ずっと、ずっと

 庭の花を愛でるフワッとしたお坊ちゃんが、日本でも有数の資産家である円城寺家の息子であるということを、斎川は教室で知った。クラスメイトとなった彼を見て斎川は御曹司に失礼なことをしてしまった、と青ざめていたが、当の本人はむしろ声をかけてくれたことが嬉しかったようで、一日のカリキュラムが終わり、帰り支度をしていると円城寺が斎川の席まできて声をかけた。
「斎ちゃん、寮は何号室なの?」
 突然斎ちゃんと呼ばれ、呆気にとられた斎川は一瞬言葉を失う。資産家の御曹司というのはもっと近寄りにくくて高貴で傲慢で……と自分の中の御曹司像と目の前の円城寺を見比べあまりの差に思わず吹き出してしまった。
「面白いこと僕、言ったかなあ」
「何でもない。俺、三〇四号室だよ、円城寺くんは?」
「三〇二号室! やった、近くじゃん」
 円城寺は太陽のような笑顔を斎川に見せながら、鼻を擦る。目の前の御曹司は、一ヶ月前まで一緒に机を並べて勉強していた小学校のクラスメイトと何ら変わりがない、普通の少年だった。
 あれから五年。斎川は円城寺の隣にいて、生徒会執行部でも片腕となっている。夕凪学園の名物生徒会長と、副会長。そんな声もちらほらと聞こえてくることもある。高等部になってクラスは同じにならなかったものの、群青寮では部屋が通路を挟んで目の前という腐れ縁だ。中等部の頃から元気いっぱいの少年だった円城寺は変わることなくそのままだが、斎川は高等部に進んでからは少し落ち着きが出た。円城寺は先に成長していく斎川が羨ましいのか寂しいのか『中等部の時は僕より背が低かったくせに』とよく口を尖らせている。
 そんな屈託のない円城寺が斎川は大好きだった。そして気がつくと、それは友情の範疇を超えていたのである。

 群青寮の入り口にある管理室で、外出届を記入して自転車の鍵を管理人の江坂から受け取る。夕凪学園から街までは少し距離があるため、自転車の貸し出しサービスがある。ただし三時間という利用制限があり、しかも門限一時間前までに帰るのが条件だ。
「江坂さんありがとう」
「気をつけていくのよ。あなたたち二人が怪我でもしたらおおごとなんだから」