月曜日は予定通り学校に登校した。
あんなにも待ち遠しかったはずの学校なのだが、今はとてつもなく緊張している。
染谷のことを好きだと認めてからというもの、学校でも独占欲が出てしまうのではないかと不安でしょうがないのだ。染谷とはクラスが異なるため、普段から染谷の様子を確認することは不可能だ。だからといって仮に同じクラスだったとしても今の俺なら一日中染谷のことを見てしまい、授業どころではないかもしれない。
俺は普段なら体に染み付いた剣道の動きの一つである摺り足で無意識に移動することが多いのだが、緊張のせいか壊れかけのロボットのような動きをして、教室へと向かっていた。
教室に着くと、佐伯が真っ先に声を掛けてきた。
佐伯は先日の金曜日の俺の様子が気になり、心配で声を掛けてきたようであった。
これも普段の俺なら「なんでもねーよ」なんて回答をしていただろうが、こちらも緊張のせいか「熱出て倒れてたわ」なんて余計に心配させるようなコトを口にしてしまっていた。
「は? 大丈夫なのかよ?」
「ん。もうなんともねーよ。ありがと」
「大丈夫ならいいんだけどさ……。しっきーが熱出すのなんて俺初めて見た気がするわ」
「正直俺も熱出すのなんて何年ぶりなんだろってくらいだわ」
「健康体過ぎるだろ」
佐伯はそんなコトを言って笑って流してくれたが、本当のところかなり心配してくれているに違いないと、俺はそんなことを考えながらも、心のどこかではやはり染谷のことを常に気にかけていた。
考えていたのは、染谷にどのようにアプローチをするのかということだ。
男同士ということもあり、自分の気持ちを伝えないという選択肢もあったのだが、自分の気持ちを伝える前にほかの誰かと付き合うくらいなら、いっそのこと自分の気持ちを伝えて潔く散ってからにしてほしいと感じ、告白をすることにしたのだ。
きっとこれも独占欲なのだろう。
誰にも取られたくない。
この気持ちは変わらない。
「ん…………」
「え、何? やっぱりまだ体調悪いんじゃねーの?」
俺が一人で唸っているところを見た佐伯はオドオドとした様子で俺に再度声を掛けてきた。やはりというべきか、佐伯はどこまでも人のことをよく見ているらしい。
そう考えたとき、ふと俺の頭にあることがよぎった。
(……佐伯にアプローチの方法を聞けばいいのでは?)
佐伯がモテるのは割と有名な話で、そんな佐伯ならばより善いアプローチ方法を知っているのではないかと考えたのだ。しかし中学から付き合いのある友人に恋の悩みを打ち明けるのは思春期真っ盛りの高校生にとってはかなりの難問である。
言ってしまえば、染谷の名前は出さないにしろ俺に好きな人がいることは確実にわかるだろう。更に言えば俺に好きな人がいることを知った佐伯が面白がって相手のことを詮索したり、茶化したりするかもしれない。
だが現状俺が相談出来るのは佐伯くらいしかいない。
背に腹は代えられない。
思い立ったが吉日とも聞く。
「佐伯、あのさ————」
∴ ∵ ∴ ∵ ∴ ∵
「あー、なるほどね。それでしっき―は熱が出たんだ」
「……それが理由かはわからんけどな」
佐伯に声を掛けた時、俺のまじめな感じに気が付いたのか佐伯は場所の移動を提案してくれた。こういうところを見るとやはり佐伯はよく人のことを見ているんだと思う。そして話を聞いた佐伯は茶化すことなく、俺の体調を先に心配してくれた。考えてみるとこういうところが佐伯がモテる所以だと思う。
「まぁそれで、独占欲が限界突破する前に告白して自分のものにしたいってことね」
「いや、そこまでじゃないけど……まぁ……そう」
「それで何が聞きたいんだ?」
俺は息を整えるように一旦唾を飲み込んだ後、真剣な眼差しで佐伯に語りかける。
「……アプローチ方法なんだけど、どうしたらいい?」
「アプローチねぇ……。最初はお互いの共通点とかから攻めていくのがいいんじゃねーの?」
