ずっと、ずっと

 パンにジャムを塗りながら挨拶してきた彼は、夕凪学園高等部の生徒会長である円城寺冬留(えんじょうじとおる)だ。古くから続く資産家、円城寺家に生まれ父親は乗馬の元オリンピック選手。夕凪学園でトップクラスの財を成している家系にも関わらず、円城寺はざっくばらんな性格でコミニュケーション能力が抜群に高い。それゆえに、斎川同様、熱い信頼と人気を得ていた。
 冷静に見える斎川を月に例えるならば、円城寺は元気に輝く太陽。見た目、性格も正反対の二人。手にしている朝食ですら斎川はご飯で円城寺はパン。それなのに非常に仲が良く、中等部からの付き合いでいつも一緒にいる。
「おはよう。今日、執行会リスケだっけ」
「うん。山佐が風邪で休むって連絡あったから。放課後、時間空くからさ、久々に本屋行こうよ。福道(ふくみち)先生の新刊が出てるんだ。今回のは異世界転生もので……」
 味噌汁を啜りながら、円城寺の止まらないおしゃべりに相槌を打つ斎川。知り合った当初は朝からよく喋るなあと感心したものだが、今や彼が黙っているほうが心配になる。やがて円城寺が静かになりパンを齧る頃になると斎川の朝食は半分以上なくなっていた。
「分かった、じゃ放課後に本屋行こう」
「やった!」

 ***

 一人っ子である斎川は幼少期から父親の会社を継ぐということを漠然と分かっていて、夕凪学園に入学を親が決めていても何ら不思議に思わなかった。近所の子供たちが地元の中学に進む中、自分だけが離れてしまうことに少し寂しいと感じた時期はあったが、入学が決まり、実際に夕凪学園で暮らすようになるとそれはあっという間に消え去った。
 そして入学式で出会ったのが、円城寺だった。セレモニーが行われる講堂へと移動している間にたまたま見かけたのが花壇の前にうずくまっていたのが彼で、斎川は具合でも悪いのかもしれないと声をかけたのだ。
 声をかけられた円城寺はキョトンとした顔で『うちの庭に同じ花があるけど、この色は初めて見るからさ』と答えた。呑気な奴だな、と思いつつもセレモニーの時間が気になった斎川はまだしゃがんでいた円城寺を半ば強引に手を引いて講堂へと一緒に向かった。
 この時のことを円城寺はいまだに『斎ちゃんは強引だったなーー』とからかう。