第1話
「……え?」
湊は目を擦った。
もう一度画面を見る。
【Shirayuki_Rin:君の配信、前から見てたよ】
「……嘘だろ」
Shirayuki_Rin。
そのIDに見覚えがないはずがなかった。
能力ランキング1位。
氷を自在に操る“氷皇”。
動画一本で100万再生を叩き出す少女。
白雪凛。
「な、なんで……ここに?」
震える指でマイクを握る。
「えっと……初見さん、いらっしゃい……」
情けない声が部屋に響く。
【Shirayuki_Rin:初見じゃない。ずっと前から見てる】
心臓が跳ねた。
「ずっと……?」
【Shirayuki_Rin:君、能力ないって言ってるけど】
少し間が空く。
そして――
【Shirayuki_Rin:あれ、嘘でしょ】
部屋の空気が変わった。
「嘘じゃないよ。俺、本当に何も――」
その瞬間。
机の上に置いていた空き缶が、
“ひび割れた”。
パキ、と小さな音。
湊は凍りついた。
触れていない。
何もしていない。
なのに、金属が歪んでいる。
【Shirayuki_Rin:ほらね】
背筋が寒くなる。
【Shirayuki_Rin:君、無意識で“空間に干渉”してる】
「……は?」
【Shirayuki_Rin:多分それ、制御できたら最強だよ】
冗談みたいな話だった。
けれど凛の言葉は、どこか確信に満ちていた。
しばらく沈黙が続く。
湊は、意を決して言った。
「……なんで、俺なんかを見てるの?」
既読。
少し長い間。
そして、返ってきた一文。
【Shirayuki_Rin:静かだから】
「……え?」
【Shirayuki_Rin:君の配信、騒がしくない。無理してない。】
【Shirayuki_Rin:落ち着くんだよ】
胸の奥が、じわっと熱くなる。
誰にも評価されなかった時間が、
急に意味を持った気がした。
「……ありがとう」
自然と、声が柔らかくなる。
【Shirayuki_Rin:今度、コラボしよ】
心臓が止まりかけた。
「えええ!?」
【Shirayuki_Rin:バズらせてあげる】
その言葉は甘くて、危険だった。
再生回数0の世界が、
一気に光に包まれそうになる。
でも――
湊はまだ知らない。
この出会いが、
“世界の均衡”を壊す引き金になることを。
そして、
最強少女が、
思ったよりずっと寂しがり屋だということを。
(続く)