「共通点?」
「お互いの好きなものが一緒だったりしたほうが話しやすいってことだよ。それか相手の好きなもの知ってるならその話を振ってみるとか? とりあえず話すきっかけを作ったほうがいいって感じかな。」
「なるほど……」
俺は顎に手を当て、さらに真剣に考え始める。
俺が知っている染谷の好きなもの。染谷と話すようになって写真が趣味であることは知っているが、案外それ以外の情報がない。本来好きな人なのであれば好きなものだけではなく、その人の趣味趣向であったり、好きな色や好きな食べ物などいろんな情報を知っていてもいいのではないかと思う。
しかし俺はつい最近染谷のことを好きだと自覚したわけで、本当に何の情報も知らないのだ。
「何も思いつかない感じ? 共通点とかも?」
すべてを察しているのか佐伯は俺に助け舟を出す。
しかしそうは言われても染谷とはこの旭川で初めてあった人間であり、共通点なんて……
——————あっ、あるわ。
「ち、血みどろベア」
「血みどろベアぁ? あの遊園地の?」
「ん」
「まぁ……いいんじゃねーの? アプローチっていうか、そういうのの出だしで共通点を使うだけだから、十分だと思う」
「佐伯! 本当にありがとう!」
まずはの方向性が見えてきたことに、俺は空に向かってガッツポーズを繰り広げていた。
∴ ∵ ∴ ∵ ∴ ∵
選択授業の時間になり、俺はいつも通り隣に座ってくるであろう染谷のことを待ちながら、アプローチの作戦を一人で考えていた。
大まかな作戦内容は染谷の持ち物を確認し、染谷が持っていない血みどろベアのグッズを調査後、そのグッズを購入。プレゼントする際に一緒に告白するというものだ。
我ながら雑ではあるが、これ以上いい方法が思いつかないほど、完璧な案だと自負している。
「四季くん。今日も隣いいかな?」
自身の完璧な作戦に感動している最中に、いつの間にか染谷が近くに来ていたようで、俺は普段ならしないはずの動揺をかましながら「待ってた」と染谷に微笑みかけながら、俺は染谷の様子をまじまじと観察する。
スクールバッグやペンケースに付いているであろうキーホルダーから、スマホの裏にはさんでいるであろうシールなど、すべてに目を通すのだが、一向に血みどろベアのグッズを確認することができない。
そんな状況を見て俺は少し頭を悩ませた。
はたして毎週のように血みどろベアと一緒に写真を撮るような人間が、グッズの一つも保有していないことがあるのかと。
もしかしたらグッズは身に着けたり、持ち歩いたりするタイプではなく自室に飾るタイプなのかもしれない。だがそれにしても血みどろベアが好きであるという要素が見当たらなすぎるのだ。
「もう体調は大丈夫なの?」
そんな観察をしていたところに染谷から思いもしない声の掛けられ方をした。
「え、体調?」
「あー、えっと、その、体調が悪いって聞いて……」
一体俺が体調不良であったと誰から聞いたのだろうか。
染谷とはクラスが異なるため、通常であれば知り得ないはずの情報だろう。しかし自分のクラスの中心で佐伯と話していた内容のため、もしかしたらクラスの誰かが染谷に教えたのかもしれないし、もしかしたら染谷が通りすがったタイミングで話していたのかもしれない。
俺はそのことに関して深く考えるのを止め、とりあえず話をしながら血みどろベアについての情報を聞き出すことにした。
「もう体調は大丈夫。心配してくれてありがとう」
「大丈夫ならよかった。安心したよ」
「どーも。ところでさ、染谷ってスマホの待ち受けって何にしてんの? 俺は実は昔剣道やっててその時の写真なんだよね」
俺はスマホをポケットから取り出すと、自身のスマホのロック画面を染谷に向かって見せた。実はこうやってロック画面を誰かに見せるのは初めてだったりする。
しかしそれを見た染谷は目を見開き、驚いたかのような表情を浮かべていた。
「え、その画像って……」
