは、仮に俺がここで断ったとしても、この場が白けるのにも耐えられないことだ。
唇を突き出して山田がキスをしようとしてくる。ああ、最悪だ。こんなところでファーストキスが奪われるなんて――。
「えっ」
絶望していたところで、勢いよく後ろに引き寄せられた。体の重心が傾いて、次に見えたのは大神の顔だった。なんで、と思ったところで、唇になにかが当たった。触れたのは肌だ。
近距離で大神と目が合う。あ、かっこいい。
「おい!」と山田が慌てて入ってきたことで我に返った。俺は今、大神の頬にキスをしたらしい。
「なにしてんだよ、大神! 俺の姫を!!」
興奮している山田に、大神はずいっと手元の紙を見せた。
「俺、6なんだけど」
「え!?……ってどこからどう見ても9じゃねえか!」
山田のツッコミで、この一連の流れがすべて笑いへと昇華されていく。
俺が大神のほっぺにキスをしたということは思ったよりも騒がれることなく、大神ひとりの言動に注目が集まっていた。
大神が持っていた紙には、俺が見ても9としか思えない数字が書かれている。
「なんだ、間違えた」
「間違えたって……つか、どうせするなら唇にするだろうがい! 唇に!」
「しないでしょ。こういうところでするもんじゃないし」
いつも通り爽やかに笑いながら大神は通学バッグを肩にかけた。
「大神どこ行くん」
「もう帰ろうぜ。担任に別のところも掃除してこいって言われる可能性あるし」
それはやべえということになり、あっという間にお開きとなった。
勝手に巻き込まれ、勝手に解散されるという嵐のような時間が呆気なく過ぎていく。とりあえず俺は大神のおかげで助かった。
人生で初めてのキスが好きでもない相手とディープなんて、二度と思い出したくなかっただろう。
指先で唇に触れる。……大神の肌の感触が、まだ残っていた。