「あ、やっぱり写真撮る人ってこの写真見ただけですごさがわかるもんなの?」
俺のロック画面に設定している写真は自分自身の写真ではあるのだが、実はこの写真は誰が撮影したのかわからない写真なのだ。中学生のとき大きな道場を構えていた東中学は地区大会の会場になっており、ロック画面はその地区大会に俺が出場したときの写真を設定している。この写真を見つけたのは本当にたまたまで、大会の翌日に佐伯からインターネットにおれの写真がアップされていると聞かされて見つけるに至ったのだ。
写真は面を狙った瞬間が撮られており、写真から感じられるような躍動感の限界値を超えているようであった。面の隙間から見える俺の目の睨み具合、竹刀を面に振り下ろす躍動感、足の踏み込みの力強さなどすべてがたった一枚の写真に収まっていた。
俺はその写真に一瞬で虜になり、スマホの待ち受けにするまでになった。
「すごさがわかるっていうか……この写真はどこで?」
「えっとインターネットにアップされてたのを見つけて……え、あ、こういうの写真撮る人からしたらダメな行動だったりする? マジごめん!」
「いやいや! そもそもこの写真に写ってるのは四季くんなんだよね? 本人の写真ならいいんじゃないかな……(勝手にコンテストに応募したのは僕だから)」
「なら良かった! めちゃくちゃかっこいいだろ? 俺この写真好きなんだよ。きっとこの写真撮ってくれた人も俺のコト好きだと思うんだよねー。そうじゃなきゃこんな写真撮れない気がするし」
そう言うと、染谷は耳を真っ赤にしていた。
それに対し俺はなぜ染谷の耳が赤くなっているのかと疑問に思ったが、それを問いただそうとする前に今度は染谷が自分のスマホの待ち受けを見せてきた。
「ぼ、僕の待ち受けはこれ……。遊園地の血みどろベアっていうマスコットキャラクターとのツーショットなんだけど……」
——キタ!
染谷の行動は気になるが、今は染谷から血みどろベアについての情報を聞き出すのが先決だ。染谷にアプローチするため染谷が持っていないグッズを聞き出すための話題振りなのだから。
「血みどろベア好きなの? グッズとか持ってる感じ?」
少し白々しい聞き方だったかもしれないが、俺が今できる最大限の自然体での会話だ。
「グッズかぁ……持ってないかも?」
「え? あ? そうなの?」
「うん。遊園地に足を運んだ時何度か買おうかとは悩むんだけど、決めきれなくて……」
これはいいことを聞いたかもしれない、と俺はこの時瞬間的に理解をした。
つまりは遊園地にあるグッズであればどれでも染谷にプレゼントしても良いということだ。プレゼント選びにおいて選択肢は多いに越したことはない。
俺は瞬間的に、遊園地内のグッズ売り場に売っている血みどろベアの情報を整理し始めたが、それより少し気になることが発生した。
——染谷の待ち受けに写っている血みどろベアの着ぐるみが俺と最後に撮った写真だったのだ。
と、いうことは俺が体調不良で休んでいたこの土日で染谷は血みどろベアと写真を撮っていないのではないだろうか。染谷は写真を撮ると毎回嬉しそうにその写真を待ち受けに変更している。そのため毎週染谷の待ち受けは更新されているのだが、染谷のスマホに映し出されている待ち受け画像は先週俺(血みどろベア)と撮った写真のままだったのだ。
そう考えると、染谷はこの前の土日は写真を撮っていないことになる。
それがわかった途端、俺の口角は過去に類を見ないほど上がっていた。と思う。
「そうなんだ。買うなら鞄につけられるようなモノ? それともペンケースにつけられるみたいなモノ?」
「そうだね……もし買うなら鞄につけられるモノかな。ペンケースは普段から持ち歩くことはないけど、鞄ならどこに行くにも持っていくから」
「なるほどね!」
俺の今後の方針が確定した瞬間であった。
今日は放課後にアルバイトがあるため、その帰りにでも遊園地のグッズを確認することにした。
あんなにも待ち遠しかったはずの学校なのだが、今はとてつもなく緊張している。
染谷のことを好きだと認めてからというもの、学校でも独占欲が出てしまうのではないかと不安でしょうがないのだ。染谷とはクラスが異なるため、普段から染谷の様子を確認することは不可能だ。だからといって仮に同じクラスだったとしても今の俺なら一日中染谷のことを見てしまい、授業どころではないかもしれない。
俺は普段なら体に染み付いた剣道の動きの一つである摺り足で無意識に移動することが多いのだが、緊張のせいか壊れかけのロボットのような動きをして、教室へと向かっていた。
教室に着くと、佐伯が真っ先に声を掛けてきた。
佐伯は先日の金曜日の俺の様子が気になり、心配で声を掛けてきたようであった。
これも普段の俺なら「なんでもねーよ」なんて回答をしていただろうが、こちらも緊張のせいか「熱出て倒れてたわ」なんて余計に心配させるようなコトを口にしてしまっていた。
「は? 大丈夫なのかよ?」
「ん。もうなんともねーよ。ありがと」
「大丈夫ならいいんだけどさ……。しっきーが熱出すのなんて俺初めて見た気がするわ」
「正直俺も熱出すのなんて何年ぶりなんだろってくらいだわ」
「健康体過ぎるだろ」
佐伯はそんなコトを言って笑って流してくれたが、本当のところかなり心配してくれているに違いないと、俺はそんなことを考えながらも、心のどこかではやはり染谷のことを常に気にかけていた。
考えていたのは、染谷にどのようにアプローチをするのかということだ。
男同士ということもあり、自分の気持ちを伝えないという選択肢もあったのだが、自分の気持ちを伝える前にほかの誰かと付き合うくらいなら、いっそのこと自分の気持ちを伝えて潔く散ってからにしてほしいと感じ、告白をすることにしたのだ。
きっとこれも独占欲なのだろう。
誰にも取られたくない。
この気持ちは変わらない。
「ん…………」
「え、何? やっぱりまだ体調悪いんじゃねーの?」
俺が一人で唸っているところを見た佐伯はオドオドとした様子で俺に再度声を掛けてきた。やはりというべきか、佐伯はどこまでも人のことをよく見ているらしい。
そう考えたとき、ふと俺の頭にあることがよぎった。
(……佐伯にアプローチの方法を聞けばいいのでは?)
佐伯がモテるのは割と有名な話で、そんな佐伯ならばより善いアプローチ方法を知っているのではないかと考えたのだ。しかし中学から付き合いのある友人に恋の悩みを打ち明けるのは思春期真っ盛りの高校生にとってはかなりの難問である。
言ってしまえば、染谷の名前は出さないにしろ俺に好きな人がいることは確実にわかるだろう。更に言えば俺に好きな人がいることを知った佐伯が面白がって相手のことを詮索したり、茶化したりするかもしれない。
だが現状俺が相談出来るのは佐伯くらいしかいない。
背に腹は代えられない。
思い立ったが吉日とも聞く。
「佐伯、あのさ————」
∴ ∵ ∴ ∵ ∴ ∵
「あー、なるほどね。それでしっき―は熱が出たんだ」
「……それが理由かはわからんけどな」
佐伯に声を掛けた時、俺のまじめな感じに気が付いたのか佐伯は場所の移動を提案してくれた。こういうところを見るとやはり佐伯はよく人のことを見ているんだと思う。そして話を聞いた佐伯は茶化すことなく、俺の体調を先に心配してくれた。考えてみるとこういうところが佐伯がモテる所以だと思う。
「まぁそれで、独占欲が限界突破する前に告白して自分のものにしたいってことね」
「いや、そこまでじゃないけど……まぁ……そう」
「それで何が聞きたいんだ?」
俺は息を整えるように一旦唾を飲み込んだ後、真剣な眼差しで佐伯に語りかける。
「……アプローチ方法なんだけど、どうしたらいい?」
「アプローチねぇ……。最初はお互いの共通点とかから攻めていくのがいいんじゃねーの?」
「共通点?」
「お互いの好きなものが一緒だったりしたほうが話しやすいってことだよ。それか相手の好きなもの知ってるならその話を振ってみるとか? とりあえず話すきっかけを作ったほうがいいって感じかな。」
「なるほど……」
俺は顎に手を当て、さらに真剣に考え始める。
俺が知っている染谷の好きなもの。染谷と話すようになって写真が趣味であることは知っているが、案外それ以外の情報がない。本来好きな人なのであれば好きなものだけではなく、その人の趣味趣向であったり、好きな色や好きな食べ物などいろんな情報を知っていてもいいのではないかと思う。
しかし俺はつい最近染谷のことを好きだと自覚したわけで、本当に何の情報も知らないのだ。
「何も思いつかない感じ? 共通点とかも?」
すべてを察しているのか佐伯は俺に助け舟を出す。
しかしそうは言われても染谷とはこの旭川で初めてあった人間であり、共通点なんて……
——————あっ、あるわ。
「ち、血みどろベア」
「血みどろベアぁ? あの遊園地の?」
「ん」
「まぁ……いいんじゃねーの? アプローチっていうか、そういうのの出だしで共通点を使うだけだから、十分だと思う」
「佐伯! 本当にありがとう!」
まずはの方向性が見えてきたことに、俺は空に向かってガッツポーズを繰り広げていた。
∴ ∵ ∴ ∵ ∴ ∵
選択授業の時間になり、俺はいつも通り隣に座ってくるであろう染谷のことを待ちながら、アプローチの作戦を一人で考えていた。
大まかな作戦内容は染谷の持ち物を確認し、染谷が持っていない血みどろベアのグッズを調査後、そのグッズを購入。プレゼントする際に一緒に告白するというものだ。
我ながら雑ではあるが、これ以上いい方法が思いつかないほど、完璧な案だと自負している。
「四季くん。今日も隣いいかな?」
自身の完璧な作戦に感動している最中に、いつの間にか染谷が近くに来ていたようで、俺は普段ならしないはずの動揺をかましながら「待ってた」と染谷に微笑みかけながら、俺は染谷の様子をまじまじと観察する。
スクールバッグやペンケースに付いているであろうキーホルダーから、スマホの裏にはさんでいるであろうシールなど、すべてに目を通すのだが、一向に血みどろベアのグッズを確認することができない。
そんな状況を見て俺は少し頭を悩ませた。
はたして毎週のように血みどろベアと一緒に写真を撮るような人間が、グッズの一つも保有していないことがあるのかと。
もしかしたらグッズは身に着けたり、持ち歩いたりするタイプではなく自室に飾るタイプなのかもしれない。だがそれにしても血みどろベアが好きであるという要素が見当たらなすぎるのだ。
「もう体調は大丈夫なの?」
そんな観察をしていたところに染谷から思いもしない声の掛けられ方をした。
「え、体調?」
「あー、えっと、その、体調が悪いって聞いて……」
一体俺が体調不良であったと誰から聞いたのだろうか。
染谷とはクラスが異なるため、通常であれば知り得ないはずの情報だろう。しかし自分のクラスの中心で佐伯と話していた内容のため、もしかしたらクラスの誰かが染谷に教えたのかもしれないし、もしかしたら染谷が通りすがったタイミングで話していたのかもしれない。
俺はそのことに関して深く考えるのを止め、とりあえず話をしながら血みどろベアについての情報を聞き出すことにした。
「もう体調は大丈夫。心配してくれてありがとう」
「大丈夫ならよかった。安心したよ」
「どーも。ところでさ、染谷ってスマホの待ち受けって何にしてんの? 俺は実は昔剣道やっててその時の写真なんだよね」
俺はスマホをポケットから取り出すと、自身のスマホのロック画面を染谷に向かって見せた。実はこうやってロック画面を誰かに見せるのは初めてだったりする。
しかしそれを見た染谷は目を見開き、驚いたかのような表情を浮かべていた。
「え、その画像って……」
「あ、やっぱり写真撮る人ってこの写真見ただけですごさがわかるもんなの?」
俺のロック画面に設定している写真は自分自身の写真ではあるのだが、実はこの写真は誰が撮影したのかわからない写真なのだ。中学生のとき大きな道場を構えていた東中学は地区大会の会場になっており、ロック画面はその地区大会に俺が出場したときの写真を設定している。この写真を見つけたのは本当にたまたまで、大会の翌日に佐伯からインターネットにおれの写真がアップされていると聞かされて見つけるに至ったのだ。
写真は面を狙った瞬間が撮られており、写真から感じられるような躍動感の限界値を超えているようであった。面の隙間から見える俺の目の睨み具合、竹刀を面に振り下ろす躍動感、足の踏み込みの力強さなどすべてがたった一枚の写真に収まっていた。
俺はその写真に一瞬で虜になり、スマホの待ち受けにするまでになった。
「すごさがわかるっていうか……この写真はどこで?」
「えっとインターネットにアップされてたのを見つけて……え、あ、こういうの写真撮る人からしたらダメな行動だったりする? マジごめん!」
「いやいや! そもそもこの写真に写ってるのは四季くんなんだよね? 本人の写真ならいいんじゃないかな……(勝手にコンテストに応募したのは僕だから)」
「なら良かった! めちゃくちゃかっこいいだろ? 俺この写真好きなんだよ。きっとこの写真撮ってくれた人も俺のコト好きだと思うんだよねー。そうじゃなきゃこんな写真撮れない気がするし」
そう言うと、染谷は耳を真っ赤にしていた。
それに対し俺はなぜ染谷の耳が赤くなっているのかと疑問に思ったが、それを問いただそうとする前に今度は染谷が自分のスマホの待ち受けを見せてきた。
「ぼ、僕の待ち受けはこれ……。遊園地の血みどろベアっていうマスコットキャラクターとのツーショットなんだけど……」
——キタ!
染谷の行動は気になるが、今は染谷から血みどろベアについての情報を聞き出すのが先決だ。染谷にアプローチするため染谷が持っていないグッズを聞き出すための話題振りなのだから。
「血みどろベア好きなの? グッズとか持ってる感じ?」
少し白々しい聞き方だったかもしれないが、俺が今できる最大限の自然体での会話だ。
「グッズかぁ……持ってないかも?」
「え? あ? そうなの?」
「うん。遊園地に足を運んだ時何度か買おうかとは悩むんだけど、決めきれなくて……」
これはいいことを聞いたかもしれない、と俺はこの時瞬間的に理解をした。
つまりは遊園地にあるグッズであればどれでも染谷にプレゼントしても良いということだ。プレゼント選びにおいて選択肢は多いに越したことはない。
俺は瞬間的に、遊園地内のグッズ売り場に売っている血みどろベアの情報を整理し始めたが、それより少し気になることが発生した。
——染谷の待ち受けに写っている血みどろベアの着ぐるみが俺と最後に撮った写真だったのだ。
と、いうことは俺が体調不良で休んでいたこの土日で染谷は血みどろベアと写真を撮っていないのではないだろうか。染谷は写真を撮ると毎回嬉しそうにその写真を待ち受けに変更している。そのため毎週染谷の待ち受けは更新されているのだが、染谷のスマホに映し出されている待ち受け画像は先週俺(血みどろベア)と撮った写真のままだったのだ。
そう考えると、染谷はこの前の土日は写真を撮っていないことになる。
それがわかった途端、俺の口角は過去に類を見ないほど上がっていた。と思う。
「そうなんだ。買うなら鞄につけられるようなモノ? それともペンケースにつけられるみたいなモノ?」
「そうだね……もし買うなら鞄につけられるモノかな。ペンケースは普段から持ち歩くことはないけど、鞄ならどこに行くにも持っていくから」
「なるほどね!」
俺の今後の方針が確定した瞬間であった。
今日は放課後にアルバイトがあるため、その帰りにでも遊園地のグッズを確認することにした。



